30.閑話:泥棒騒ぎ
「はい……はい、分かりました。すぐに現場へ向かいます」
私は受話器を置くと、隣のデスクで熱心にスマホのゲーム画面を眺めていた相棒をキッと睨みつけた。
「浜巡査、近くのレジャーランドでご近所トラブルが発生したって。話を聞きに行くよ!」
「はーい、了解でーす……あ、ちょっと待って黒音、今いいところだからぁ」
「待つわけないでしょ! 行くよ!」
私は、渋々立ち上がった白奈を連れてミニパトに乗り込み、現場のレジャーランドへと向かった。
現場に到着すると、そこでは小学生の男の子とその母親、そして、小太りな大学生風の男が激しく言い争っていた。男の子は怯えたようにワンワンと泣いている。
「お巡りさん、交番の渡辺です。いったい、どうされました?」
私が二人の間に割って入るようにして聞くと、小学生の母親が血相を変えて言い出した。
「聞いてください! この男、この子が持っていた Nintendo Switch を無理やり奪い取ったんです!」
すかさず、男が顔を真っ赤にして否定する。
「ふざけんな! 違うだろ! このおばさんとガキが、俺のSwitchを勝手に盗もうとしたから取り返しただけだ!」
「あなたが勝手にこの子を突き飛ばして、Switchをひったくったんでしょ!」
現場となった階段付近のこの場所は、ソファが置いてあって休憩ができるようだが、見回した限り監視カメラは見当たらない。
両方ともバッグを持っており、この場所でバッグからSwitchを取り出したとのことだった。
これでは、たとえ近くの監視カメラを確認できたとしても、どちらが最初からSwitchを持っていたのかまでは判別できないだろう。
「とりあえず、いったん、そのSwitchはこちらで預かります。浜巡査……」
「はーい」
白奈は、男の手から不服そうに差し出されたSwitchを慣れた手つきで預かった。
さて、困った。どちらの所有物か証明する手立てが今すぐには思いつかない……。
私が内心で頭を抱えていると、白奈が唐突に言い出した。
「あれ~? このSwitch、SDカードが入ってるよ。本体はさっき揉み合った時に二人とも触ってるから、両方の指紋がついてるだろうけど……この奥に入ってるちっちゃいカードの指紋を調べたら、最後に差し込んだのが誰か、一発で分かっちゃうよねぇ?」
白奈はそう言って、手元にあるSwitchのスタンドを開き、中から小さなカードを抜き出すジェスチャーをしてみせた。そして、小学生の親子と小太りな大学生風の男に向かって、ニッコリと、どこか意地悪く微笑みかけた。
「あ……」
一瞬で顔面を蒼白にさせたのは、大学生風の男の方だった。泳いだ視線が完全にクロだと物語っている。観念したかと思った次の瞬間、男は慌ててその場から逃げ出そうと駆け出した。
「待ちなさい!」
私は反射的に体を動かし、男の腕を掴んで鮮やかにねじ伏せた。
「とりあえず、交番まで同行願おうか」
こうして、あっさりと犯人が判明した。白奈が「SDカードなんて、普通は一回入れたら滅多に触らないからね~」と、私の耳元で楽しそうに種明かしをしてくれたのは、その直後のことだ。




