23.犯人
「――白奈、すぐに110番通報して! 山口さんは胸を刺されて、事切れている!」
窓枠に手をかけ、大樹さんの部屋に入って脈を取るべきか一瞬迷ったが、私は思いとどまった。
あの床の血の量をみる限り、その必要は無い、そう判断した。
となると下手に侵入すれば現場を荒らしてしまう。警察官として、まずは現場保存が最優先だ。
私は数段ほど縄梯子を駆け下り、そのまま地面へと飛び降りた。
着地の衝撃を逃がしながら顔を上げると、白奈はスマートフォンを握りしめたまま呆然と固まっていた。
「白奈、110番通報は……まだしていないようね」
焦りから、私は自分のポケットからスマートフォンを取り出そうとした。
その時、白奈が鋭い声で引き止めてきた。
「ちょっと待って、黒音。山口さんは、どんな感じで亡くなってたの?」
「どうって……デスクの椅子に深くもたれかかった状態で、胸にナイフが突き刺さって、のけ反るようになっていたわ」
「その時、おじさん、ヘッドフォンしてなかった?」
言われて、ハッとした。薄暗い部屋の記憶が鮮明に蘇る。
「あぁ……ごついヘッドフォンが落ちていたわ。
……でも、なんで白奈がそれを知っているの?」
私が問い詰めようとした、その時だった。
「おい! 朝から何があったんだよ!」
宿の玄関から、大河さんと美咲が血相を変えてこちらへ駆け寄ってきた。
状況が呑み込めず狼狽する大河さんを、白奈は一歩も引かない真っ直ぐな瞳で見つめ返した。普段のふにゃふにゃとした幼さは完全に消え去り、そこにあるのは鋭利な刃物のような、探偵の目だった。
白奈はゆっくりと手を挙げ、人差し指を大河さんに突きつけた。
「大河さん。……なんで、お父さんを殺したの?」
「な、何言ってるんだよ白奈ちゃん! どうして大河くんがそんなこと……!」
美咲が慌てて大河さんを庇うように前に出る。大河自身も顔をわなわなと震わせ、うろたえていた。
「何がだい、どうして、そうなるんだよ……っ!」




