第二十二話 王都
王都の近くの低い山の頂上に着陸する。
レッドの背から飛び降りた。
「ありがとうございます!レッドさん!」
アンジュがぺこりとレッドにお辞儀をしてお礼を言う。
俺はレッドを撫で、城に戻るように命令した。
俺たちを運び終えたレッドは再び空へと飛び立ち、雲の中へと消えていった。
「着きましたね!王都!」
「50年も経ってると、色々と変わってるだろうな」
山の上から王都を見下ろす。
魔法学校の場所は変わっていないらしい。
少しほっとした。
俺の記憶通りの場所に、記憶通りの学校があった。
レンガ造りの朱色の建物だ。
現在は勇者が住んでいるだろう城も見える。
しかし記憶にあるよりも家や建造物が増えている気がする。
こんなに密集して建ってなかったはずだ。
王都自体の面積も増えている。
城壁が追加されたようだ。
昔からある城壁の囲いの東側に、同じ面積の城郭都市ができている。
「王都が広くなってる」
「そうなんですか?」
「ああ、俺が居たころはあの一角が丸々なかった。」
「賢者さんはどのあたりに住んでたんですか?」
「あの西北にあるレンガ造りの建物、あそこだ」
そう言って魔法学校を指さした。
「おっきな建物!ええ!あれが家!?」
「違う、あれは学校だ。寮に住んでた」
あれが丸々個人の持ち物なわけないだろう。
王様よりもいい待遇じゃないか。
「王都では今、アイドルが流行っているらしいですよ!」
「アイドルだ?」
なんだそれ。
アイドルって偶像だろう。
偶像崇拝は教会が禁止してる。
偶像が流行るってどういうことだ?
「はい!王都でしか見られませんからね、すっごく楽しみです!」
いつもより更にテンションが高くなったアンジュがはしゃぐ。
もう飛び跳ねてるようにすら見える。
だから山でそんなにフラフラするなよ、転ぶぞ。
「勇者は城に住んでるはずだ。50年も経ってる。俺の顔を知ってるやつは居ないと思うが、用心しないとな」
「分かりました」
「いいかアンジュ、目立たず、騒ぐな。」
「アイアイサー!」
本当にやばくなったら顔を変えるつもりだ。
勇者と会う確率なんてゼロに等しい。
今日のところはこのままでいいだろう。
俺たちは山を降り、王都に向かった。
◇
山を降り、王都に入る為の城門のそばまで来た。
こんなに壁は大きかったんだな。
この中に住んでいた頃は、城壁の大きさなんて考えたこともなかった。
「あそこから入れるみたいですね!」
「待て」
肩を掴んで、城門に堂々と入ろうとするアンジュを止める。
「何ですか?」
何ですかじゃない。
「行旅書簡はあるのか?」
行旅書簡は、王都に入るための身分証明書だ。
王都には人も富も集まる。
それだけ魔物にも蛮族にも狙われやすい。
入るには、冒険者か行商人であることを証明する書簡が必要なはずだ。
「何ですかそれ?そんなのなくても入れますよ?」
アンジュはキョトンとした顔をしている。
もしかして、今の時代だと必要ないのか?
