11.可能性
「……という可能性はないか、と。浜巡査と現場周辺を確認して、そう結論づけました」
翌朝、署に出勤するなり私は本田先輩の携帯を鳴らした。
電話越しに、先輩が小さく舌を巻く音が聞こえる。
「呉羽PAの通用路……。盲点だったな」
「時田のアリバイもまだ崩せてはないけど、これで村上の線も消えずに残った。
あとは地道に足跡を洗うだけです。……助かったよ、黒音、白奈」
電話を切ると、隣のデスクで白奈がだらしなく欠伸をしていた。
◇
数日後。
地道な足跡捜査が、ついに決定的な証拠を掴んだ。
呉羽PA付近から被害者宅へ続くルート。
その街角に設置された防犯カメラの一台が、
深夜の住宅街を音もなく走り抜ける三輪バイクのシルエットを鮮明に捕らえていたのだ。
「……村上拓海。間違いない、コイツだ!」
捜査本部に激震が走る。
直ちに警部たちが村上の自宅へ向かった。
だが――あと一歩のところで村上は捜査網を潜り抜け、
愛車のジャイロに飛び乗って姿を消した。
――その直後。
巡回中のパトカーの車内に、耳をつんざくような無線の怒声が響き渡った。
『各局、各局。富山西署から緊急手配。殺人事件の被疑者、村上拓海が逃走中。
被疑者はボウガンを所持。三輪バイクを使用し、〇〇方面から〇〇方面へ向かった模様。
付近の車両は警戒に当たれ』
私の指先が、ハンドルを握る力が、無意識に強まる。
「……黒音ちゃん。これ、村上だよね」
隣で白奈の声が、これまでにないほど低く、緊張に震えていた。
◇
見つけた。
遥か先、夕闇に沈みかけた細い農道を、三輪バイクが砂煙を上げて猛然と走っている。
ジャイロは50cc。せいぜい時速60キロが限界だ。
だが村上は、パトカーが進入できないような、
トラクターがようやく一台通れるほどの極細の農道へ逃げ込んだ。
「私たちの位置からなら、農道の出口に先回りできる。行くわよ。 白奈、しっかり掴まって!」
私はアクセルを踏み込んだ。
パトカーのエンジンが、静かな田園地帯に不釣り合いな咆哮を上げる。
進路を変更し、村上の進路と交差する地点へ。
私は車体を真横に滑らせ、路面を塞ぐように停車させた。
キィィィッ!
悲鳴のようなブレーキ音とともに、ジャイロが私たちの鼻先で止まる。
「降りなさい、村上拓海!」
私はドアを蹴り開けて外に出た。
村上は狂乱した目でこちらを睨み、
ジャイロの荷台から「それ」を引っ張り出した。
組み立て済みの鋭利な矢が番えられた、黒いボウガン。
「ひっ……!」
隣で、白奈が私の背中にしがみつくようにして隠れる。
銃口ならぬ「矢先」が、まっすぐに私の眉間を捉えていた。




