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黒音と白奈  作者: オレオレ!
第2章

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14/22

14.閑話:第2章前のキャラクター紹介的な夢の話

パトカーのフロントガラス越しに、富山の高い青空が広がっている。


午後の巡回ルート。のどかな田んぼ道を法定速度で走らせながら、私はふと、助手席でめずらしく静かに外を眺めている相棒へ声をかけた。


「……ねえ、浜。あんたってさ、小さい頃、何になりたかったの?」


「え? なに急に」


白奈がシートに背中を預けたまま、不思議そうにこちらを振り向く。


「別に、なんとなくよ。私はね、小さい頃に白バイ隊員を見てさ。ああいう風になりたかったの。だから訓練も嫌いじゃなかったし、今もこうして警官をやってる」


ハンドルを握る手に少しだけ力を込めながら言うと、白奈は「へぇ、黒音っぽいねぇ」と小さく笑った。


けれど、すぐにまた窓の外へ視線を戻す。


白奈はぼんやりと外を眺めていた。

歩道では、小さな子どもが犬の散歩をしている。


「私はね……特になかったよ。ただ推理小説を読むのが好きで、なんとなく警察学校に入って、なんとなく卒業しちゃっただけ。だからさ、いざ本物の警察官になって、事件を解決したり感謝状をもらったりしても……時々、分かんなくなっちゃうんだよね」


「分かんないって、何がよ」


「自分は、本当は何がしたいんだろう、って」


ぽつりと落ちた声は、いつもの軽薄さが消えていて、少しだけ寂しそうだった。


地頭が良くて、事件の核心を突く天才的なロジックを持っているのに、彼女には「このために警察官でいる」という明確な芯がまだない。


迷子みたいな横顔を見て、私は胸の奥が少しだけざわついた。


「……だったらさ」


赤信号でパトカーを止め、私は白奈の顔をまっすぐ見た。


直轄警察犬訓練士ハンドラーってどう?」


「え? 警察犬?」


「そう。あんた、大の犬好きでしょ? 寮のサンとも毎日のようにイチャイチャしてるじゃない。警察犬訓練士になれば、犬の優れた嗅覚や能力を相棒にして、事件の捜査ができるのよ」


「犬と一緒に、捜査……」


白奈の目が、みるみるうちに輝き出す。


大好きな推理小説みたいな捜査を、大好きな犬と一緒にできる。彼女の頭の中で、バラバラだったピースが一気に噛み合っていくのが分かった。


「それ! それ最高じゃん、黒音! 私、それやりたい! 犬の相棒なんて、ミステリーの主人公みたいでめちゃくちゃ格好いい!」


「でしょ? まあ、私は毎日優秀なワンちゃんを、お給料もらいながらモフれるっていう下心もあるんだけど」


「なにそれ、動機が不純すぎる」


「うるさいわね。……で、どう? 一緒に目指してみない?」


「うん! 目指す目指す!」


さっきまで迷子みたいだった横顔が、今は子どもみたいに輝いていた。


その後の巡回中、白奈は「警察犬ってやっぱシェパードかなぁ」「名前どうしようかなぁ」などと、すっかりその気になっていた。


――しかし、世の中そんなに甘くはなかった。


その日の夕方。


交番に戻ってから警察犬訓練士の募集要項を調べていた私は、画面に表示された非情な現実に絶句した。


「……嘘でしょ……」


「どうしたの、黒音? パソコン睨みつけて怖い顔して」


書類を運んできた白奈が、私の肩越しに画面を覗き込む。


私は力なくマウスを握ったまま、募集要項を指差した。


「直轄警察犬訓練士って……もの凄く狭き門なのよ。各県警に数人しか枠がなくて、しかも『現役の訓練士に欠員が出ない限り、新規募集は行わない』って……」


「えっ、じゃあ今満員だったら、試験すら受けられないの?」


「そういうこと。今年は募集そのものが無いみたい……」


一気に突き落とされた気分だった。


せっかく見つけた目標なのに、努力するためのスタートラインにすら立たせてもらえないなんて。


私はがっくり肩を落とした。


白奈もきっと落ち込んでいるだろう――そう思って隣を見る。


だが、白奈はショックを受けるどころか、画面をじっと見つめたまま、ふっと不敵に笑った。


「……なんだ。空きがないなら、作ればいいだけじゃん」


「はぁ!? あんた何物騒なこと言ってるのよ! 席を空けるために先輩をどうにかする気!?」


「ちがうよ! 黒音はすぐ大声出すんだから!」


白奈は呆れたように首を振ると、胸を張った。


「そうじゃなくて。枠が数人しかないなら、私たちが圧倒的な成績を残して、上の人たちに『この二人を入れないのは県警の損失だ!』って言わせればいいだけでしょ?」


「浜……」


「推理小説でもね、前例がないなら、自分が最初の一歩になればいいって決まってるの」


私は目を見開いた。


真面目すぎる私の頭では、「募集がない=諦める」という選択肢しか浮かばなかった。


だけど、この不真面目で、怠け者で、天才的な相棒は、壁の高さなんて最初から気にしていない。


見方を変えるとは、こういうことか。


やっぱり、あんたには敵わない。


「……何よ、簡単に言ってくれるわね」


熱くなった目元をごまかすように、私はふいっと顔を背けた。


「うるさいわね。ほら、書類片付けるわよ」


「えぇー!? 夢とか語ったあとに現実ー!?」


交番の中に白奈の情けない声が響く。


でも私は少しだけ嬉しくて、窓の外の夕焼けを見た。

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