22.避難梯子
朝6時。いつものサンとの散歩の時間に、私の目は自然と醒めた。体内に染み付いた警察官としての習性だろう。
身支度を整えようと部屋を出ると、驚いたことに隣の部屋から白奈も同時に出てきた。
二人して二階の共同洗面台で顔を洗っていると、下から慌ただしい足音が響き、一階から階段を駆け上がってきた家政婦の吉田さんと鉢合わせた。吉田さんの顔は真っ青で、酷くそわそわしている。
「吉田さん、どうかしたんですか?」
私が声をかけると、吉田さんは私の腕を掴まんばかりの勢いで詰め寄ってきた。
「あ、あの、朝食を作りに今さっき出勤してきたんですけど……外から見たら、二階の管理人室の窓から、避難用の縄梯子が外へ垂れ下がっていて……!」
「な、何だって……!?」
各部屋の押し入れに備え付けられている、あの緊急用の縄梯子だ。それがなぜ、管理人室の窓から外へ出されているのか。
私と白奈は顔を見合わせ、すぐさま廊下の突き当たりにある管理人室へと走った。
ドンドンドンドン!
「山口さん! 山口大樹さん、開けてください!」
激しくドアを叩く私の声が響き渡り、その騒がしさに201号室から大河さんが、204号室から美咲が、眠そうな目を擦りながら飛び出してきた。
「朝から何なんだよ、黒音ちゃん……」
鍵がかかっていて扉はびくともしない。私は一刻を争うと判断し、「外から回る!」と叫んで一階へと駆け下りた。
宿の外へ飛び出すと、確かに二階の管理人室の窓から、地面に向けて縄梯子がだらりと垂れ下がっている。
私は迷わずその梯子に手をかけ、一段ずつ素早くよじ登った。警察学校での訓練が、自然と身体を動かす。
たどり着いた窓から、薄暗い管理人室の中を覗き込む。
「……っ!」
窓越しに映ったその光景に、私は息を呑んだ。
部屋の奥、デスクの椅子に深くもたれかかり、天井を仰ぐようにして完全に事切れている山口大樹さんの姿。
床には、大量の血と、ヘッドフォン、そして、
その胸元には、凶悪なほど深く、一本のナイフが突き刺さっていた――。




