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第三十六話 間引かれた子供

「それを聞いてるんだ」


 アンジュと行動を共にしてから、アンジュが誰かと連絡を取っているそぶりは無い。


「私の意志ですよ。だって、私以外に賢者さんを起こした人は居ませんし」


「魔王が倒されてから……俺が封印されてからの事を俺は知らない」


「何か聞きたいことでもあるんですか?」


「何で俺が魔王城に封印されてると知ってたんだ?」


「それは……」


 アンジュは口ごもった。

 後ろめたいことがあるのか?

 

 地獄の扉を開いて、光で覆われた世界に再び悪をまき散らそうとする以上に、後ろめたいことなどあるのだろうか。


「悪魔に聞きました」


 しばらく黙った後、アンジュが言った。

 悪魔?

 魔王を倒した後魔物は居なくなったんじゃなかったか。

 

「悪魔って、俺は魔族の敵だぞ。それに俺が封印されたとき、周りには勇者以外誰も居なかった」


「魔物じゃなくて……エルフの悪魔です」


 アンジュが言うことは要領を得ない。

 俺はエルフの事情には詳しくない。


 実物にあったのはアンジュが初めてだ。


 50年前、エルフと人間はそれほど交流が盛んではなかった。

 パレードの前で人が集まっている王都でも、エルフは見当たらない。


 今もエルフはひっそりと神の膝元で暮らしているのだろう。


 魔王が地上に出現し、人間と魔族の戦争が始まった時も、エルフは人間にも、魔族にも無関心だった。


「エルフの悪魔だなんて聞いたことがない」


 エルフは神の御使い、天使、妖精。


 色々と呼び名はあったが、悪魔だの魔族だのと呼ばれるエルフは聞いたことがなかった。


「知りたいですか?」


「興味はあるな。すべてを知りたいと思ったから禁術にまで手を出したんだ」


 あらゆる魔法を使いこなしたい、強くなりたいと思ったから勇者の旅にも参加した。


 賢者というクラスの必須条件は、好奇心だ。

 

「あんまり面白い話じゃないですからね!」


 アリスの歌が始まった時と打って変わって暗い表情でアンジュがぽつりぽつりと話し始めた。

 

 聞こえてくるアリスの歌は底抜けに明るく、アンジュの声とちぐはぐだった。


 ◇


 アンジュの話は、エルフの生態に関するものだった。

 どの文献にも載っていない、エルフの中でも知る人は少ないらしい。


 間引きの話だった。


 13歳になったとき、エルフは選別されるらしい。

 エルフの掟を暗記し、諳んじる成人の儀が行われる。


 それをクリア出来なかったエルフは、記憶を消され、エルフの里から追い出される。


 運が良ければ人里で暮らし、悪ければ森で獣に食われるという。


 アンジュはギリギリで合格出来たが、アンジュの友人は森に連れていかれたそうだ。


 間引かれた子供は悪魔と呼ばれ、居なかったことにされる。


 神が決めたルールに疑問を持ち、アンジュは里を抜け出して旅をしていたらしい。


 人里で暮らすエルフに、魔王城に封印された者がいると聞いた、アンジュは言った。


「……つまり、お前は神を殺したいのか?」


「どうでしょう、エルフがずっと安全に暮らせたのは、神が守ってくださったからです。魔族と人間の戦争も、他人事でした」


「そいつはうらやましいね。人間が魔族と戦ってる中、神の贔屓を受けてたのか」


「そう、贔屓を受けてたんですよ。だからエルフは、怒りません。13歳の儀式の事も、神様がエルフの事を考えて作ってますし、それが当たり前ですから」


「いいじゃねえか、全部生かせって方が残酷だ」


 13歳で中絶を、種族単位でしているようなものなのだろう。


 驚いたが、合理的なシステムだとは思う。

 人間は長くて100年も生きればいい方だが、エルフはその何倍も生きる。


 人口調整の機能なのかもしれない。


 両親が子供の生死を握るよりは公平だ。


「私も、ギリギリだったんです。全然覚えられなくて」


「運が良かったな」


「はい」


 アンジュはそれ以上エルフの里の話はしなかった。 


 俺は神に会ったことがない。

 人間で会ったことがあるやつはいるんだろうか。


 教会が説法をし、祈りを捧げても人は神のお気に入りにはなれなかったらしい。


 ◇


「すっごく楽しかったですね!」


「ああ、悪くなかったな」


 アリスは王族だ。

 歌を聴くまではもっと説教臭いイベントを想像していたが、純粋に娯楽だったらしい。


「賢者さん、グッズ買いましょうよ! 円盤が欲しいです!」


「あってもゴミになるだけだ、却下」


「じゃあ作ってください!」


 簡単に言いやがる。

 細部までイメージしないと《イメージホールド》で作り出すことはできない。


 二時間のライブを全部細部まで想像するのは、熱狂的なファンでも無理だ。

 

 衣装もコロコロ変わってたし本人でも難しいだろう。


「こう、ちゃちゃっと!」


 うるせえ。

 アンジュを黙らせるために土から金髪のミアの人形を作った。


 10㎝ほどの手乗りサイズだ。


「これで我慢しとけ」


「ありがとうございます! って、これ修道服ですか?賢者さんの趣味ですか?」


 旅をしていた頃のミアを金髪にしただけだ。

 人形が身に纏っているのは教会のシスターが着る素っ気ない布の服だった。


「違う」


 アンジュは受け取った人形を眺めまわしている。


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