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第四十三話 見つからない白蛇

 話している内に食堂についた。

 ここも前より片付いている。


 辛うじて板が乗っているだけだった、腐りかけの黒檀の机の上に、木の板が置かれ、その上をテーブルクロスが覆っている。

 後ろを歩いていたテラが静かに前に出てテーブルの下にあった椅子を引いた。


 ボロボロの椅子が丁寧に扱われたことで少し元の輝きを取り戻したように見える。


「机も椅子も、新しいのを作らないとな」


 買ってもいいが、街から大きな家具を運びだすよりもここで石か木から作ってしまった方が早いだろう。


 リリスが壊れかけの椅子に気にせずに座った。


「賢者、王都はどうじゃった? わらわ達が占領するに相応しい場所であったか?」


 机の上に両手を投げ出し、リリスが言った。


 アンジュも椅子に座り、リリスに買ってきたお土産を取り出している。


「ああ、えらく派手になってた」


 これは心からの感想だ。

 50年前よりも王都は煌びやかになっていた。


 生まれ故郷になんの思い入れも無いと思っていたが、知らない内に変化している事に、ほんの少し侘しさがあった。


「リリスちゃん、王都のお菓子ですよ! 今度は一緒に行きましょうね!」


「わあ! うまそうな菓子じゃ!」 


 リリスがはしゃいで菓子を手に取り頬張った。


 土産として買ったのはビスケットらしい。

 丸い生地に王都レクスの頭文字、“L”が印字されている。


「賢者、次はいつ王都に行くのじゃ? わらわも連れて行ってたもれ」


「そのうちな」


 リリスを王都に連れて行くときは、俺が王都の権力を握るときだろう。

 王都を掌握出来れば、もう魔王城の調査を気にする必要も、ドラゴンを隠す必要も無くなる。


 次の勇者がいつ出てくるか分からないが、俺の敵じゃない。

 黒髪の女も、想像以上剣吞以下の強さだった。


「楽しみじゃ!」


 その後、王都の宿で眠ったような柔らかいベッドを創り出し、眠った。


 ◇


 次の日、例によってアンジュに揺り起こされた。


「賢者さん、朝ですよ、朝!」


 まだ空が白い朝からアンジュははきはきと発声している。

 銀髪が朝の淡い光に溶けて消えそうだ。


 儚げな見た目と裏腹にテンションが高い声は、小さな体から見た目に似合わない奇声を上げるアンバランスな子供を思わせた。


「お前子供みたいだな」


「それは馬鹿にしてるんですか?それとも褒めてるんですか? こう見えても賢者さんより長生きですよ?」


 アンジュが首を傾げ腰に手を当てて言った。


「両方だ」


 俺は柔らかい布団から抜け出して伸びをした。


 ◇


 朝食の後、白蛇に会うために地下室に行った。


「なあ、白蛇……ミアの姿をしてたお前だ。出て来いよ、話したいことがあるんだ」


 地下室の隠し扉も開け、白蛇を探して回ったが見当たらない。

 この世界と地獄をつなぐ扉は開いたままだ。


 扉の中には入らずに中を覗き込む。

 真っ暗な闇が広がっていて、扉の先にどれくらい奥行きがあるのかも分からない。


「この中にいるのか……?」


 光の球を作り穴に放り込むが、中を照らすことができない。

 球が扉の中に入った途端、薄い布で電球を覆ったように放射する光量が減っている。


「この扉の先は、地獄に繋がってるんですよね」


 地下室までついてきたアンジュが言った。


「ああ。リリスはここから地上に出てきたと言っていたしな」


 この世界を掌握した後は、地獄に行くのもいい。

 魔族の生態は謎が多い。


 魔族が使っている魔法を全て扱えたら、俺はもっと強くなれる。


「入ったら、帰ってこれなさそうです」


 落ち窪んだ暗闇を見てアンジュが言った。


「入った途端死ぬかもしれない……どこかに飛ばされるかもしれない。そもそも床が見えねえ」


 光の球を操作するが、遠くに動かし、全容を把握しようとすると、球が消える。


 何度やっても、扉の中で目一杯球を動かすことが出来ない。

 先が見えずもどかしい。

 球が消える理由も分からない。


 夢の中で走れないのに必死に足を動かす感覚と似ている。


「地獄って地面の下にあるイメージです」


「地下なら穴を掘ったらたどり着けるな」


 雲の上に天国は無かった。

 地獄も地面の下には無いのだろう。


「おい、聞こえてたら返事しろよ!」


 暗い空洞に向けて出した声は、反響もせずにぼやけて消えた。


 もう一度生け贄を捧げる儀式を行えば出てくるんだろうか。


 ちらりとアンジュの顔を見る。

 エルフは美しく、人間よりも長生きで、その声には治癒の効果がある。


 人間を生け贄にするよりも効果が高そうだ。


「賢者さん、どうかしたんですか?」


 横顔を見ているとアンジュが言った。


「何でもねえよ」


 俺はもう《審理の黙示録(アポカリプス・テセラ)》を持っている。

 あの蛇に会うためだけに儀式をするのは無駄だ。


 魔王城に住んでいればそのうち出てくるだろう。

 俺たちは空っぽの地下室を後にした。


 ◇


 鍛冶屋に頼んだ杖が出来上がるまでにはあと二日ある。

 俺は今日は魔王城の整理をすることにした。


「また片付けかえ。飽きたぞ! 街を襲いに行きたいのじゃ!」


 三日間魔王城に残り瓦礫の撤去をしていたリリスが言った。


「また菓子をやるから」


「本当か!?」


「ああ。外の瓦礫を片付けて来てくれ」


「分かったぞ!」


 こいつチョロいな。

 リリスの扱い方が分かってきた。

 とりあえず甘い物を渡しておけばいい。


 新しいテーブルでも作るか、と瓦礫に魔法をかけていると、外から爆音とリリスの叫び声が聞こえてきた。


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