第二十九話 カモフラージュ
次の日の朝、フロントにいるセシルに話しかけ、王都全体の地図を手に入れた。
地図を持って部屋に戻る。
今日はパレードの経路を実際に歩くつもりだ。
ケビンそっくりで、警備兵の制服を着たフムスを連れてはいけないから、変装させることにした。
目立つ警備兵の制服は宿のクローゼットにしまいこみ、土からありふれた布の服を作る。
その後スキンヘッドの鬘を作り、フムスの頭にかぶせる。
口の中に綿を含ませ、頬を膨らませて下膨れの顔にした。
ダメ押しで伊達メガネをつける。
目元は変わらないが、フムスはケビンよりも厳つい風貌となった。
「いいかフムス、今日一日、お前は俺と同じ田舎から王都に出てきた観光客だ。ケビンとの関係は、他の人間に言うな」
「かしこまりました」
「知人同士でそんな口調だと怪しまれる。今日はケビンに似ていない砕けた口調で過ごせ」
「OKボス。グッドラック」
フムスが親指を突き立てて言った。
ラッパーの様な軽い口調だ。
下膨れの顔に伸びた顎髭、スキンヘッドの見た目も相まってアウトロー感が増した。
砕けた口調、とは言ったが砕け過ぎている気がする。
鬱陶しい。
いいか、ケビンと似せるなという命令はクリアしている。
「パレードの経路を確認しないとな」
「経路はバッチリキッチリ頭に入ってるぜ!perfect routeに着いてきな」
フムスが自分の胸を叩いた。
「パレードの時間は三時間だったか」
フムスによれば、ケビンは今日城の中でパレードの最終確認をしているらしい。
「ポポロ広場って、最初に来た時に看板にニュースが書かれていた場所ですよね」
「ああ」
「行って帰ってくるだけに、三時間もかかりますか?」
「お嬢ちゃん、グッドクエスチョンだ。それだけなら一時間ほどでジ・エンドだな」
アンジュの言う通り、城門から広場を往復しても一時間もかからない。
早歩きなら40分程で往復できるだろう。
「広場でスピーチをやるんだろ。パレードだしな。これ以上ないほど馬をゆっくり進ませて広場まで一時間ってところじゃないか」
「なんてこった、俺が説明するまでもなかったぜ。ボス、あんたはジーニアスだ」
「賢者さん、すごいです!」
イエーイ、となぜか意気投合したフムスとアンジュがハイタッチをしている。
こういう雰囲気は苦手だ。
ハイタッチなんて生涯やることはないだろう。
「フムス、馬車がいつどこを通るかは分かるか?地図に分かるだけ時間を書き込んでくれ」
「OKボス。完璧にこなしてみせるぜ」
フムスが羽ペンで地図に時間を書き込んでいく。
口調とは裏腹に活字に近いカッチリとした字だった。
「終わったぞ、ボス」
テーブルに広げられた地図には30分置きの馬車の位置と、スピーチの時間が書かれていた。
エドワード王の後にアルフレッド王がスピーチをするらしい。
「パレードの警備の位置は分かるか?」
「NO。Sorryボス。全ては分からない」
フムスが持っているケビンの記憶では、昨日パレードの御者をやることが決まったらしい。
俺と会った酒場に来る前に初めてパレードの打ち合わせをしたそうだ。
本来はパレード当日、監視塔で見張りをやる予定で、細かな警備の計画を聞かされていなかった、とフムスは言った。
「分かった。パレード当日のケビンのスケジュールを教えてくれ」
「お安い御用さ」
羽ペンの隣に置かれていたメモ帳に、ケビンの24時間のスケジュールが書かれていく。
フムスの書いたケビンのスケジュールによると、ケビンはパレードの前日、城の宿舎に泊まるらしい。
起床後に馬と馬車の点検をし、昼休憩の後にパレードに参加する兵士が集まる総会に参加して14時にスタンバイ、が大まかな流れだった。
「馬車がスタンバイする場所は?」
「城のgateの前だな。15時に門が開くまでそこで待機している」
「そうか。総会に参加する人数は?」
「50人だ」
ケビンとフムスを入れ替えるのは、総会が終わった直後、パレードの直前にするか。
王よりも御者の到着が遅い、なんてことはあり得ないだろうし、必ずケビンが一人になる時間はある。
総会に参加する50人が移動するときにフムスが紛れ込むのが、一番違和感がないだろう。
「総会の場所は分かるか?」
「城のcenter、中庭だ」
メモ帳に、魔法で覗いた城の見取り図を描いていく。
フムスから聞いた情報をそこに書き込んでいった。
「賢者さん、お城の間取りが分かるんですか?」
「魔法で見たからな」
昨日《審理の黙示録》を使って知った構造を紙に書き写した。
書き終わり、それを折りたたんでローブのポケットに入れた。
