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第三十話 英雄のブロンズ像

 広場の様子は、初めて来たときとほとんど変わっていない。

 目立った違いは、ニュースが書かれた看板の反対側に、高座が組まれていることくらいだ。


 作業員らしき集団が、工具を持って白い石のステージを作っている。


「スピーチはあそこでやるのか?」


「ライト。その通りだボス」


 作業員たちは明後日の勇者と国王のスピーチの準備をしているらしい。

 組まれた高座は装飾の途中なのだろう。

 中途半端に飾り付けが施されている。

 

 王都レクスのシンボル、鷲の像が、どれもあらぬ方向を向いた状態で無造作に置かれていた。


 屋台の準備をしている市民もいる。


 板と布で簡易的な出店を作るようだ。

 ポポロ広場は明後日のパレードに向けた準備で活気に溢れていた。


看板に目をやり、最初に来た時の様にニュースを眺める。




 ▽月□日

 『兵士長がパレードへの意気込みを語る』


 『ネント新広告にユルゲン選手 インタビュー』


 『ブドウの収穫が最盛期に 今年のおすすめワイナリー4』


 『エドワード王便り』




 俺の計画に影響しそうなニュースはなさそうだ。

 ウテメの街に出たドラゴンについては書かれていない。

 

 評議員会はパレードが終わるまでは知らせないつもりらしい。


 看板の隣では新聞が売られている。


「新聞―!新聞―!これ一部で誰でも王都の情報通だ!今朝刷ったばかりの出来立てホヤホヤだよ!」


 威勢のいい少女が声を張り上げて新聞の宣伝をしている。

 俺は新聞屋に近づき、一部買った。


「お兄さん、毎度あり!」


「エドワード王の写真はあるかい?」


「お兄さん国王のファンなんだね!ごめんよ、今日の新聞には載ってないや」


「そうか、どこに行けば見られる?」


「本屋か、そうね、パレード用の土産屋に行けばいいと思う。」


「土産屋か」


「そんなに焦らなくても、明後日にはここで本物に会えるよ」


「待ちきれなくてな」


 丸められた新聞を懐にしまい、後で行くために土産屋の位置を聞いた。

 ポポロ広場から西へ200mほどらしい。

 

「お土産屋さんで買い物ですか!?」


 土産屋、と聞いたアンジュが目を輝かせる。

 

「後でな」


 今にも走り出しそうなアンジュに返し、広場から出てまたパレードの道をたどり始めた。


 ◇


 パレードのルート通り進む。

 ルートの一番北に差し掛かった時、目立つ像を見つけた。


 

 金でメッキがされた、青年のブロンズ像だ。

とても憎たらしい顔をしている。

 

 目には青い宝石が嵌められていた。


「あれは……」


「世界のヒーロー、勇者アルフレッドの像だな」


 俺が像を見て呟くと、フムスが解説した。

 

「すごい!金ぴかですね!宝石も綺麗です!」


 アンジュが呑気に像を見てはしゃいでいる。


 像は剣を掲げ、左手には魔王の角を持ち、頭には王冠を載せていた。


足元に“英雄アルフレッド像”と書かれている。


 怒りで腸が煮えくり返りそうだ。

 頭に血が上ったのか、視界の端が赤い。


「決めた」

 

「賢者さん、この世の物とは思えないくらい邪悪な顔をしてますよ。子供が見たら一週間は悪夢に魘されそうです」


 アンジュが顔を覗き込んで言ってきた。

 当のアンジュは俺の邪悪らしい顔に怯むでもなく満面の笑顔だ。


「馬鹿言え、これは笑顔だ」


 勇者をこのブロンズ像の前で殺してやろう。

 あいつを称えるこの像の目の前で殺す、そこそこいい復讐だろう?


 思いついた高揚感で、眉間にしわは寄っているが口の端は吊り上がり笑顔を作っている。

 

「ボス、perfectな計画を聞かせてくれないか?」


「ああ、お前には期待してるぞ、フムス」

  

 勇者は俺自身の手で殺す。

 だがそれがバレちゃ俺が晒し首になる。


 フムスとケビンを入れ替え、犯人に仕立て上げるつもりだ。


 命を造り出せる《審理の黙示録》は便利だ。

 土人形は俺の言うことをすべて聞く。

 

 人間を奴隷にするのは面倒だからな。

 薬漬けにしたら使い物にならなくなる。

 

 半端に知能が残っていたらこちらが報復で殺されるかもしれない。


 裏切ることがなく手足となって動く存在が居ることの、なんと都合がいいことか。


 近くの喫茶店で座り、俺はフムスに計画を説明した。


 ◇


 喫茶店の外のテラス席に座り、メモ帳と羽ペンで計画を書く。

 

「計画は簡単だ」


 簡単で、この上なくシンプル。

 

「一、フムスがケビンと入れ替わる。二、パレードを滞りなく進め、スピーチが終わった後、このブロンズ像の前で勇者とエドワード王を銃で殺す。三、馬を走らせる」


 フムスに伝えるべきことはこれで全てだ。


「OKボス」


 フムスが言った。

 何の関係もない人間を殺し犯罪者になれ、と言っているが、反論も不満もないようだ。


 魔法で作った土人形は便利だ。


「銃はケビンの家にあったものを使う。今日の夜取ってくるから、それを腹に仕込んでケビンと入れ替われ」


「なんでここなんですか?」


 アンジュがキュケオンを食べながら言った。

 キュケオンはチーズ、卵、蜂蜜、ミントが入った麦粥だ。

 店によって入れるミントが違い、味のバリエーションが多い。


「帰り道が一番気が抜けるだろう?」


 勇者のブロンズ像の前なのは、単に俺の趣味だがな。

 俺とフムスはサンドイッチを食べている。


 フムスは口に綿を詰めたまま、下膨れになった頬を更に膨らませながら器用にサンドイッチを食べていた。


「銃には一発弾を込めておく。エドワード王に当てろ、勇者には空砲を撃て」


「ボス、それだとアルフレッドをkillはできないぜ?」


「俺が遠くから狙撃する。エドワード王に弾が当たらなくても俺が殺すから気楽に撃てよ」


 勇者は俺自身の手で殺したいしな。

 そうでないと復讐が終わらない。


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