第四十四話 岩の巨人
無骨な石から半分木の板が生えた、
作りかけの机を放りだして、音がした外に走った。
土人形の使用人達は音に反応せず、何事もなかったかのように作業をしている。
今も聞こえてくる爆音がなければ、勘違いかと思うほどだ。
二階にある玄関から飛び降りる。
城の近くで黒煙が上がっているのが見えた。
「リリス!」
「賢者! 人間が……人間共が攻めてきおったぞ!」
リリスは翼を広げ座り込んでいた。
城に向けて撃たれた大砲の弾を翼で弾いたらしい。
片翼からは真っ黒な血が流れていた。
「大砲、用意!」
ウテメの街に来ていた白い軍服の集団が魔王城の前に大砲を並べている。
人数は30人程だ。
「何だ、あいつら……」
ドラゴンの調査のついでに魔王城に砲撃するとは、いい度胸だな。
「リリス、あいつら全員焼き払うぞ」
リリスの翼を治療しながら言った。
リリスの額からは角が生え、口からは大きな牙が生えている。
戦闘準備は万端だ。
「丁度片付けばかりで飽いておったところじゃ。賢者、死体は食っても良いか?」
「全部終わったらな。やりたいことがある。死体は食わずに置いておいとけ」
「生きたまま丸飲みにするのが一番うまいんじゃが、しょうがないの」
了解した、と答えたリリスが翼を大きく広げ、上空に舞った。
「賢者さん、一体何が!?」
俺から少し遅れてアンジュが城の中から出てきた。
「城の兵団が砲撃を仕掛けてきた」
「そんな、何で……?」
「分かんねえ。全員殺して、土人形にする。記憶が残る土人形から話を聞けばいい」
「分かりました!」
俺たちはリリスを追って列になって大砲を撃つ兵団の元へ向かった。
◇
「アハハハハ! 逃げ惑え人間共!」
リリスが空から魔法弾を放っている。
「これは、リリスちゃん一人で倒せちゃうんじゃないですか?」
リリスの弾に焼かれ、半焦げの死体となった兵士を見てアンジュが言った。
「戦い方が派手だな」
背後に五つの魔法陣を展開させ、そこから赤く燃える魔法弾を撃っている。
魔法陣は弾より少し色の薄い緋色に光って空に浮いている。
傍から見ると煌びやかなその様は、アリスのライブで見た舞台装置の演出の様だった。
「怯むな!」
剣を持った兵士長らしき男が、リリスの攻撃にたじろぐ兵に檄を飛ばした。
兵団の中には魔法が使える者もいるらしい。
大砲が二つ並んだその後ろから、杖を持った兵士がリリスに向かって火の弾を撃っている。
「アンジュ、死体を傷つかない場所に運んでくれ。このままじゃリリスが跡形もなく燃やし尽くしちまう」
「アイアイサー!」
土人形を作る時は、頭で対象を隅々まで想像しないといけない。
もちろん漠然と男、女、とだけ指定して作ることも出来るが、それだと誰にも似せることが出来ない。
フムスの様に似せたい相手がいる場合は、そいつを見ながら作った方がいい。
声は想像で補うしかないが、死体を見ながら兵士の土人形を作るつもりだった。
死体が丸焦げになるのは困る。
「さあ、俺もやるか」
杖を魔力で覆い大剣を作る。
リリスの弾を避けながらまだ生きている兵士に向かって剣を振り下ろした。
「《頑強なる土、剛直なる土、憤然なる土。岩石よ脈動せよ、ゴーレム》」
弾撃には加わらずに最も後ろで詠唱をしていた兵士が長い呪文を言い終えた。
「厄介なもん残してくれたな」
そういって呪文を言い切った兵士も切り伏せた。
仲間が次々に殺される中逃げずに魔法を発動させた度胸はすげえな。
30人余りの兵団が全滅した後、兵士の血を吸った地面が盛り上がり、岩の巨人、ゴーレムが現れた。
◇
「ほう、少しは楽しめそうじゃの」
リリスが舌なめずりをしてゴーレムと向き合う。
「リリス、いけそうか?」
「舐めて貰っては困るの。賢者は何もせずに眺めておればよいぞ」
リリスとゴーレムの戦闘が始まった。
リリスの撃つ魔法弾をもろに食らったゴーレムが緩慢な動作で一歩下がった。
リリスが言うなら、任せておくか。
俺はアンジュが集めた死体に目をやった。
一刻も早くなぜこいつらが魔王城に侵略してきたか知りたい。
「任せるぜ。やばくなったら言えよ」
兵士の死体で山ができでいる。
元は白かった軍服が、流れ出た血液で真っ赤に染まっていた。
「これで全員分です!」
アンジュが担いでいた死体を山に積んだ。
山の一番上にあった、比較的損傷の少ない死体を地面に下ろす。
若い女だ。
大砲を撃っていたから魔法使いではないのだろう。
力なく転がった死体を観察し、頭の中の見た目のイメージを固める。
死体から髪の毛を切り取り、地面に撒いた。
土に向かって呪文を唱える。
「《審理に問う、我、命を望む。黒き土より生ずる白き肉、赤き血、青き魂を望む》」
ゴーレムが出てきたのと同じように地面が盛り上がり、土がだんだんと人の形を作っていく。
現れたのは、茶色い巻き毛にそばかすの、引き締まった体つきの女だった。
「はじめまして創造主様。お会いできたことを感謝します」
「名前は?」
「わたくしの名前はございません。元となった体は、ドナと呼ばれていました」
「分かった。お前は今からアレナだ」
ありがとうございます、とアレナが頭を下げた。
このやりとりも慣れて来たな。




