20.帰宅
お菓子も買ったし、そろそろ帰ろうか。
夜の帳が下りた田舎道を歩きながら、美咲がふと足を止め、暗闇にぽつんと佇む建物を指さした。
「あれって、私たちが泊まってる大河くんの家?」
見上げた民宿の二階、その一番左端にある管理人室だけに、ぽつりと電気が点いている。
「そうだよ。親父、まだ起きてるみたいだな」
大河が少し目を細めて答える。
「でも、なんで、お父さん一緒にご飯食べなかったんだろう…」
ふと、疑問を投げかけた。
「親父は民宿の管理人だからね。僕が友達を連れてきたとしても、お客様として扱うから一緒に食事はとらない。……そういう人なんだ」
「ふーん、ここからでも綺麗に見えるんだね」
白奈がそんなのんきな声を上げながら、3人は楽しげに帰路に就いた。
それから、暫くして――。
◇
画面の中で短い足を一生懸命に動かすハスキー犬の愛くるしさに、私が完全にノックアウトされていた、その時だった。
ガラガラ、と玄関の引き戸が開く音がして、買い出しに出かけていた3人が賑やかにロビーに戻ってきた。
「ただいまー! 黒音、お菓子いっぱい買ってき……って、何観てんの?」
「ひゃっ……!?」
完全に油断していた。プロジェクターの大画面には、ドアップで映し出された子犬の肉球。そして私の顔は、おそらくデレデレに緩みきっていたに違いない。
白奈は「あ~あ、またやってるよ」と言わんばかりにニヤニヤしているが、問題は初対面の大河さんと、同期の美咲だ。
「ち、違うの! これは、その……富山県警の警察犬の、訓練の参考資料としてだな……っ!」
「え~? どう見てもただの癒やし動画じゃん。黒音ちゃん、顔真っ赤だよぉ」
白奈の容赦ないツッコミに、美咲が「黒音、意外と可愛いところあるのね」とクスクス笑い、大河さんも「警察官の方も、やっぱりプライベートでは癒やしが必要ですよね」と優しくフォロー(?)を入れてくる。それが余計に恥ずかしい。
ひとしきり私をからかって満足したのか、みんな一度、着替えのためにそれぞれの部屋へ戻ることになった。大河さんと白奈は宿に備え付けの浴衣に、美咲は持参したパジャマに着替えるため、二階へと上がっていく。
二階へ上がって数分後、最初に下りてきたのは美咲だった。
彼女は買い出しの時に着た私服からそのままパジャマに着直すだけなので、一番早かったのだ。
それから少し遅れて、浴衣姿の白奈が下りてきた。
慣れない宿の浴衣の帯に少し苦戦していたようで、心なしか帯の位置が不恰好だ。
もうしばらく経ってから、ようやく大河さんがロビーに姿を現した。
「せっかくプロジェクターもあることだし、Huluで何か映画でも観ない?」




