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第三十九話 呆気なかったな

 馬車は広場を出て、城までの帰り道を進む。

 あと10分程でブロンズ像に馬車が来る。


 弾丸を手に持ち、勇者の頭にぶつけるイメージトレーニングをした。


 パレードは折り返し地点を過ぎもう残りも僅かだが市民の熱狂は止まらない。


 行きと帰りで鼓笛隊の曲が違うらしい。

 今聞こえてくる曲は物静かで丁寧な笛の音が聞こえる曲だった。


「王冠が全くずれないのは凄いな」


 何か留め具があるのだろうか。

 エドワード王は左右に頻繁に顔の向きを変えているが重そうな王冠が頭の上からずり落ちる気配がない。

 

 あれだけの宝石と金で装飾されていたら相当重いはずだ。


 復讐が達成できるが、実感がわかない。

 俺を封印した勇者と今の勇者の姿があまりに違うから同一人物だと脳が認識できないのかもしれない。


「それが殺さない理由にはならないが」


 馬車がとうとうブロンズ像の前へ来た。


 ◇


「フムス、エドワード王を撃て」


 チッ、と盛大な舌打ちをしてフムスが立ち上がりエドワード王に向けて拳銃を構えた。


 馬車が止まる。

 御者がいきなり立ち上がったことに驚いた観衆がざわめいた。


 馬車の後ろで音楽を奏でていた鼓笛隊も首を傾げ笛から口を離した。


 エドワード王はまだ馬車が止まったことに気づいていない。


 勇者が立ち上がる。

 音楽が止み、銃声が響いた。


 エドワード王の頭を弾丸が撃ち抜いた。

 横を向き民衆に手を振った姿そのままでエドワード王が頭から血を流して倒れた。


 フムスが銃を持ったまま両手を上げた。


 エドワード王を殺すのに成功したサインだ。


「見てたぜ。よくやった。フムス、合図をしたら勇者の頭に向かって空砲を撃て」


 フムスが舌打ちをし、上げた両手を下ろし、勇者の頭に向かって銃を構えた。


「キャーーーー!」


「国王陛下!!!」


 民衆が慌てふためき叫んでいる。

 民衆の叫び声で我に返った兵士がフムスを止めようと走ってきた。


 俺は時計台から、勇者の頭に狙いを定めて弾丸を飛ばした。


「15、14、13、」


 勇者の頭に弾丸が届くまで15秒。

 そのカウントダウンをする。


「7、6、5、今だ、撃て」


 フムスが勇者の頭に向かって空砲を撃った。


 それとほとんど同時に、俺が放った弾丸が勇者の頭を貫いた。


 フムスは取り押さえようとする兵士を、剣で薙ぎ払う。


 勇者の頭からも赤い血が噴き出した。

 勇者の傍にいた観客に、勢いよく飛び出た血がかかった。


「キャーー!」


「勇者さま!」


 血まみれになった観客が叫ぶ。

 地獄でもこんなにうるさくなさそうだ。


「フムス、馬車を走らせろ。学校の近くにアンジュが待機してる」


 フムスが兵士を弾き飛ばし、手綱を握って、中が真っ赤に染まった馬車を出発させた。


 ◇


「アンジュ、聞こえるか?フムスがそっちに向かってる」


『はい、聞こえてます。悲鳴がすごいですね!』


 アンジュが弾んだ声で嬉しそうに言った。


「ケビンが入った布袋を馬車に放り込む。袋を道路に出せ」


『賢者さん、私、結構力持ちなんです』


「は?」


 アンジュがそう言ってケビンが入った布袋を持って頭上に抱えた。


『賢者さんが魔法を使わなくても、このまま馬車に投げ入れられますよ』


 驚いた。

 気を失った大の男が入った袋

を軽々と持ち上げている。

 引きずるのが精いっぱいだと思っていた。


「あー、じゃあそのまま放り込んでくれ。ヘマするなよ」


『アイアイサー!』


 アンジュがそう言って向かってくる馬車に向かってケビンの詰まった布袋を投げた。


 ケビンは気絶していて動かない。

 馬車に布袋が着地した。


「フムス、そのまま民家に突っ込め。真正面のは木造だから馬で蹴破れる」


『OK、ボス』


 馬が木造の民家を蹴破った。

 民家が倒れ、瓦礫の山が築かれた。


 馬を馬車に繋ぎとめていた手綱が切れ、馬が瓦礫から抜け出し明後日の方向に走り出す。

 

 勇者とエドワード王の死体も瓦礫で見えない。


「アンジュ、フムスがケビンを袋から出して代わりに入ってるはずだ。それを回収してくれ」


『分かりました!』


 アンジュに指示を出して、一応魔法で勇者とエドワード王の死を確認する。


 頭が半分吹っ飛んでたし、大丈夫だとは思うが、念のためだ。


「《審理に問う、我、見えぬものを見ることを望む。この眼にうつらぬうたかたを、見出すことを望む》」


 頭の中に瓦礫に埋まった馬車のイメージが浮かんでくる。

 アンジュがフムスの入った布袋を抱えてその場を離れた。


 兵士が馬車を追って崩れた民家に押し寄せている。


 瓦礫の中にある生体反応はケビンの物だけだ。


 勇者も、エドワード王も無事に死んだらしい。


「呆気なかったな」


 復讐が計画通り終わった安堵感から、俺は深く息を吐いた。


 ◇


 時計台から見える王都は滅茶苦茶だった。

 人々は混乱し逃げ惑い、兵士も訳が分からず右往左往している。


 50年間こんな緊急事態に遭遇していなかったのだろう。


 平和だから、というのでもなく、パレードで王が殺されることは前代未聞かもしれない。


 少なくとも俺はそんな事件を知らなかった。


「アンジュ、フムスの服を着替えさせて、着ていた軍服は袋に入れて燃やせ。燃やした後の灰は中央の川に流せ。勝手に城壁の外まで出ていく」


『賢者さん、すみませんもう一回言ってください』


 アンジュに指示を出し、合流しようと時計台から降りようとした。 


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