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第二十四話 案内人

「検索が終わりました。27件のお店がおすすめ出来ます」


 セシルは前触れなく目を開けて言った。

 うなじの魔法陣を書き写し、50年前の絡繰り人形(マリオネット)用魔法陣と見比べていた俺は声に驚き肩をびくつかせた。


「賢者さん、どうします?」


 27件も店があるのか。


「ジャンル、ランキング、場所、口コミをお聞きになりますか?」


 セシルはにこやかに言った。

 情報量が多いな。


「アンジュ、何か食べたいものはあるか?」


「私、お肉が食べたいです!」


「かしこまりました」


 セシルがまた目を閉じた。

 データベースからこちらの条件に合うものを提示する仕組みか。

 

 便利なもんだ。


「オステリア・バルベはいかがでしょうか?」


「どう行けばいい?」


「少々お待ちください」


 セシルはそう言い、脇のハイテーブルに置いてあったクリップボードを手に取った。

 左手でクリップボードを持ち右手をかざした。


 右手の指の付け根から細くインクが出ている。


 右手を広げたまま左から右へ五回ほど移動させた。


「お待たせしました」


 セシルがこちら側にクリップボードを向けた。

 そこには地図が書いてある。

 経路は青い線が描かれていた。


 セシルはクリップボードを指さしながら説明を始めた。


「この赤い星が現在地、王都ホテルです。扉を出たら右手に進んでください。まっすぐ130m進むとロータリーに突き当たります。そこからまた右に曲がってください。そして80m進んで、二本目の交差点を今度は左に曲がって、川を渡ってください。260m歩き、ペンナ通りまで進んだら左に曲がって、トルト通りまで100m進んでください。トルト通りを右に曲がって、そのまま道なりに350m進むと、ピンチ門が見えます。そこからポルタ通りを道なりに240m進めばあります。目的地のオステリア・バルべはこの青い星です。徒歩15分程の道のりです」


 地図を見ながら説明を聞くが、頭にはあまり入ってこない。

 口頭で場所のやり取りをするのって面倒だよな。


 地図はあるし、ピンチ門の場所は分かる。

 図形は頭に入ってるからたどり着けるだろう。


 アンジュは一生懸命地図に顔を近づけ、指でセシルと一緒に地図をなぞりながら説明を聞いている。


「なるほど、トルト通りを左に行けばいいんですね!」


「違います、トルト通りを右です」


 とんちんかんな受け答えをしている。

 アンジュの間違いに一つ一つ丁寧にセシルが答えている。

 アンジュに期待するのはやめておこう。


 人間なら何度も同じ説明をするのは嫌になるよな。

 絡繰り人形(マリオネット)だから出来ることなのだろう。


「えっと、ロータリーは東に?」


「いえ、ロータリーまで進んだら南に行ってください」


 アンジュとセシルがまた最初から地図をなぞり始めた。


「セシル、説明はもういい。ありがとう」


 セシルにお礼を言い、説明を終わらせた。


「お役に立てて何よりです。何か分からないことがございましたら気軽にお声をおかけください」


 セシルはお辞儀をしてクリップボードから地図を外し、渡してきた。


 地図の裏には王都ホテルの広告が書かれていた。

 商売上手だな。


「賢者さん、道分かるんですか!?」


「地図があるんだから分かるだろ」


「すごい!流石賢者さん!王都育ちは伊達じゃない!」


「それは関係ない」


 50年前にもピンチ門はあった。

 なんとなくの方角はわかるが、そこに至るまでの道は大分様変わりしている。


 受け取った地図に書かれている通りの名前も、半分以上知らないものだった。


 ◇


 俺たちは外に出て酒場へと向かった。


 セシルに渡された地図の通りに進んでいく。

 人通りが多いな。

 

 学校の外にはたまにしか出なかったが、もっと少なかったはずだ。

 平和になって人口が増えたのかもしれない。


「お肉ーお肉ーお肉さまー!楽しみです!」


 アンジュが全身で喜びを表現しながら歩く。

 幼児みたいだ。


 丘も整備されている。

 草が伸び放題だったただの小高い丘が、丁寧に芝が敷かれ豪華な天使の像が建つ公園になっている。

 

 もう夜が近いからか、子供の姿はない。

 丘の芝に腰掛けているのはカップルが多い。


 しばらく歩くと、店に着いた。

 白い看板と扉の上に店の名前が書かれている。


 中は広い。

 まだ夜が始まったばかりの時間だが、客はそこそこ入っているようだ。


「着きましたね!」


「ああ」


「すごいです賢者さん、本当に迷わずに来れました!」


 どこに感動してるんだろう。

 アンジュ一人なら一晩経っても着けなかったかもな。


 店からは酒の匂いと肉を焼いた匂いが漂ってきた。


 木製の扉を押して中に入った。

 ガランガランと重いベルの音がする。


「いらっしゃいませー!」


 若い女の店員がこちらに気づいた。


「二人なんだが、席はあるか?」


 指を二本突き出し店員に伝える。

 アンジュはきょろきょろと店内を見渡していた。

 石で出来た建物だ。

 壁には所狭しと絵画が並べられている。


「はい!空いているお席にどうぞ!」


 20人程が腰掛けられる大きなテーブルと、四人掛けのテーブルがいくつか、それからカウンターがある。

 

 客の話は相席の方が聞きやすいだろう。

 

 中央に鎮座している大きなテーブルに腰掛けた。


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