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第四十話 新しい勇者

 時計台の螺旋階段を降りようと王都に背を向けた瞬間、剣が飛んできた。


「うわっ」


 寸でのところで避けて右手で杖を持ちシールドを張った。


 辺りを見渡すが誰も居ない。

 剣は外から飛んできた。

 

 剣の柄には王都レクスのシンボル、鷲の紋章が刻まれている。

 城の兵士の物だ。


「外したか」


 女の声がした。

 この声の持ち主が剣を投げたのか?

 なんで俺がここに居ることが分かった?


 頭に次々と疑問が浮かんでくるが、それをじっくりと考え込んでたら死ぬ。

 拘束してからじっくり聞くとしよう。


声の方に火の魔法を放った。


「《バースト、爆ぜよ》」


 火の弾が外へ飛んでいく。

 時計台の大きな時計盤が、魔法に燃やされ下へと落ちていく。

 下の人間に当たったら即死だ。


 壁が無くなったことで薄暗かった時計台の中が一気に明るくなった。

 埃が日光に照らされて白く光っている。


 崩れた壁の向こう側から、女が時計台の中へと入ってきた。 


「誰だ?お前」


 それは昨日城の門番をしていた黒い髪の女だった。

女は無言で剣を構え切りかかってきた。


 女は左手に持った銃を撃ちながら右手の剣で斬撃を加えてくる。


「狙撃に気づかなかった奴とは思えねえな」


 時計台の中は狭く、足場はほとんどない。

 薄い木の板の上で、戦闘が始まった。


 大きな歯車の周りで剣と杖を組み合わせ、斬撃を防ぐ。


 両手で持った杖で振り下ろされた剣を受けた。

 杖と剣が十字に組み合った。


 膠着状態になる。

 右手で剣を持った女が、左手に持った銃の銃口をこちらに向けた。


「《シュート、撃ち抜け》」


 女が引き金を引く前に、懐に仕舞っていた弾丸を女に向かって飛ばした。


 弾丸をもろに食らった女が吹き飛んで倒れた。


「瀕死にして話を聞くつもりだったが、死んだか」


 弾丸は五つあった。

 女の頭と心臓と腹と両足を弾丸が貫いた。


 床に倒れた女が頭から血を流している。


「城の門番、だよな」


 杖を構えたまま女に近づき、観察する。

 まだ息があるらしい。

 ゴフッと血の塊を吐き薄く息をしている。


 話が出来る位回復させるか?

 反撃されないように手足を切り落としてからヒールするか……切る間に死ぬだろうか。


 迷っていると、俺が魔法をかける前に女の傷が塞がり始めた。


 血が止まり、パックリと割れていた胸の傷が治っていく。


「これは……」


 俺は目を見開いて固まった。

 この現象には見覚えがある。


 女の周りに独りでに魔法陣が現れ、女に《体力強化》《魔力強化》《防御力強化》《体力回復》《魔力回復》のバフがかかった。


「勇者の固有スキル」


 目の前に広がる光景は、魔王征伐の旅で何度も見たものだった。

 1%でも敵に勝つ可能性があれば、瀕死でもバフ付きで全回復する勇者の固有スキル《神の加護》だ。


 ここは足場が悪い。

 こいつが死ぬ前に俺が立っている床が抜ける可能性はゼロじゃないだろう。


 勇者の固有スキルの厄介なところは、何が起こるか分からないピーキーな場所ほど発動しやすいってことだ。


 予想外の事が起こる確率が高ければ、勇者が敵に勝つ可能性も、完全なゼロで無くなる。


 目の前にいるこいつは、新しい勇者だ。


 俺が勇者を殺したから、神が新しい勇者を選んだのだろう。


「俺はまだ魔王じゃねえぞ」


 どっからどう見ても人間のこの俺を勇者が殺しに来るとはな。

 バフがかかり全回復した女がまた剣を構えた。


「俺に剣を向ける奴は殺す」


 俺は杖を構えて呟いた。


 ◇


「アンジュ、来た時に降りた山に向かえ。レッドが待機してる」


 時計台で黒髪の女と戦闘した後、俺は王都から出るべく山に向かっていた。

 女は戦闘中に、足元の床が抜けて歯車にぶつかりながら下に落ちて行った。


 女を追って降りた場所で《審理の黙示録》を使って死を確認した。

 新しい勇者も死んだ。


「勇者が死んだら新しい勇者が出てきたってことは……又勇者が襲ってくるのか?」


 勇者は神が選ぶ。

 選ばれた勇者は神の敵を殺すために力を与えられる。


「魔王を倒した俺が敵か」


 薄情だな。

 勇者に剣を向けられた、ということは、俺は神の敵になったってことだ。


 神が居なくなれば、終わるのだろうか。


 考えながら城壁を飛び越え、レッドの待つ山に向かった。

 

「あ、賢者さん!」


 山の頂上まで登ると、レッドとアンジュが居た。


「賢者さん、何やら疲れた顔をしてますが、大丈夫ですか?」


「ああ。フムスは上手く王都に紛れたか?」


「はい!用意してた服に着替えて、顎髭と髪の毛を剃って、着ていた軍服と布の袋は燃やして川に流しました!」


 アンジュがはきはきと答えた。


 褒めてください!と言ってきたアンジュによくやった、と返す。

 

「賢者さん、血まみれですね」


 俺の服には戦闘した黒髪の女の血がベッタリとついていた。

 黒いローブの上にかかった血しぶきは目立たないが、よく見ると不自然にテカっている。


「ちょっとな……フムス、聞こえるか?」


『よく聞こえてるぜ、ボス』


 王都にいるフムスに交信をする。


『俺がケビンの土人形とはバレていない。このまま潜伏する』


「分かった。王都で異変が……もう起きてるが、何かあったら教えてくれ」


『OK』


「城の門番をしてた黒髪の女が新しい勇者だった。そいつについて調べてくれ」


 新しい勇者!?とアンジュが驚きの声を上げた。


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