大丈夫です!と言い切るアンジュがあまりに自信に溢れている。
俺はアンジュの肩を掴んだ手を離した。
そこまで言うならアンジュの言うとおりにしてみよう。
「じゃあアンジュが先に行けよ、俺は遠くから見てるから」
「賢者さん、心配性ですね」
50年前は行旅書簡なしで無理に入ろうとした奴は、門番に刺殺された。
身分が証明できても書簡なしなら収容所行だった。
俺の危惧などどこ吹く風でアンジュは城門に向かう。
「こんにちは!」
「こんにちは。何をしに王都へ?」
鉄で出来た槍を持つ門番がにこやかに問う。
「観光です!」
「そう、楽しんで」
門が開いた。
軽いな。
今の門番は形式だけの物らしい。
アンジュが言ったとおりだ。
行旅書簡も、身分の証明書もいらない。
俺はアンジュが無事に中に入ったことを確認して、城門に進んだ。
「あーこんにちは」
「こんにちは。何をしに王都へ?」
アンジュがされていたのと同じ質問だ。
同じように答える。
「観光です」
「そう」
よし、王都へは入れそうだ。
しかし門番は答えた後門を開こうとしない。
訝し気な目をして顎に手を当てて聞いてきた。
「君、その手に持っている杖はなんだ?」
迂闊だった。
竜の牙の杖はこの時代じゃ違法なんだった。
城に置いてくればよかったな。
「何って、普通の杖ですよ。」
門番の目を見て、淡々と答える。
こいつ一人しかいない。
監視カメラの位置と死角を確認する。
殺してもバレないだろうし、ごねるなら埋めよう。
顔と服を変えちまえば捕まりはしないはずだ。
門番がじっくりと俺を見る。
「まさかな。いいぞ、入れ。よい時間を!」
門が開く。
入れるらしい。
良かった、門番を殺さずに済んだ。
杖を隠すために布袋を作り、背中に担ぐ。
中に入ると、アンジュが待っていた。
「賢者さん、50年ぶりの王都はどうですか?」
王都は、俺の記憶にあるよりも、華やかになっている。
視界に入る建物はどれも傷一つなく、手入れと掃除が行き届いている。
城や教会にだけ使われていた漆喰が、普通の家屋にも使われているようだ。
白い壁をした建物が多い。
「人が多いな」
口からでた初めての感想はそれだった。
前はこんなに道路に人が居なかった。
そして行きかう人々の表情が心なしか明るい。
ドン!
「わっ、ごめんなさい!」
遠くを見ていると、子供がぶつかってきた。
スリか?
疑い、子供の腕を掴む。
しかし子供は逃げるそぶりを見せない。
懐の金貨がつまった袋も無事だ。
本当にただぶつかっただけなのか。
「気をつけろよ」
申し訳なさそうにこちらを伺う子供にそう返し、掴んだ腕を放した。
子供はペコリと頭をさげ、他の子供達がいる方へと走っていった。
「貴族の子供か?随分こぎれいな服を着てるな」
「王都に住んでる子ですもの、オシャレなんですよ!」
周囲を見渡す。
子供もちらほらいるが、ボロをまとっているのは居ない。
昔は煙突掃除で煤にまみれた薄黒い子供ばかりだった。
今の時代はみな元の白い顔のままだ。
平和だな。
勇者の善政で街は見違えてる。
街の中心部に行くと、大きな掲示板と噴水がある広場に出た。
縦は俺の背丈位、横幅はその三倍くらいの白い板だ。
文字が刻まれている。
▽月〇日
『訃報 ソロン評議員 82歳で死去 議員生活35年の重鎮』
『キュケオン、最高の売り上げに 新ギルド長インタビュー』
『円盤投げ、ユルゲン選手 新記録』
『ブダイのチーズとオリーブ焼き、今が旬 今日使えるレシピ』
『エドワード王便り』
王都で起こったことが書かれているようだ。
大きな見出しの下に記事が書かれている。
エドワードってのが今の王の名か。
エドワード王便りを詳しく読む。
『エドワード王は×日、トドロの街の追悼式にご臨席されました。魔王軍の侵略により失われた10000人の冥福を祈る追悼式は今年で47回目となります。追悼式には多くの住民が集まりました。エドワード王は悲劇が再び繰り返されることがないことを願う言葉を述べられました。住民らは王の言葉にじっと耳を傾けていました。
今週末は魔王征伐50周年を祝うパレードに、アルフレッド前王と共に臨まれます。』
トドロの街、懐かしいな。
俺が橋を落とした街だ。
今週末ってことはあと三日後か?
勇者の顔を拝むのが思ったより早くなりそうだな。
広場から城を見上げる。
あそこに俺を封印した勇者がいる。
王だろうがなんだろうが関係ない。
殺さないと俺の気が収まらない。
アレにとってはもう50年前の昔のことかもしれないが、俺にとってはついこの間、一週間もたっていない出来事なのだ。
「アンジュ、城にいくぞ」
城の見取り図も把握しておこう。
《審理の黙示録》で出来るはずだ。
「はい!」
俺はアンジュと一緒に城に向かって歩き出した。




