第四十五話 ゴーレムの倒し方
「お前には元の、ドナの記憶があるはずだ」
「はい、創造主様がそうお造りになりました」
「なぜこの城を襲った?」
「兵団はウテメの街でドラゴンの調査を行っていました。町の住民に魔王城からドラゴンが飛び立つのを見たものが居ました。創造主様達を襲ったのではなく、廃墟となった城を根城にしているだろうドラゴンを攻撃するのが目的でした」
アレナが淀みなくすらすらと答えた。
レッドが王都と魔王城を往復していた姿を見られたらしい。
城に居る使用人の存在に気づかれなかったのは不幸中の幸いか。
改築を進めているとはいえ、外から見た魔王城は50年間誰の手も入っていない朽ち果てた状態だ。
ここに人間が暮らしているなんて想像できないだろう。
「兵士はこれで全部か?」
「いえ、一人偵察が居ます。おそらく壊滅を悟った時点で王都に馬で知らせに行っているでしょう」
ドラゴンが魔王城に居ること、それ以外にも俺やリリスの事が王都まで伝わったら厄介だな。
50年前に居なくなったはずの魔族と、出回っていないはずの竜の牙の杖を武器にする魔法使い。
俺が評議会の連中なら、全戦力でこの城に攻める。
「ゴーレムも、大砲も、俺が知っている物より進化している」
王都の兵団と戦っても負ける気はしないが、万が一ってこともある。
俺が知っている銃の飛距離は200mで、今はその5倍飛ぶんだ。
想像も出来ないような兵器があるかもしれない。
「偵察は馬に乗って王都に向かってるのか」
「はい」
「そいつの顔と名前を教えてくれ」
「名前はジョン、赤毛の若い男です」
馬、馬か。
レッドで追いかけるよりは小回りのきくリリスと飛んで追いかけた方がいいな。
リリスの方へ目をやる。
ゴーレムとの決着はまだ付いていないようだ。
リリスの爪とゴーレムの腕がぶつかり、爆音が響いた。
「アハハハ! やりおるの!」
楽しんでるな。
甲高い声で笑いながらリリスは爪を振り回している。
裂けた口から生えた牙、身長と同じくらいに伸びた爪も、子供が人形と戯れていると思えば可愛いもんだ。
邪魔するのは不本意だが、早く追いかけないとまずい。
「リリス、離れろ」
聞いたリリスが後ろに飛びのき、ゴーレムから距離を取った。
杖を両手で持ち構え、詠唱する。
「《氷による悪寒、氷による凍結、氷による静寂を身を切り刻み付けよ。フロストスタンプ》」
空中に現れた氷の柱がゴーレムに突き刺さった。
柱はそのまま地面に刺さり、ゴーレムの動きを止めた。
氷の柱が刺さった場所からゴーレムが凍っていき、段々と抵抗が弱まっていく。
「ゴーレムは倒し方がある」
「倒し方とな?」
俺は動きが止まったゴーレムに近づき、頭部に上った。
そこには白い羊皮紙がある。
ゴーレムを倒す方法は、術者の契約が書かれた羊皮紙を破り捨てることだった。
土で出来たゴーレムは、これがある限り、半身が吹き飛ぼうが再生して暴れる。
羊皮紙を剥がしてそれを細かく裂くと、凍ったゴーレムが形を失い、ただの土となった。
氷と土の固まりが小さな山となった。
「終わってしもうたか。人間の魔法にしては楽しめたぞ」
爪と牙をしまったリリスが頭の後ろで手を組んで言った。
ゆっくりと地上に降りてくる。
「賢者、あれ食べて良いか?」
リリスが赤い死体の山を指さして言った。
「まだダメだ」
「またお預けかえ」
唇を突き出してリリスが抗議する。
「悪いな」
リリスを宥め、今から偵察のジョンを追うと伝えた。
「アンジュ、また誰か来たら教えてくれ。襲われたらレッドと一緒に殺しとけ」
「分かりました!」
「リリス、俺を背中に乗せて飛べるか?」
「背中は無理じゃ。翼を動かさねばならんからの」
レッドに乗るようにして飛べないかと思ったんだが無理らしい。
背に乗るのも気が向かないが、見た目は幼い少女のリリスに抱えあげられるのは更に気が進まない。
だが背に腹は代えられない。
苦々しく思いながら、
「じゃあ抱えて飛んでくれ」
といった。
◇
「どこにいるのかは分かるのかえ?」
「ウテメの街から王都までの道を辿る」
俺はリリスに抱えられて空を飛んでいる。
胸の当りを掴まれて手足は支えなくぶら下がっている。
ドラゴンの背に乗るのと違い、地上の風景が遮るものなく良く見えた。
ぶら下がり風に揺れる手足の感覚が楽しい。
風に吹かれて揺れる葉っぱはこんな気分だろうか。
真っ黒な翼が風を切る音が聞こえる。
レッドの背に乗るよりも遅く移動している今は、魔法を使わなくても会話が出来た。
「偵察の奴は赤毛で、ジョンって名前らしい。白い軍服を着て、茶色い鹿毛の馬に乗ってる」
「わらわは王都までの道は分からんぞ」
「それは案内するさ」
リリスに方角で指示を出す。
魔王城を兵士に襲われてから三時間ほどしか経っていない。
まだ遠くには行っていないだろう。
「しかし賢者、軽いの! もっと食べた方が良いぞ」
抱えた俺を、リリスがたわむれに振り回した。
一瞬、ふわりと体の重さを感じなくなった。
「止めろ。お前が食いすぎなんだ」
一回転して見失った道を捜しながら俺は言った。




