31.第三章.警察犬訓練
「ねぇ、黒音。民間の警察犬訓練のスクールがあるんだけど、サンを連れて行ってみない?」
「別にいいけど、聞く順番が違わないか? サンは寮長の犬だぞ」
「あ」
白奈は一瞬固まると、
「ちょっと聞いてくる!」
と、部屋を飛び出していった。
バタバタと廊下を走る音が聞こえたかと思うと、ものの一分も経たないうちに戻ってくる。
「寮長OKだって!」
「早っ」
「『サンが楽しそうならいいけど、事故だけは気を付けろよ』だって」
「そっか……」
ソファで丸くなっていたサンは、自分の話をされているとも知らず、大きなあくびをした。
私たちは休みの日を利用して、美咲も誘い、サンを連れて訓練所へ向かった。
広いグラウンドでは、何頭もの犬たちが訓練士と一緒に走り回っている。
「わぁ……」
白奈が目を輝かせる。
「本当に警察犬みたい」
「みたいじゃなくて、実際に警察犬訓練をやってるんだろ」
黒音が呆れたように言った。
すると、訓練士の男性がこちらへ歩いてきた。
「今日はまず脚側行進からやってみましょう」
「きゃくそくこうしん?」
白奈が首を傾げる。
「ハンドラーの横について歩く訓練です。警察犬に限らず、服従訓練の基本ですね」
訓練士はサンの頭を優しく撫でた。
「高度な捜索や追跡も、まずは命令を聞けることが大前提ですから」
「なるほど……」
「じゃあ、やってみましょうか」
リードを受け取った白奈は、少し緊張した様子でサンの横に立つ。
「ほら、サン」
歩き出す。
だが、サンは興味津々であちこちを見回しながら前へ進もうとする。
「あっ、待って待って!」
白奈は慌ててリードを引いた。
「止まって! サン、駄目! 動いちゃ!」
「振り回されてるのはあんたじゃない」
黒音のツッコミに、美咲が吹き出した。
訓練が終わり、私たちは休憩スペースのベンチに腰掛けていた。
サンは疲れたのか、美咲の足元でぐったりしている。
「今日はよく頑張ったな」
私が頭を撫でると、サンは気持ちよさそうに目を細めた。
「全然言うこと聞いてなかったけどね」
白奈が苦笑する。
すると、近くを通りかかった訓練士さんが声をかけてきた。
「最初はみんなそんなものですよ」
「そうなんですか?」
「ええ。来週は県警との合同捜索訓練もありますし」
「県警?」
白奈が反応する。
「実際の山岳捜索を想定した訓練です。警察犬も参加しますよ」
「へぇ……」
白奈の目が輝く。
「見学とかできます?」
「事前申請すれば大丈夫ですよ」
訓練士さんは笑いながら答えた。
帰り際。
施設の掲示板に、一枚のポスターが貼られているのが目に入った。
富山県警・災害救助犬協会合同
山岳捜索実習
参加者募集
そのポスターを見つめる白奈の横顔を見ながら、私は小さくため息をついた。
どうせ行く気なんだろうな。




