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第二十話 大好き

「この姿の方が、話をよく聞いてくれると思って」


 少女の声はミアにそっくりだ。

 真っ白なワンピースを着た少女は、自分の体を不思議そうに見ている。


「お前は誰だ」


 俺は少女に向かって杖を構えた。


「好きに呼んで!」


 こちらの警戒心などどこ吹く風だ。

 両手を後ろで組み、こちらに上半身を傾けてにこやかに言う。 


「どこから現れた」


「どこからでも!」


「魔物か?」


「違うよ」


「神か?」


「今はそう呼ぶ人はいないな」


 少女が足の膝から下をぶらぶらと遊ばせながら言う。

 今はってことは、昔はそう呼ばれていたのか?


「じゃあ何なんだ」


「わかんない」


 少女は笑う。

 ミアにそっくりだが、ミアと全然似ていない。

 ミアは笑うときに口に手を添えて控えめに笑うが、この少女は口を横に広げ歯を見せて笑っている。


「誰ですか?知り合いですか?」


 アンジュが俺と少女の顔を交互に見て言う。


「違うはずだ」


 少女は俺から目線を外さない。

 アンジュが居ないかのように話している。


「街に出たドラゴンはお前の仕業か?」


 杖を突き付けたまま聞くと少女はこくりとうなずいた。


「そうだよ」


 あっさりと少女がうなずく。

 悪いことだと認識していないようだ。


「何が目的だ?」


「君たちには、知る権利があると思ったんだ!」


「知る権利だと?」


「この世界は今、魔物がいないでしょ?」


「ああ」


「君たちは人形じゃない。何も知ることが出来ないなんて、ひどいよ」


「世界を悪で埋め尽くしたいってことか?」


 アンジュは出会ったときそういった。

 この少女もそれが目的なのか?

 俺が魔王になるよりも、地獄との門を開いて魔物をあふれさせる方が早いだろう。


「違うよ」


「じゃあ何が望みなんだよ」


「ただ知って欲しいだけさ。君たち自身の可能性とこれからを!」


 アンジュ以上に頭がおかしい。

 それに得体が知れない。

 こいつは何だ。


「それに、君もう引き返せないんだから」


 ミアに似た何かが笑う。

 

「何だって?」


「僕を殺したじゃない」


 そう言って少女は近づき、俺の手を取り、自分の胸に当てた。

 胸の柔らかさとぬくもりが手のひらから伝わってくる。

 

「なんですか!?賢者さんから離れてください!」


 アンジュが少女の腕を俺から引きはがそうとする。

 見た目によらず少女の力は強いらしい。

 アンジュが顔を真っ赤にして力を込めても、水色の少女はびくともしない。


「…殺したのはお前じゃない」


「門も開いたしね」


「俺にとって必要だったからな」


「僕はこんなに君が好きなのに!」


「それは何に対する答えにもなってない」


 言葉は通じているのに、話が通じない。

 違和感に背筋が寒くなる。


「僕は君が大好きなんだ」


「そいつはどうも」


 少女は悲しそうに眉尻を下げた。

 俺の手をつかんでいた手を放し、俺に抱き着いてきた。


「大好き!大好き!大好き!」


「キャー、この馬鹿力!離れてくださいってば!」


 アンジュが後ろで喚くが、少女は離れるそぶりを見せない。

 少女は俺でも振りほどけない。

 こいつ人間じゃねえ。


「ねえ、君はどうしたら僕を好きになってくれる?」


 少女があどけない瞳で俺を見る。

 言葉も顔つきも可憐だが俺を抱きしめる腕の力は万力の様に強い。


「そうだな、リリスを何とかしたら、好きになるかもな」


 そう言って俺は鎖に縫い付けられ床に横たわっているリリスを指さした。

 俺から離れろ。


「あの子、魔族だね。可哀そうに」


 少女は腕を放し、リリスの方へ歩いた。


 ◇


 少女の肩を掴み、引っ張っていたアンジュが支えを急に失って転げた。


「いたた…」


 アンジュが打った尻をさすりながら言う。


「なんじゃ、おぬし」


 リリスが突然現れた少女を訝しげに見る。


「今楽にしてあげるね」


 少女はそう言い、かがんで横たわるリリスに口づけた。


「ん!?んーーー!?」


 驚きで目を見開いたリリスがじたばたと暴れる。

 俺でも振りほどけないんだ。

 リリスでは無理だろう。


「今度はリリスちゃん!?」


 アンジュが叫ぶ。


 少女はリリスの暴れる手足をものともしない。

 しばらく後、ゆっくりと離れた。


「げほっ、ごほっ、おぬし、何を飲ませた!?」


「君が楽になる薬だよ」


「だからそれ…。」


 リリスは最後まで言い切らずに気を失った。


 俺は杖を構えて少女と自分の間にシールドを張った。


「リリスに何をした?」


「彼女が目覚めたら分かるよ」


 少女はしゃがんで眠るリリスの顔をなでる。

 リリスの鎖はすっかり消えていた。


 少女が俺に視線を向けた。


「僕はどこにでもいる。いつでも見てるよ。お兄ちゃん」


 そう言い残し、水色の少女は消えた。


「何だったんだ」

 

「賢者さんと随分仲良さげに見えましたけど!」


 アンジュは怒っているようだ。


 ブラコンのミアが、勇者以外を兄と呼ぶわけがない。

 あれはミアじゃない。

 ミアは俺が殺した。


「知らねえよ。見た目は知り合いと一緒だったが、中身は別物だ」


 俺は布を作って、眠るリリスの上にかけた。


 翌日、目を覚ましたリリスは、俺のことを「父上」と呼んだ。

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