19.近くのスーパー
食事を終えてロビーで談笑していると、大河が時計を見ながら言った。
「この付近の店って、夜9時にはもう閉まっちゃうんだよね。今8時40分、まだ近くのスーパーなら間に合うけど、お菓子の買い出しに行かない?」
その問いに、バッグパンパン派である私と美咲は顔を見合わせた。私たちはすでに、持参したお気に入りのパジャマに着替えてしまっている。
「私たちはパス。もうパジャマになっちゃったし、お腹もいっぱいだから」
私が答えると、白奈が「えーっ!」と声を上げた。
「行こうよ、お菓子選びたい! 黒音か美咲、せめてどっちか付いてきてよ。私と大河くんの二人きりなんて、絶対『沈黙の空間』になるじゃない!」
「……失礼だな、白奈ちゃん。でも、せっかくなら皆で行きたいけどね」
大河が苦笑いしながら、なおも未練がましそうにこちらを視線で促してくる。
正直に言おう。私は、しつこい男が嫌いだ。
「……」
ついに我慢できなくなり、私は大河をキッと正面から睨みつけた。私の冷ややかな視線に、大河が微かに息を呑む。
私がこういう手合いを最も嫌うことを、誰よりもよく分かっているのが白奈だ。空気が凍りつく前に、相棒が慌てた様子で間に入ってきた。
「あ、黒音ちゃんはいいから! ほら、大河くん、美咲ちゃん、置いてっちゃうよ。行こう!」
白奈はそう言って、急かすように2人の背中を押し、玄関へと向かっていく。
根が優しい美咲が「わかったわよ、付き合うわよ……」と、わざわざ着替えて同行することになり、私は一足お先に、一人でお留守番となった。
三人がスーパーへ出かけてしまい、広い一階ロビーには私一人だけが残された。
さっきまでみんなで観ていたサンの動画が終わり、自動的にホーム画面へと戻ったプロジェクターは、無音のまま淡い光を壁に映し出している。
建物の古さゆえか、それとも山あいの静寂のせいか、かすかな建物の「軋み」が妙に耳に届く。
――ギィ、と二階のほうで床が鳴る音がした。
誰? と思ったが、この家に残っているのはあと一人しかいない。大樹さんだ。
そっと階段のふもとまで行って上を覗き込むと、頭上からバタン、と扉の閉まる音が響いた。
階段を上がってすぐの場所にある、共同トイレの扉だ。
なんだ、大樹さんがトイレに起きてきただけか。
妙な緊張感を一人で気恥ずかしく思いながら、私はプロジェクターの画面を操作した。
今度はシベリアンハスキーの動画を再生し、存分にキュン死することにした。




