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第三十七話 レクスのパレード

「フムス、そっちはどうだ?」


 ライブが終わった後、宿に向かいながらフムスに通信した。


『問題ない。銃と弾丸も手に入れた』


 フムスが誰かを殺したとメッセージを送ってくることは無かった。

 誰にも怪しまれずに銃と弾丸を手に入れることができたらしい。


「そろそろケビンが城へ向かう時間だ」


『OK。城を出て宿に向かう』


 マルケルス劇場の外はすっかり暗くなっていた。

 

 興奮気味の客がカラフルなグッズを身に纏いながら感想を捲し立てている。

 ライブがまだ続いてるみたいだ。


 浮かれてる民衆も、明日からは陰鬱な雰囲気に包まれるんだろうな。


「賢者さん、今日も楽しかったですけど、明日はもっと楽しみですね!」


 アンジュがクルクル回りながら言った。

 こいつの演技がかった大げさな身振りも、今は浮かれた雰囲気に隠れて目立たない。


「勇者を殺せる」

 

 俺が封印から目覚めたことを気取られる前に、殺さなくてはならない。


 いなかったはずのドラゴンが出現したんだ。

 魔王城の調査が行われるのは時間の問題だろう。


 俺が生きていることを知るやつが居なくなれば、あとはどうにでもなる。


 《審理の黙示録(アポカリプス・テセラ)》を持ってる俺は、最強のはずだ。


 勇者を殺した後は、あのミアにそっくりな白蛇にお礼参りと行こうじゃねえか。


 ◇


 とうとうパレードの当日になった。


 目を覚まし、身支度を整えた。

 フムスから受け取った弾丸を懐に仕舞う。


「緊張しますね!」


「緊張してるやつの声じゃねえぞ」


 宿のチェックアウトをして外に出た。


 もうこの宿に戻ってくることは無い。


 王都にも、ほとぼりが冷めるまでは来ないだろう。

 王都の様子を探らせるために、パレードの後もフムスは潜伏する予定だ。


 顎髭と髪の毛を剃れば特に変装しなくても雰囲気が別人になる。


 髭を生やしてる奴はそれが特徴になる。 


「フムス、どうだ? そっちの様子は」


『慌ただしい、皆パレードの準備に大わらわだ』


「ケビンが一人になるまで、見つかるなよ」


『ああ』


 フムスは昨夜ケビンと全く同じ格好になって城内に侵入している。

「これからどうするんでしたっけ?」


「城に行って、フムスからケビンが入った布袋を受け取る」


「アイアイサー!」


「受け取ったらアンジュはケビンと一緒に、ローニャ学校の近くで待機な。フムスが馬車で突っ込んでくるから、そこに魔法で布袋を放り込む」


「待機するだけでいいんですか?」


「ああ。魔法を使えば誰が動かしたか分からないしな。馬車の中でフムスが布袋に入って飛び降りるから、それを回収しろ」


「分かりました!」


 フムスと交信しながら城に向かった。


 ◇


 俺は今時計台に居る。


 計画通りフムスとケビンを入れ替えることに成功した。


 アンジュはローニャ学校のそばの民家の隙間に気絶したケビンといる。


「後はブロンズ像の前に馬車が来るのを待つだけだ」


 望遠レンズで王都を見渡す。


 とうとうパレードが始まるらしい。

 鼓笛隊が笛を鳴らし、馬車が城の前からスタートした。


 ゆっくりと水堀に架かった橋を渡り、馬車は期待に胸を膨らませた観客の波に向かう。


 観客の前には小さな柵が置かれている。


 勇者とエドワード王を乗せている金で飾られた馬車は柵の間を通って進んでいく。


「王様―!」


「国王陛下、万歳!」


「アルフレッド様!」


 声にこたえて、馬車に座った勇者とエドワード王が笑顔で手を振っている。

 民衆は興奮しながら小さな旗を振っている。


 旗には王都レクスのシンボル、鷲の絵が描かれていた。


「大人気だな」


 50年前の国王は呑気にパレードをする余裕は無かった。

 暗殺を恐れてかほとんど国民の前に姿を現すことは無かった。


 俺も2回しか会ったことがない。


 民衆は柵から手を伸ばし、あらん限りの力でエドワード王と勇者に近づこうとしている。


「あの中にいるのは、どんな気分なんだろうな」


 声援を送る観客は、勇者たちから奪おうとしているようにも見えた。


 勇者はあの声援に十二分に応えてきたのだろう。

 エドワード王のことは知らないが、観客の熱狂っぷりを見るに、愛されているのだと思う。


 民衆の象徴を奪うことに罪悪感がないわけではない。

 だが俺は勇者を殺さないといけない。


 俺が禁術に手を染めたことを知る人間を消さなければならない。


 馬車はゆっくりと進み、パレードの中間地点であるポポロ広場に着いた。


 今から勇者とエドワード王のスピーチが始まるらしい。


 ◇


 ポポロ広場の鷲の彫像の隣に陣取った鼓笛隊が笛と太鼓で小気味いい音楽を鳴らしている。

 一昨日作りかけだったステージも取り繕われ、未完成だった頃を感じさせない荘厳さを醸し出している。


 ステージの隣に馬車が停められた。

 杖をついた勇者とエドワード王が敷かれた赤いじゅうたんの上を歩き、白いステージの上に上った。


 鼓笛隊の笛の音が一段と高くなり、ドンッと大きくなった太鼓の音で音楽が終わった。


 杖で体を支えながら、勇者がマイクの前に立って話始めた。


『魔王征伐から、50年が経ちました』


 フムスは馬車の近くで立っている。

 フムスを通して聞こえてくる勇者の声は、記憶にある声とは似ても似つかないものだった。


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