第十八話 生け贄の儀式
グロ注意です。
「うっ、うっ、うっ」
勇者に取りすがって、僧侶が泣いている。
「なんで回復してないんだ?」
「分からない」
目を覚ました俺がつぶやくと、戦士が首を振り答えた。
想定外の状況に混乱する。
勇者のスキル《神の加護》は、1%でも勇者が勝つ可能性があれば、発動する。
《神の加護》が発動すれば、あらゆるバフ付きで、勇者は全回復する。
今までの旅の中で勇者が死にかけても、しばらくすれば勇者は全回復していた。
「賢者様!お兄様にレイズをかけてください!」
「あ、ああ」
俺が唯一使える回復魔法は、闇魔法のレイズだ。
一晩経ち、持ち直したMPで蘇生魔法を使う。
「《償い、贖い、報いとしての生を。レイズ》」
魔法陣が現れ、勇者の周りを回る。
勇者が浮き、魔法陣が光りだした。
ドスン!
魔法陣は消え、勇者は地面に落ちた。
「お兄様!」
「勇者!」
「闇魔法は勇者にはかけられない」
《神の加護》を受けた勇者には、闇魔法が効かない。
それは大半の魔物の魔法が効かないという、長所のはずだった。
勇者は内臓がいくつか破裂しているが、かろうじて生きている。
僧侶のおかげだろう。
「勇者は1%でも勝つ可能性があれば、回復する」
「そのはずよ」
「今の勇者は、雑魚に勝つ可能性すら、1%もないんだ」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
僧侶が号泣しながら懺悔の言葉を口にする。
勇者に向けてか、俺たちに向けてか、勝利を待つ人々に向けてか、おそらく全てに対してだろう。
「ここまでか…」
俺は天を仰ぎ、諦めの言葉を口にした。
絶望感が襲ってくる。
「ちくしょう、ちくしょう…」
戦士が地面を蹴り握った拳を震わせている。
「み、んな…すまない…」
勇者が血を吐きながら言う。
「お兄様!話してはダメです!」
「次の、ゆうしゃと…魔王を…」
勇者はそう言い、目を閉じた。
「うわあああああああん!」
僧侶がとうとう大声を上げて泣き出した。
「勇者…」
「僧侶、お前処女か?」
俺は泣く僧侶に向かって聞いた。
「こんな時になに言ってんだ!」
戦士が俺の胸倉をつかんできた。
浮いた体で答える。
「勇者を助けられるかもしれない」
「助けられる!?方法があるのか?」
「賢者様!お兄様を助けてください。私に出来ることでしたら何でも致します!!」
僧侶が目に涙をいっぱいに溜めて詰め寄ってくる。
水色の瞳が水を湛えて揺れている。
「《審理の黙示録》があれば、勇者を救えるはずだ」
「《審理の黙示録》?なんだそれは」
戦士が俺をつかんだ手を放していった。
ストン、と体が地面に着地する。
「《審理の黙示録》ですって…!?」
僧侶は両手を口に当て、信じられないという風に俺を見た。
「教会では、外法って言われてるらしいな」
「ええ…その魔法を扱った書物は、教会が全て焼き払いました…発動条件を知っている人は居ないはずです」
「石盤に書いてたんだ。この間解読が終わった」
俺はそう言って聖刻文字でかかれた丸い石の板を見せた。
「…私にはなんて書いてあるか分かりません」
「聖魔法力が高い処女の核心を審理に捧げれば、その力が得られる、と書いてある」
「核心って…」
「心臓のことだな」
僧侶はそれを聞いて、唇を噛み俯いた。
「ミアに死ねって言ってるのか?」
戦士が言った。
「そうなる。教会は生け贄を否定してるからな。外法扱いされたのは、この魔法を得るのに生け贄が必要だからだ。」
「他に方法は無いのかよ!?」
戦士が激高した。
「少なくとも、俺は知らない。どうする?僧侶、早く決めないと勇者は死ぬぜ」
僧侶は深呼吸をして、涙を拭いた。