「実際に歩いてみるか」
「王都を歩くんですね!リリスちゃんのお土産も買いましょうよ!」
アンジュの言葉で、魔王城を出る前にリリスに土産を買うといったことを思い出した。
焼き菓子でも買えば喜ぶだろう。
「フムス、先に部屋を出ろ。宿に泊まってる人数がいつの間にか一人増えてたなんて、バレたら説明できない」
「OKボス。先にget outな」
フムスが立ち去ってから5分後俺とアンジュは部屋から出た。
宿の主人に掃除は不要だと伝える。
クローゼットにある警備兵の制服には布袋をかぶせているが、万が一見つかったら面倒だ。
宿から少し離れたところでフムスが待っていた。
遠目だと完全にケビンとは別人だ。
俺たちはパレードの出発地点である城へと向かった。
◇
昨日城からホテルまで歩いた道を、逆方向に歩く。
至る所にパレードとアリスの前夜祭ライブのポスターが貼られている。
「明日はアリスのライブですね!」
アンジュがポスターを指さしながら言った。
「場所はどこなんだろうな」
ポスターには、15時開演、マルケルス劇場と書かれていた。
マルケルス劇場、聞いたことがある気がするがぴんと来ない。
演劇を見に行ったことは無いしな。
「ボス、ガイドするぜ。マルケルス劇場の場所も分かる」
「いや、まずはパレードの下調べだ」
俺を封印し、魔王を倒したと名声を得た勇者を、褒め称える民衆の中で殺す。
復讐にはピッタリだ。
勇者を殺しちまえば俺が禁忌の魔法を手に入れたことを知る人間も居なくなるしな。
城への道を歩いていると、背後から声を掛けられた。
「ケビン?」
女の声だった。
ケビンが近くに居るのか?
それともフムスがケビンの土人形だとバレた?
聞こえないふりをして立ち去ろうとしたが、女がフムスの腕を掴んだ。
「ちょっと、ケビン、聞こえてるんでしょ」
心臓の鼓動が早くなり、冷や汗が出てきた。
フムスは振り返り、女に向き合った。
「何だあんた!?what?俺はフムスだ」
声を更に低くし、女を睨みながらフムスが言った。
目つきがケビンの数倍鋭い。
「え、あ、ごめんなさい……。恋人と後姿が似てたの」
「お嬢ちゃん、新手の口説き文句かい?」
「そんなつもりは……ごめんなさい、人違いだったわ」
女はそう言いケビンを掴んだ手を離して足早に去っていった。
「びっっっくりしましたね!」
黙って事の成り行きを見守っていたアンジュが口を開いた。
俺も驚いた。
まだ心臓の音がうるさい。
「全く、勘違いには困るぜ」
やれやれ、とフムスが首を振った。
今日一日はケビンとの関係を隠し、フムスとして振る舞えという命令を忠実に守っているようだ。
「恋人に似てるって言ってましたね」
「ああ、ケビンの婚約者だろうな」
もうすぐ結婚すると酒場でケビンは言っていた。
あの女がその相手なのだろう。
ケビンが女と結婚することは無い。
「悪いな」
去っていった女に向かって独り言を呟いた。
◇
その後は問題なく城までの道を進んだ。
城の前の橋にたどり着き、そこから城を眺める。
「何回見てもいいものですね!」
橋に並べられている天使像を見てアンジュが言った。
昨日と同じように門番が城の前に立っている。
ピーッと鋭い笛の音が響いた。
ガラガラと車輪が回る音がする。
振り向くと、馬車が城に向かってゆっくりと進んでいた。
「パレードのリハーサルか?」
馬車の御者はケビンではないようだ。
変わったのだろうか。
「記憶ではこの日リハーサルなんて予定はナッシングだった」
フムスが言った。
馬車は豪華だ。
品のいい木目が出た茶色い車体に、金で装飾がされている。
これに乗るのは王族だろう。
昨日盗み聞きした城の会議で、今日、エドワード王が帰還すると言っていたし、中に居るのは国王だろうか。
外からでは馬車の中に誰が座っているかは分からない。
パレードに使う馬車ではないな。
移動用だ。
馬車はそのまま橋を渡り、開いた城門から城の中へと入っていく。
エドワード王の顔も見ておかないとな。
勇者と一緒に確実に殺さなければ、敵討ちに動くだろうしな。
国王も一緒に殺した方が容疑者も、予測される動機も増えるはずだ。
勇者だけを殺すと俺に結び付けるやつが増えるかもしれない。
◇
「じゃあここから広場まで歩くか」
馬車を見送った後、俺たちはパレードの順路を歩いて辿り始めた。
パレードの経路は行きと帰りで違うらしい。
パレードの日、馬車は東にある城を出発し、南から西にあるポポロ広場に向かったあと、広場を出て北から城に帰る。
時計回りに城とポポロ広場を移動するようだ。
地図を片手に移動し、ポポロ広場に着いた。




