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第四十二話 ドラゴンの調査

「地獄の扉を開いたときに、水色の髪の女がいただろ、あれが蛇だ」


『あの忌々しい女が蛇……? 何かの魔法ですか?』


「俺にもよく分かんねえ」


 あれがなんなのか、俺が一番知りたい。

 あいつはおそらく魔王よりも勇者よりも強い。


 あれを目の前にしたとき、純粋に怖いと思った。

 旅をする中で麻痺していた恐怖の感情が足元から這い上がってきた。


 話す中に魔王城の真上まで来たらしい。

 雲の上を飛んでいたレッドが地上に向けて下降し始めた。


 白く厚い雲を抜けると、青と白だけだった視界に色が増える。


『賢者さん、あれ……』


 地上が見えた瞬間、アンジュが呟いた。


「あれ?」


『ウテメの街に、たくさん兵士が来てます』


 五日前にドラゴンに襲われた街に、白い軍服を身に纏った集団が集まっていた。


 瓦礫の中に鷲の紋章の入った仮設テントを立てている。

 ポポロ広場にあった救護テントと同じものだ。


「40年ぶりに現れたドラゴンの調査に来てるんだ。派兵すると言っていた」


 王都の城で盗み聞きをした会議の内容通りだ。

 パレードで見た警備兵の人数よりは少なそうだ。


『街を襲ったドラゴン、レッドくんはここですよー』


 アンジュが地上の、蟻の様に小さく見える兵士に向けて手を振る。

 兵士たちはドラゴンの背に乗って空を飛んでいるこちらには気づいていないようだ。


「レッドが見つかったら狩られるかもな」


『そんな! ひどいです』


「こいつも強い、その辺の兵士には負けないと思うが……一応見つからないように魔王城の中庭にいてくれ」


 レッドの首を撫でながら言うと、ドラゴンは返事をする様に短く唸り声を上げた。


 そして眼下にある石で出来た魔王城に向けて、レッドは一直線に滑空した。


 ◇


「お帰りなさいませ、創造主様」


 魔王城の中庭にレッドが着地した。

 レッドの背中から降りると、テラ達使用人とリリスが出迎えに立っていた。


「『ただいま帰りました!』」


 交信を切る前にアンジュが喋ったせいで、声が二重に聞こえる。

 地上ではこの魔法は必要ない。

 俺は交信の魔法を止めた。


「賢者! お帰りなさい!」


 リリスが全身を預けて抱き着いてきた。

 俺は家族とほとんど会話をしたことがなかったが、娘が居たらこんな感じなのだろうか。


「あー、土産、買ってきたぞ」


 なんとなく照れ臭く、抱き着いてくるリリスを抱きしめ返すことはしなかった。


「お土産! 楽しみにしておったのじゃ」


 リリスが目を輝かせて答える。

 敵意が全く無いことがわかると、口を開いたときに見える人間には無い鋭い牙も愛嬌に思えてくる。


「アンジュが持ってる」


 俺は持ってないぞと両手を上げてアピールしながら言った。


 結局アンジュは何を買っていたんだっけか。

 マドレーヌ? ビスケット? どれでも喜ぶだろうが、ここまで期待されると、もっと真剣に考えれば良かったな、と少し後悔した。


「賢者、王都での話を聞かせてたもれ!」


 リリスは抱き着いた腕を緩めずに言った。

 リリスの力は強い。

 

 細い木の幹なら折れる位強い。


 少し息が苦しい。


「リリスちゃんばっかりズルいです!」


 アンジュがどさくさ紛れに抱き着いてきた。

 アンジュはほとんど力を入れていないらしい。

 

 体にかかる圧力はリリス一人の時とほとんど変わらない。


 この細い腕で気絶したケビンを放り投げてたんだ。

 アンジュもその気になれば木を折ることは出来るだろう。


 回復できるとはいえ、背骨を折られるのは勘弁だ。


「中に入ろうぜ。ここじゃあゆっくり話せないだろ」


 リリスがようやく腕を緩め、アンジュが離れた。

 レッドを中庭に残し、俺たちは魔王城の中に入った。


 ◇


 まだ掃除も片付けも終わってない埃っぽい魔王城の中を進み、食堂へと向かう。

 王都へ発つ前よりはましになっている。


 俺が王都に行っていた三日間、使用人とリリスの手で瓦礫は粗方片付けられたらしい。


 岩を避けながら進む登山道に似た障害物だらけだった廊下がスッキリとしている。

 今は躓くのを心配せずにまっすぐ目的地に向かって歩ける。


「王都で人間を倒したか?」


 俺の腕にしがみついたままでリリスが言った。

 本来の父親である魔王にもこうやってくっついていたんだろうか。


「はい! 王様をやっつけましたよ」


 少し後ろを歩くアンジュが言った。

 アンジュの数歩後ろを、テラが音を立てずに歩いている。


「流石賢者じゃ!」


 リリスが無邪気にコロコロと笑う。

 魔族に無邪気ってのも変だが、年相応の笑顔だ。


「リリス、俺が居ない間に、白蛇……水色の髪の女に会わなかったか?」


 魔王城に現れ、すぐに消えた白蛇について聞いた。


「白蛇? 使用人以外と会ってはおらぬぞ」


 リリスは不思議そうな顔をしていった。

 こいつは、白蛇が扮した少女に記憶を書き換えられたことを、覚えていないのだろう。


 記憶が書き換わっていることに気づいていたら、もっと怯えたり、怒ったり、恐怖したり、葛藤があって然るべきだ。


 少なくとも何の疑心もなく笑う事は出来ないだろう。


 後ろを歩くテラにも同じ質問をしたが、返ってきたのはリリスの答えと同じものだった。


 リリスは戦闘をし、封印されていた地下室の存在も忘れていた。


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