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第二十六話 城の警備兵

 警備兵の制服に身を包んだ男は、機嫌よく酒を煽っている。

 髭を蓄えた、30代半ばの男だ。


「俺はコリンだ。あんた、名前は?」


 宿で書いた偽名を名乗り、男に尋ねた。


「ケビンだ」


「観光で王都に来たんだ。三日後にあるパレードを見にね」


「そりゃいい」


 男が飲んでいるのは、金属のグラスに注がれたビールだった。

 口の周りに泡をつけながら、ケビンと名乗った男は実にうまそうにビールを飲んでいた。


「パレードを見に来る奴は多い」


「宿が取れなくて苦労したよ」


 ケビンに調子を合わせて言う。


「王都は常に人が多いがな、この時期は特に多いんだ」


「今も店は満員だしな」


「パレードの見る場所を取るのに、朝から並ぶやつもいる」


「どの辺りが見やすい?王都に来たばかりで分からない」


「そうさな、やっぱりスピーチもやる広場だろう。毎年人だかりが出来る」


「先代の王もパレードに参加するらしいな」


 勇者について聞く。


「ああ、広場でスピーチもやるはずだ」


「あんたもそこでパレードを見るのかい?」


 警備兵なら近くで護衛だろうか。


「いや、俺は馬車の御者だ」


 予想外の答えが返ってきた。

 俺はついてるらしい。

 パレードに使う馬車の御者に会えるとは。


 一杯目を空にした男が、店員を呼び止めた。


「ビールをもう一杯」


 鼻が赤くなっている。

 ペースは速いが、酒に強い訳ではないようだ。


「パレードの御者なんて、名誉な仕事じゃないか」


「やりたがる奴は多かった」


 手持ち無沙汰になったのか、空になったグラスの水滴をふき取りながらケビンが言った。


「急遽人が足らなくなってな、駆り出されたのよ」


 それを聞いた俺は、盗み聞きした城の会話を思い出した。


『調査団と援助部隊を派遣します』


 ドラゴンに襲われたウテメの街に調査と支援の兵を派遣した為に、パレードに参列する兵士の数が足らなくなったのだろう。


 今王都の城周辺は混乱しているらしい。

 願ってもいないことだ。


「あんたにとっちゃ、ラッキーだな」


 すっとぼけてなんの事情も知らない観光客としてケビンに言った。

 俺にとっても幸運だ。


「そうに違いない。俺は運がいい」


「御者はあんたの他にいるのかい?」


「俺一人だ。何せ人手が足りない」


 俺の飲んでいた蜂蜜酒のグラスも空になった。

 店員を呼び止め、葡萄酒を注文する。


「葡萄酒を瓶ごと持ってきてくれ。それからグラスを二つ」


 葡萄酒の瓶はすぐにテーブルに運ばれてきた。


 俺は空のグラスに葡萄酒を注ぎ、ケビンに差し出す。


「葡萄酒は飲むかい?ここで会ったのも何かの縁だ。一緒に飲もうぜ」


「葡萄酒は好物だ。いいとも」


 ケビンは何の疑いもなくグラスを受け取った。


「乾杯!」


 俺とケビンはグラスをぶつけ、葡萄酒を飲んだ。


「俺はもうすぐ結婚するんだ」


「いいね」


「家族ができる」


 ケビンの身の上話を聞いた。

 故郷に両親を残して入都し、今は独りで暮らしているらしい。


「お前さんも早い方がいいぞ」


「考えとくよ」


 肩をすくめて答える。

 結婚なんて考えたこともない。


「今は一人だから狭い家だがな、引っ越す予定だ」


 一人で暮らす城の兵士、丁度いいな。

 俺はほくそ笑んだ。


 ◇


 テーブルの上には、ホログラムで剣士のインタビューが流れていた。

 熊との戦いは剣士の勝利で終わったようだ。

 インタビューの後はダイジェストとスローモーションで剣士が熊に止めを刺したシーンが映された。

 

 店の客は終わった試合に関心を示していないようだ。


 インタビューが終わるとホログラムが消えた。

 それと同時に、明るく、テンポが良く、キャッチーな音楽が流れ始めた。


 次に現れたホログラムは、金髪の踊る少女だった。


「アイドルです!」


 アイドル?

 王都に来る時にアンジュが言っていたな。


 店の客が歓声を上げている。

 皆この少女が誰かを知っているらしい。


 少女の顔がアップになった。


 髪の色、表情、雰囲気もまるっきり違うから最初は気づかなかったが、よく見ると、少女の顔はミアにそっくりだった。


「何だ、これは」


 口から驚きの声がもれた。

 ミアの顔をした少女が、短いスカートを着て、歌い、踊っている。


 讃美歌とも違う歌はテンポが早い。


「何だ、知らないのか?アリスだよ。アイドルアリス。エドワード王の娘がアイドルをやっているのさ」


 葡萄酒を飲みながらケビンが言った。

 王都の人間にとっては常識らしい。

 エドワード王の娘、ということはこいつは勇者の孫か。


 通りでミアに似てるはずだ。


「タイガー!ファイヤー!サイバー!ファイバー!」


 店の客が、打ち合わせをしたかのように声を揃え、曲に合わせて光る棒を振っている。


「サイリウム、お使いになりますか?」


 絡繰り人形の店員が、光る棒を客に配り歩いている。

 この棒はサイリウムというらしい。


「ああ」


 店員からサイリウムを受け取り、眺めた。

 

 アンジュとケビンは他の客と同じように店員から受け取ったサイリウムを振っていた。

 お姫様がアイドルか。

 時代は変わるものだ。


「サイバー!ファイバー!」


 隣のアンジュのテンションが高い。


「お嬢ちゃん、アイドルが好きなのかい?」


「はい!これを見るために王都に来たといっても過言ではありません」


 俺を挟んでアンジュとケビンが話し始めた。


「パレードの前日、明後日にアリスのコンサートがあるんだ。俺はいけなくなったから、あんた達にチケットをやるよ」


 ケビンはそう言って、財布からチケットを取り出した。


「いいのか?」


「ワインの礼だ。空席があるよりは、はるばる王都まで来た観光客が観る方がいい」


 手渡されたチケットには、『魔王征伐50周年パレード 前夜祭ライブ』と書かれていた。


「楽しんでくれ。じゃあな、パレードで会おう」


 そう言って、ケビンは店を出て行った。

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