16.民宿先
「その角を右に曲がると、すぐに見えてくるよ」
大河の案内に従って角を曲がると、一本道の先にその建物が姿を現した。
車から降りると、そこには「民宿」という響きから連想していた木造の古民家とは一線を画す、無機質な鉄筋の塊が鎮座していた。 初夏の眩しい緑の中に、その建物だけが時代に取り残されたような、不思議な威圧感を放っている。
「……なんか、ちょっとした合宿所みたいね」
建物の全景を見上げながら、白奈がポツリと独り言を漏らす。 美咲はといえば、運転の疲れも忘れた様子で「大河くん、ここが本当に大河くんの家(民宿)なの……?」と目を丸くしていた。
「あはは、普通の富山の実家ってこんなもんじゃない?」
大河が照れくさそうに頭を掻き、入り口の方へ歩き出す。 その後ろ姿を追いかけようとした時、ふと、二階の窓の一つに人影が見えたような気がして、私は足を止めた。
(……誰かいた? 山口さんのお父さんかな。女性を三人も連れてきたから、気になって覗いていたのかしら……)
「民宿・山口」と書かれた、重厚なアルミの引き戸。
「おーい、父さん! 連れてきたよ!」
大河の声が静かな山あいに響き、引き戸がガラガラと音を立てて開く。 中から出てきたのは、日に焼けた顔に深い皺を刻んだ、大河によく似た面差しの実直そうな年配の男性だった。
「おお、よく来たな。大河から聞いてるぞ、警察学校の……」
「あ、友達です! 友達!」
美咲が食い気味に挨拶を被せる。 相変わらずの慌てっぷりに、白奈が私の肩を小突き、「ほら、やっぱり外堀案件じゃない」と楽しげに囁いた。
大河の家族紹介が始まった。といっても、この広い家に住んでいる家族は父親だけのようだ。
「こちらは、俺の父」
「どうも。父親の大樹です」
日に焼けた顔の父親が短く挨拶する。続けて、傍らに控えていた女性を紹介した。
「そして、家政婦の吉田さん」
「吉田です。家事は基本的に私が担当しておりますので、何かありましたらお気軽にお声がけください」
私たちは軽く挨拶を済ませる。ふと見ると、美咲は緊張で肩が上がりっぱなしだ。対照的に、白奈は興味津々といった様子で館内を見渡している。




