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第三十四話 わざわざ恨みを買わなくても

 俺はその辺にあった小石を手に持った。


「何するんですか?賢者さん」


「こっから当てる練習だ」


 小石を手の平の上に置いて、魔力を込める。

 小石はゆっくりと浮いた。


「《シュート、撃ち抜け》」


望遠レンズの向こう側に見える門番の女に向かって、小石を飛ばした。


「いけいけー!」


 アンジュがはしゃいでいる。


「遠いな」


 小石の速度を速くすると操作が難しい。

 気を抜くと関係ない方向にすっ飛んでいきそうだ。


 だが遅くしすぎると弾の威力が弱くなる。


 望遠レンズを覗き込みながら小石を操作した。


 その間、約15秒。


 一直線に飛んで行った小石は、女の腰に掛けられていた剣を弾き飛ばした。


 突然のことに驚き顔を歪めた女が地面に伏せた。

 そのまま匍匐前進をして飛ばされた剣を拾いに行く。


「当たった!」


 アンジュがガッツポーズを取った。


「頭に当てちゃわないんですか?」


 使ってください、とアンジュが小石をよこしてきた。

 首を横に振っていう。


「パレード前に警戒されても困る。今回はこれだけだ」


 女は警戒して地面に伏せたまま辺りを見渡している。

 

 こちらには全く気付いていない。

 無様だ。


 愉快さが腹から上ってきた。


 警戒するほどの奴じゃなかったな。

 フムスの言う通り士官学校の生徒なのだろう。


 アンジュから小石を受け取ってまた魔力を込めた。


「あいつには当てないが、練習はしとくか」


 その後ブロンズ像の近くの公園に向かって小石を飛ばした。

 10回やるころには感覚がつかめてきた。


 ◇


 次の日、俺とアンジュはアリスのライブを見るためにマルケルス劇場に来ていた。


 15時スタートで14時開場らしい。

 王都は人が多いと思っていたが、一段と人でごった返している。


「楽しみです! 私、こういう演劇を見るの初めてなんですよ!」


 アンジュが興奮気味に言った。


「俺もだ」


 50年前も演劇はあった。

 魔物が溢れていた時代でも王都には人と娯楽が集まっていた。


 実際に見たことは無いが。


「ライブ、歌を聞くんだよな」


「はい!」


 アリスの顔写真が印刷されたバッジを服やカバンに着けている人もいる。


 ポスターを腰に張り付けている奴もいた。


 土産屋メメントで見たグッズがちらほら見える。


 居酒屋で配られたサイリウムを持っている客も多いようだ。


 平和だ。

 皆笑顔でショーが始まるのを今か今かと待っている。


「アンジュ、いいのか? お前が望むように世界が闇に覆われたら、、こんな呑気な興行も行われなくなるかもしれない」


「いいんですよ、むしろ増えると思いますし」


「何でだ? 余裕が無くなれば娯楽から切り詰められるだろう」


 魔王が倒されていなかったら、サイリウムもなかったはずだ。

 お姫様が踊ることも無かったろう。


「賢者さんは人間を舐めていますよ。暗い時代の方が希望を見たくなるし、希望を作ろうとするものなんです」


「そういうもんか?」


「今は世界は平和です。それでも光を求めてこれだけの人が群がっています!」


「光ってほど大層なものじゃないと思うが。歌って踊る見世物だろう」


「歌って踊る見世物、そうです。何の意味もありません。歌ったからって踊ったからって、何も起こりません。なのにそれを見たいと思う人がこれだけいます。その人たちがこの見世物の価値を作っています!」


 アンジュが焦点の合わない目で劇場を見つめ、高笑いし始めた。


 こいつはやっぱりイカれてる。


 こいつを理解できるってことはイカれた考えを理解するってことだ。

 少なからず自分もイカれる必要があるのだろう。


 ならずっと理解できなくていい。

 

 たまに笑い出す人形位に思っておけば疲れない。


 俺は耳に手を当てフムスに声を送った。


「フムス、聞こえるか?」


『ああ。聞こえている』

  

 フムスは今城の中にいる。


 武器庫から銃と弾を盗み出してもらう予定だ。

 制服はケビンと同じもので、顔は変装したまま城に居る。


『今のところ順調だ。誰も俺が城を歩いていても不思議に思わない』


 離れた場所からどれくらい声が聞こえるかの動作確認もあった。

 《審理の黙示録》は便利だが、文献がほとんど残ってないから自分で確かめていかなければならない。


「やばくなったら見られたやつの名前と顔をこっちに送れ。殺しても同じ顔の土人形を作ればいい」


『OKボス』


「死体からは髪の毛も一房とっとけ。それがあればお前みたいに記憶付きの人形が作れる」


『ラージャ』


 フムスはよくできた土人形だ。


 俺の命令を忠実に守るし、こなせる。


 人間を脅してもここまで働く手足は作れない。


 城の兵士も評議会の連中も全部土人形に変えちまえば、クーデターを起こさなくても俺はこの国の権力を握ることができる。


 魔王になってわざわざ民から恨みを買わなくても、こっそりと、ひっそりと王以上の権限が持てる。


「賢者さん、始まるみたいですよ!」


 マルケルス劇場がライトアップされた。

 我先にと劇場に向かう人の波に乗って、俺たちも劇場の中に入った。


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