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黒音と白奈  作者: オレオレ!
第1章

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13/28

13.エピローグ

数日後。


事件は、村上拓海の自供によって全容が解明された。



呉羽PAのトリックは白奈の推測どおり、新たにわかったことと言えば


村上は、社用車を返しに会社に行ったあと、同じく会社所有の軽トラを利用し


ジャイロを回収していたことぐらいであった。




借金に窮した村上が、呉羽PAの通用路を利用して「高速道路に車を置き去りにする」ことで完璧な


アリバイを作り上げたトリックは、白奈の突飛な発想がなければ見破れなかっただろう。




私たちは、いつもの喫茶店のテーブルを囲んでいた。




「……はい、これ。今回の『特別ボーナス』だ」




本田先輩が苦笑いしながら置いたのは、ケーキセットの追加注文票ではなく、


警察署長からの感謝状――の、写しだった。本物は後日、正式に授与されるらしい。




「えへへ、感謝状なんて警察学校の卒業式以来だよぉ」


白奈は、運ばれてきたばかりのモンブランを頬張りながら、嬉しそうに鼻を鳴らす。




「あんたは、運が良かっただけよ。あんな危ない真似して……」


私は溜息をつきながら、手元の資料を整理する。


結局、村上を投げ飛ばした際、白奈が泥だらけになったせいで、


彼女の制服はクリーニング行きになった。その費用も、なぜか私が立て替えている。




「でもさ、黒音ちゃん。あの一本背負い、すごかったね。村上、空中で一回転してたよ」


「……普通よ。毎日、道場で打ち込みをしていれば誰だってできるわ」




「ううん、できないよ。あんなに迷いなく踏み込めるのは、


黒音がずっと『準備』していたからでしょ?」




白奈が、フォークを止めて真っ直ぐに私を見た。


いつもはおちゃらけている彼女の瞳に、少しだけ真剣な色が混じる。




「私はさ、適当に思いつくだけ。でも、それを形にして、犯人の前に立ちはだかったのは黒音だよ。


やっぱり黒音は、私の自慢の同期だね!」




「……っ、食べなさいよ。ケーキ、溶けるわよ」


熱くなった顔を隠すように、私はコーヒーを口に含んだ。


苦いはずのブレンドが、今日は少しだけ甘く感じられた。







翌朝。


私たちは、いつも通りサンの散歩をしていた。




「あ、見て黒音! 今日のサン、尻尾の振り方が右に三回、左に二回の黄金リズムだよ。


これは今日はいいことあるね!」


「……そんなの、ただの偶然でしょ。ほら、ちゃんと前見て歩きなさい」




白奈は相変わらずだ。


漢字は書けないし、向上心も怪しい。


きっと明日も、巡回日誌の誤字を私が直すことになるのだろう。




私は彼女が嫌いだ。


自分の物差しでは計れない「何か」を持っていて、私の積み上げた努力を、いとも簡単に追い越していくから。




けれど――。




リードを引く私の隣で、鼻歌を歌いながら歩く彼女の横顔を見る。


私が立ち止まった時、違う景色を見せてくれるのは、きっとこの不真面目な相棒なのだ。




「……白奈」


「なーに?」


「……今度の昇任試験、あんたが合格するまで付き合ってあげるわよ。


カンニングペーパーじゃなくて、ちゃんと脳みそに叩き込みなさい」



「えぇーっ! それ、一番厳しいやつじゃん! 勘弁してよぉ!」



朝の澄んだ空気の中に、白奈の情けない叫び声が響く。


サンが楽しそうにワン、と吠えた。



私たちの日常は、またここから始まる。



(第一部 完)

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