27.解決編・縄梯子
大河さんはなおも顔を真っ赤にして、狂ったように叫んだ。
「だったら……だったら、窓から外へ逃げたっていう第三者が犯人の可能性だってあるだろ! 205号室は空き部屋なんだから、そこにずっと隠れていて、親父を殺して逃げたんだ。その可能性が絶対にないなんて言いきれないはずだ!」
往生際が悪く叫ぶ大河さんを、白奈は哀れむような目で見つめた。
「もし犯人が第三者なら、もし犯人が吉田さんなら、もし犯人が大河さんなら、もし殺人ではなく自殺なら…、私は、これら全てを考えた時、第三者も、吉田さんも、大河さんも、不可能だと思った。だってヘッドホンを付けていたって、管理人室のドアは椅子の真横にあるんだよ。誰が犯人でも、山口さんは叫ぶ事ができる。助けを呼ぶ事ができるんだよ。
もし叫ばないとしたらで、自殺の線も考えられたけど、そうすると避難梯子の意味がわからなくなる。 もし私が山口さんで、それを選ぶとしたなら、間違いなく避難梯子ではなく自分の部屋のカギを開ける。
みんなが寝静まった後に出て行ったの方が計画的に自然だから。」
「避難梯子を出した理由は、第三者が逃げたと印象を強めたいから、管理人室の鍵と玄関の鍵が空いていただけだと、内部の人間の犯行の印象も捨てきれないもんね」
白奈はそこで一度言葉を区切り、大河さんを真っ直ぐに指差した。
「そう考えた時、唯一山口さんが叫べない方法があるとしたら、それは、椅子の『真後ろ』にある押し入れからなら可能だと……あらかじめ作っておいた天井裏の隠し通路から、こっそり背後に降りてくれば、ヘッドホンをしてテレビに集中しているおじさんは絶対に気づけない。いきなり後ろから口を塞がれ、心臓を刺されれば、悲鳴を上げることすらできずに事切れてしまう。……こんな犯行が可能だったのは、天井裏の仕掛けを知っていて、隣の201号室にいたあなたしかいないんだよ」
「くっ……!」
言葉に詰まる大河さんに、私は一歩踏み出し、すかさず容赦ない補足を入れた。
「白奈の推理が正しいかどうかは、これから来る鑑識が証明してくれるわ、大河さん。あの縄梯子が本当に逃走に使われたのなら、“使ったのは私だけではない”という証拠が必ず出るはずよ」
「……何だと?」
「あの梯子は犯人の逃走経路、つまり重要な証拠品になり得るわ。だから私はさっき、自分が上った時に触れた部分以外を絶対に荒らしたくなくて、降りる時はわざわざ数メートル上の位置から地面へ飛び降りたの」
警察学校での厳しい訓練の記憶、そして現場保存を最優先する警察官としての判断。それが今、大河さんを追い詰める最後のピースとなった。
「もし本当に外部の人間が縄梯子を使って逃げたのだとしたら、私の痕跡以外に、もう一つ別の、上り下りした痕跡――衣服の繊維や靴の泥、縄が擦れた跡が残っているはず。逆に、私のものしか検出されなければ――それは“誰もあの梯子で逃げていない”という決定的な証明になるわ」
私の冷徹な宣告が、トドメとなった。
大河さんは口を死魚のように開閉させたが、もう反論の言葉は一言も出てこなかった。
額から流れる大量の冷や汗が、ぽたぽたと地面を濡らす。
やがて、糸が切れた人形のように大河さんはその場に力なく膝をついた。
――大河さんは、完全に観念したようだった。




