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第三十三話 望遠レンズ

 学校の裏手に回って貨物用の小さな門を見つけた。


「ここから貨物の振りをして入る」


「貨物のふり?」


 アンジュがキョトンと首を傾げた。


 俺は土から大きな樽を作った。

 50年前によく見た樽だ。


 授業で使う薬草や毒は、こんな樽に入っていた。


 人間二人位は入るだろう。


「この中に入るのさ。フムス、運び屋の役は任せたぜ」


「担いで中に行けばいいのか?」


「ああ、魔術の授業で使う薬品が入っている、開けると危険だって言えばすんなり入れるはずさ」


 樽に“ニガヨモギ”、“危険”と書かれたステッカーを貼った。


「OKボス」


「入った後はまっすぐ時計台に向かえ。出来るだけ誰とも会わないようにな」


「ラージャ」


 アンジュと二人で樽の中に入った。


 中腰で向かい合って座ると、もう隙間がない。


 狭いな。

 もう少し大きくすればよかった。


「賢者さん、すっごく近いですね!」


 体を密着させるように抱き着いてきたアンジュが言った。

 声が樽の中で反響する。


 近すぎて暑い。


「アンジュ、樽が喋るなんてあり得ねえ。絶対に声を出すな」


「アイアイサー!」


 アンジュが大きな声で返事をした。

 声を出すなって命令は伝わっているんだろうか。


「ボス、持ち上げていいか?」


「待ってくれ」


 俺は時計台に着くまでアンジュに魔法をかけて眠らせることにした。


「え?賢者さん、何で杖を持ってるんです?」


 樽に入る時に背中に仕舞った杖を後ろ手に掴み、顔の前で構えた。


「《スリープ眠れ》」


「ちょ……ぐぅ」


 呪文を唱えた瞬間アンジュは眠った。

 穏やかな寝息を立てている。

 

 これでうるさい声に苛立つこともないだろう。


 黙っていると美人だ。

 流石エルフだな。


「フムス、いいぞ」


「OKボス」


 声を合図に、フムスが樽を持ち上げた。

 俺とアンジュが入った樽が、ぐらつきながら移動する。


 外の様子は見えない。


「どうも、薬品の搬入です」


 樽の移動が止まった。

 フムスの話す声が樽板越しに聞こえてくる。


「お疲れ様です」


 男の声がしたのち、カラカラと門が開かれる音がした。


 中に入ることに成功したようだ。


 再び樽が動き、移動が始まった。


 数分後、ドスン、と音がして樽が地面に置かれた。


 樽の蓋が開けられ、中に光が差し込む。

 

「着いたぞ、ボス」


「ああ、サンキューな」


 樽を横倒しにして外へと出る。

 時計台の中らしい。


 レンガでできた塔の中は少し埃っぽい匂いがする。

 壁には上に登るための螺旋階段が生えていた。


 ここからだと歯車に邪魔をされて一番上は見えない。


 アンジュはまだ眠っている。


 ずっと静かだと良いんだがな、と思いながら起こすために魔法をかけた。


「《ヒール、回復せよ》」


「んがっ」


 不細工な声を上げてアンジュが目を覚ました。


「起きたか?」


「ここ……あ、はい、起きました」


 しばらく辺りを見渡した後、自分がいる場所を悟ったのかアンジュが言った。


「酷いですよ賢者さん、密室で密着するチャンスだったのに!」


 アンジュが頬を膨らませて抗議してきた。

 気絶させないだけありがたく思えよな。


「眠らせちまえば声も出ないからな。お前の鼾がうるさくなくて良かった」


「え、私、鼾をかいてましたか?」


 アンジュが何を勘違いしたのかうずくまってぶつぶつと何か言いだした。


「clock tower、ビッグだ」


「狙撃は一番上からやる。上るぞ」


 俺は塔の螺旋階段を上り始め。


「待ってくださいよー!」


 いじけた様に地面を指でなぞっていたアンジュが慌てて追いかけてきた。


 ◇ 


 長い階段を上り切り、俺たちは時計台の最上部に辿り着いた。


 ここは時計の裏側だ。

 大きな歯車がゆっくりと動いている。


 床はほとんどない。

 足を滑らせたら歯車にぶつかりながら下まで落ちることになるだろう。


 ここにあまり人が来ないのは危険だからだ。

 事故で死んだ学生の幽霊が出るという噂もあった。


「ぜぇ……ぜぇ……やっと終わった……」


 アンジュは肩で息をしている。

 最後の段を上ったあと、突っ伏して倒れた。


「こりゃグレートだ」


 時計台に空いた隙間から外の景色を見たフムスが言った。

 ここは埃っぽく薄暗い。


 中が暗いから外はより綺麗に見える。


「いい景色だろ。変わってねえ」


 ここに来るのは50年ぶり、俺の体感では2年ぶりだった。


「ここから撃つんだな」


「ああ。ブロンズ像は……あそこか、金ぴかだから目立つな」


 北東の方角を探すとブロンズ像が見えた。


「《想起を外形に、イメージホールド》」


 石に魔法をかけ、望遠レンズを作った。

 これで遠くも見渡せる。


 目にレンズを当て、王都を見渡した。


「あいつ、まだ居るな」


 城の門には先ほど見かけた黒い髪の門番が居た。


「さっきのムカつく女ですか?」


 いつの間にか復活したアンジュが機嫌が悪いのを隠さずに言った。


 もう敵意を剥き出しにした表情はしていない。

 両腕を後ろで組み、まっすぐに立って、静かに城門から橋の向こう側を見ている。


「ここから殺しても、バレない」


 レンズで門番を見る。

 時計台から魔法を当てる予行演習にするか?


 銃も弾も手元には無いから、不審死になるな。


 雷を落とすには天気が良すぎる。

 水堀がある城門で燃え死ぬのも不自然だ。


 魔物がうようよしてた時代だと全部魔物のせいに出来て楽だったんだが。


「やっちゃいましょうよ!」


 アンジュが鼻息荒く言った。


「何だか、嫌な予感がするんです」


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