第二十七話 土で出来た人形
「アンジュ、これで会計を済ませとけ」
そう言ってアンジュに金貨を一枚渡した。
「え?はい、分かりました。賢者さんはどこへ?」
「復讐の仕込みだ」
そう言って俺は店を出たケビンの後を追った。
酒に酔ったケビンは、ふらつきながら自宅に向かっていた。
時折道路に置いてある荷物にぶつかり、人間とぶつかったと勘違いして頭を下げている。
見つからないようにフードを目深にかぶり、物陰に身を隠しながら後をつけた。
ここまで警戒しなくても、したたかに酔っぱらったケビンに見つかることはなさそうだ。
ふいにケビンが後ろを振り向いた。
俺は慌てて民家の陰に隠れる。
「気づかれたか?」
そうは見えないが、ケビンも城の警備兵だ。
勘がいいのかもしれない。
息を潜めて様子を伺う。
「しっしっ、あっちに行け」
ケビンが鬱陶し気に言った。
犬猫に向ける口調だ。
「邪魔だ、どけ。あっちに行けったら」
民家の陰から顔を出し、ケビンを見ると、彼の足元には4匹の猫がじゃれついていた。
後をつけているのがバレたわけではなさそうだ。
「驚かせやがって」
ケビンは猫を追い払った後また歩き始めた。
悪態をついて尾行を続ける。
20分後、ケビンの家に着いた。
王都の端の方にある、石造りの小さな二階建ての家だった。
「うん?鍵、どれだ」
ガチャガチャと乱暴に音を立ててケビンが扉の鍵を開け、そのまま家に入っていった。
ケビンが扉を閉めた後、ガチャンと鍵が閉まる音がした。
「お邪魔しようか」
ケビンの家を外から眺める。
遅い時間なこともあり、外には俺以外に誰も居ない。
家主が帰っても家に明かりがつかない。
ケビンはそのままベッドに入って眠ったようだ。
家の裏手に回ると、羊皮紙が張られた窓があった。
羊皮紙を外から破り、中を覗く。
ここは台所のようだ。
ケビンの姿は見えない。
羊皮紙を全部取り去り、ただの穴になった窓からケビンの家に侵入した。
玄関から入ってすぐ台所がある。
テーブルも置いてある。
他の部屋は見当たらない。
「寝室は二階か」
階段を上ると、大きな鼾が聞こえてきた。
階段の上には扉がなく、二階すべてで一室になっている。
ベッドには、寝巻になったケビンが大の字になって眠っていた。
酒を飲んだからか、起きる気配はない。
鼾の度に胸が大きく上下している。
念のために睡眠の魔法をかけた。
「《スリープ、眠れ》」
ケビンは更に鼾を大きくして、深い眠りについた。
これで多少物音を立てても目を覚まさないだろう。
部屋を見渡すと、壁に警備兵の制服と銃が掛けられていた。
警備兵の制服を手に取り、破いた窓の羊皮紙に魔法をかける。
羊皮紙から制服と全く同じ服を作り出した。
次は一度台所に行き、そこで見つけた大きな盥を手に取った。
盥を持ったまま玄関の鍵を開けて外に行き、その盥に盛れるだけの土を盛る。
盥から土が山に見える位持った後、家に戻った。
盥を抱えて階段を上り、ケビンが眠るベッドの隣に置いた。
ケビンの毛髪を抜き取ってたらいに盛られた土の中に混ぜる。
そして城でテラ達使用人を造り出したときに使った魔法を土にかけた。
「《審理に問う、我、命を望む。黒き土より生ずる白き肉、赤き血、青き魂を望む》」
ケビンを正確にイメージし、瓜二つの人間を作る。
たらいの中の土が盛り上がり、段々と人の形になる。
数分後、たらいの中にはケビンそっくりの男が立っていた。
「創造主様、命をくださったこと、感謝いたします」
男はたらいの中に立って、裸のまま頭を下げた。
声が酒場で話したケビンの声よりも低い気がする。
今も聞こえているケビンの鼾にイメージが引きずられたらしい。
この程度ならバレないだろう。
見た目は眠っているケビンとそっくりだ。
「よろしくな。これを着ろ」
そう言って羊皮紙から作った警備兵の制服を渡す。
土からできた男は指示通りに制服を身に着けた。
「創造主様、私はケビンと名乗ればいいでしょうか」
制服を身に着け盥から出た男が背筋を伸ばしハキハキと言った。
「俺はフムスと呼ぶ。他の奴の前ではケビンとして振る舞え」
「かしこまりました」
フムスに誰にも見つからずに宿の部屋に向かうように告げ、俺は盥をもとの位置に戻し、土から羊皮紙を作って窓に貼りなおした後、俺は宿に向かった。
◇
「なんであなたがここにいるんですか!?」
「店で会ったコリンに言われてきた」
「コリン!?誰ですか、それ。勘違いですよ」
宿にたどり着いた俺は借りた部屋の前に立った。
扉の向こうからはアンジュとフムスが言い争う声が聞こえる。
フムスは、俺以外の前ではケビンとして振る舞え、という命令を忠実に守っているようだ。
アンジュは完全に飯屋で話した城の警備兵だと思い込んでいる。
ケビンにコリンだと名乗ったのを、アンジュは聞いていなかったらしい。
「賢者さんと私の部屋なんです。関係ない人は帰ってください!」
「お嬢ちゃん、それは困る」
「何でですか!?」
「コリンとの約束なんだ。落ち着いてくれ」
「意味が分かりません!」
そろそろ中に入るか。
フムスは自分が土から作られた人形だと言わない。
そう言えばアンジュは納得するだろうが、聞かれて答えるようじゃ計画に支障が出る。
ケビンとして、今まで生きてきた人間として話すフムスに満足した。
テラや城の使用人は全員硬い口調だから心配したが、言葉使いもケビンそっくりだ。
ノックをせずにガチャリとドアノブを回して俺は部屋に入った。