そして震える声で言った。
「それでお兄様が助かるなら、私の命など惜しくありません」
そう言うと思った。
「決まりだな」
「僧侶、こいつはなにか企んでるのかもしれないわ!」
勇者の介抱をしている魔法使いが叫ぶ。
「ミアを殺しちまったら、勇者に会わせる顔がねえ!」
戦士も僧侶を生け贄にするのに反対のようだ。
ミアの肩をつかみ、思いとどまらせようとしている。
「皆さん、ありがとうございます。…さよなら」
ミアは笑って言った後、メイスを持って呪文をかけた。
「《スリープ、神よ、あなたの子羊に安らかな眠りを》」
魔法をかけられた戦士と魔法使いはその場に崩れ落ちた。
「賢者様、よろしくお願いいたします」
そう言ってミアはお辞儀をした。
「ああ」
俺はうなずいた。
さすがに勇者の近くで儀式をやるのは酷だろうと考えた俺は、少し離れた空き地で儀式を行うことにした。
「み…あ…」
衰弱した勇者がつぶやく。
必死に僧侶に手を伸ばそうとしているが、勇者の体は動かない。
「お兄様、お元気で」
それがこの兄妹の最後の会話になった。
◇
少し離れた場所に開けた場所を見つけた。
ここにするか。
「《ストーン、隆起せよ》」
魔法で地面に石を生やす。
ミアが横たわれるくらいの大きさだ。
これを儀式の祭壇に使う。
「儀式の内容を、聞いてもいいですか?」
僧侶が言った。
これから死ぬ恐怖から、体は震えている。
「その石に横たわったお前の心臓を、ナイフで抉って魔法陣に置く。体を祭壇の上で燃やす」
俺は簡潔に答えた。
石盤から解読できたのは、《審理の魔法》を得るための儀式の方法だけだ。
その後どうなるかは、俺も知らない。
「…分かりました」
ミアが静かに泣き出した。
そんなに泣いても涙は枯れないものなんだな。
「痛みを軽減するために、混乱と睡眠、麻痺の魔法はかけるが…それでも想像を絶する苦しさだろう」
「はい…。覚悟は決めてます」
祭壇の上に薪を並べた。
祭壇の周りにも薪を並べ、火をともした。
まだ火のついていない祭壇の薪の中に僧侶が裸になって横たわった。
水色の髪が祭壇の上に広がり、厳かな雰囲気を醸し出している。
「何か、言い残すことはあるか?」
覚悟を決めたとの言葉通り、涙を流すのをやめ、硬い表情になったミアに聞く。
「戦士様には、いつも守ってくれてありがとう、と。魔法使いには、いつも私のために怒ってくれてありがとう、と」
ぽつり、ぽつりと小さな声で僧侶が言う。
一呼吸おいた僧侶は、俺の方を見ていった。
「賢者様、ここまで私たちが進んでこれたのは、あなたのおかげです。最後まで兄をよろしくお願いします」
「…勇者には?」
「世界で一番愛しておりますとお伝えください」
「分かった」
遺言の後、杖を持って僧侶に向ける。
「《カオス、混乱せよ》」
「がっ!」
僧侶が混乱し、白目をむいて手足をばたつかせ始めた。
「《パラライズ、麻痺せよ》」
「うっ!」
僧侶が麻痺し、中途半端に持ち上げた腕をそのままに動かなくなった。
「《スリープ、眠れ》」
「……。」
僧侶は目を閉じ、持ち上がった腕をダランと祭壇に投げ出した。
祭壇の周りの薪は勢いよく燃えている。
俺は儀式を始めた。
「《我は自分をさして誓う》」
「《我は何物も惜しまない》」
「《我は何物も躊躇わない》」
「《強欲に愛を、傲慢に慈悲を》」
「《欺瞞を尊び、あなたの言葉に従おう》」
青色に光る魔法陣が現れた。
俺はナイフを眠る僧侶に突き立てた。
僧侶の真っ白な胸から、赤い血が吹き出す。
「ぐうっえ!」
僧侶が目を覚ましうめき声をあげた。
睡眠の効果は切れたが、麻痺と混乱の効果は消えていないようだ。
白目を向き、体はビクビクと跳ねている。
俺はまたナイフを振り上げた。




