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第十九話 地獄の扉

 ミアの心臓を抉り出した後、魔法陣の上に置く。

 そしてミアの周りの薪に火をつけた。


 ズズズ、ズズ…


 何かが這う音が聞こえてくる。

  

 森の中から巨大な白蛇が現れた。

 

「魔物か?」


 杖を構える。

 魔物ではないらしい蛇は、チロチロと舌を出して首をかしげた。


「ぐっ」


 蛇と目があった瞬間、俺は動けなくなった。


 唯一動く目玉で蛇の動きを追う。


 蛇はゆっくりとミアが横たわる祭壇に近づき、大きく口を開け、ミアを頭から丸のみにした。


 すっかりミアを収めた白蛇の腹は大きく膨らんでいる。

 固まったまま白蛇を見ていると、瞬きの間に白蛇は消えてしまった。


「何だったんだ」


 いつの間にか声が出るようになっている。

 体も動く。


 祭壇の上の火は消え、ミアは開かれた胸のまま、先ほどと変わらず祭壇に横たわっていた。

 心臓は消えていた。

 

「熱い」


 左手に熱さを感じ見てみると、そこには魔法陣と同じ図が刻まれていた。

 太陽に手をかざす。


「成功だ」


 体力も、魔力も回復しきっている。

 

「アハハ、アハハハハハハ!」


 こんなに愉快な気分は初めてだ。

 存在を知ってから十年、ついに《審理の黙示録》を手に入れた!


 一人で涙が出るほど笑った後、勇者のもとへ戻り、治療をした。


 それまで使えなかった聖魔法も、回復魔法も思うままに操れた。


 ◇


「賢者さん?どうかしましたか?」


 知らないうちに考え込んでいたらしい。

 アンジュが顔を覗き込んできた。


「いや、何でもない」


 そう言って近づく整った顔を押し返す。

 何でもないことだ。

 もう終わったことで、もう変わらないことだ。


「すっごく変な顔してましたよ」


「変な顔って?」


「眉間にしわがいっぱいでした」


 こんな感じです、とアンジュが眉間にしわを寄せる。

 口も変な風に曲がっているが、あまりしわを作れていない。


「しわを寄せているつもりか?」


「はい、もうこれは取れない位しわが出来ている気がします」


 そう言って更にむむむ、と口がへの字になる。

 だがやはり眉間にしわはほとんど出来ない。


 話すうちに魔王城の近くまで来た。

 街で使い魔にしたドラゴンが城の側で待っていた。

 魔王城に帰れという命令を、忠実に守ったようだ。


「お帰りなさいませ。創造主様」

 

「テラか」


「はーい!戻りましたよ!」


 布袋を身に纏ったテラが、十人ほどの使用人と一緒に出迎えをした。

 全員が同時に恭しくお辞儀をする。

 

 仕草と身に着けているものがあまりに不釣り合いだ。

 こいつらにも何か服を用意した方がいいかもな。


 二階の入り口まで飛び上がり、城に入る。


 「待ってください~」


 アンジュが梯子を上って城に入って来た。


 リリスは地下室にいる。


「話を聞かねえとな」


 俺はすぐに地下室に向かった。


 リリスは地下室の中央に横たわっていた。

 リリスを拘束する鎖の量が減っている。

 昨日よりは俺への敵意を減らしたらしい。


「リリス、何をした?」


「何もしとらんわ」


「街にドラゴンが出た。この城から来てた」


「ぬしがかけた術で、わらわは動けん」


 リリスが気だるげに答える。


 リリスの言うとおり、リリスの腹から伸びる鎖は、数は減っていたがリリスをその場につなぎとめていた。


「リリスちゃん、リリスちゃん、お土産買ってきたんですよ!」


 アンジュがそう言って街で買った熊のぬいぐるみを差し出した。


「熊のぬいぐるみです!かわいいでしょう!」


 アンジュがリリスにぬいぐるみを渡す。


「…いらぬ。それよりもこの男に鎖を外すように言ってくれ」


 リリスはアンジュからぬいぐるみを受け取らずに首を振った。


「あら、そうですか。残念です」


 じゃあ私がもらいますね!とアンジュがぬいぐるみを抱きしめる。

 お前、自分が欲しいものを選んだだろ。


「リリス、その鎖は俺への敵意で増える」


「契約を切れば鎖も消えよう」


 虚ろな目をしたリリスに返す。


「俺がわざわざ捕まえた使い魔を手放すと思うか?」


「人間、魔族よりも恐ろしいの」


 リリスはそう言い、鎖をなでた。

 プレゼントは失敗したが、確実にリリスの敵意は減っているようだ。

 いい傾向だろう。


 リリスから視線を外し、小部屋の方を見る。

 そこは開いていた。

 

 城を出たときは閉まっていたはずだ。


「あれ?扉閉めずに来ちゃいましたっけ」


「いや、誰かが開けたんだ」


 アンジュと二人で小部屋に入る。


「門だ」


 魔方陣の真ん中には、大きな扉があった。


「ドラゴンはここをくぐって来たんですかね」


 試しに扉の取っ手に手をかけてみる。

 鍵はかかってない。

 このハンドルを回せばこの扉は開く。


「多分な」


「開けましょう!開けましょう!」


「開けたら魔物が出るぞ」


「サイッコーじゃないですか!!」


 アンジュが目を輝かせる。

 こいつはそれが目的だったな。


「賢者さんだって、魔物が多い方が良いでしょう?」


「そうだな」


 癪だがアンジュの言う通りだ。


 この悪が滅んだ世界だと、武器の調達すらままならない。

 魔物が現れれば混乱が起き、復讐はしやすくなる。


「じゃあもう一思いに開けちゃいましょうよ!」


 勇者は俺が生きてることを知れば殺そうとするだろう。

 俺が生き抜く為には、俺以外の世界の敵は必要だ。


「…開ける。アンジュ、盾になれ」


 もう引き返すつもりはない。

 ずっとそうしてきた。

 魔王を倒したのも、今この扉を開けるのも、それが俺にとって最善だからだ。


「アイアイサー!」


 アンジュの後ろから扉を開けた。

 …何も起こらない。

 禍禍しいものは感じるが、期待したほどの劇的な変化はない。


「これは、本当に地獄の門なのか?」


「光が世界を覆い尽くすまで、50年かかってますし」


 アンジュが言った。

 魔物が増えるのも、時間がかかるのか。


「賢者様!会いたかった!」


 開いた扉から声がする。

 扉の中には、ミアにそっくりの水色の髪、水色の瞳を持つ白いワンピースを着た少女が立っていた。


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