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第十六話 鍛冶屋

「おい!開けろよ!」


 爺さんが閉めたドアをドンドンと叩く。

 

「帰れ!厄介ごとには巻き込まれたくない」


「ここは鍛冶屋だろ?杖が作ってほしくて来ただけだ。厄介事じゃねえよ」


「竜は絶滅したはずだ!魔物がいなくなってもう何十年も経った。竜の牙なぞ持ってくる人間は碌な奴じゃない!」


 一理ある。

 魔物がいない世界で先ほどまで街で暴れていた竜の牙を担いで持ってくる人間は、疑われて当然だ。

 手放しで俺を称賛した街の奴らがおかしい。


 この爺さんは50年前の世界を知っているのだろう。

 魔物がはびこり、いきなり友人が魔物に殺されるのが当たり前な世界。

 生き抜くのに必死だった時代を。


 疑り深い人間は嫌いじゃない。

 俺も封印されてなかったらこれくらいの年齢の爺になっていただろうな。


「おいおい、俺は街を救った英雄だぜ?その言い草はあんまりじゃねえの?」

 

「あんな恐ろしい竜を倒したって?ますます怪しいわ!帰ってくれ!」


「つれないねえ」


 俺は肩に担いだ竜の牙を地面に置いた。


「賢者さん、お爺さん開けてくれませんね」


「頑固な爺だ」


「他の鍛冶屋に行ってみましょうか?」


「いや、50年前から武器を作っている奴に頼みたい」


 鍛冶屋の看板には、『創業100年!魔物退治に活躍した伝統の技!』と書かれていた。


 全身の血行が良くなる魔法なんて必要ねえからな。


「《バースト、爆ぜよ》」


 俺は杖を構え、鍛冶屋のドアを爆破した。

 中には爆破の衝撃で吹っ飛び、尻餅をついた爺さんが転がっていた。


「俺は頼みごとが苦手なんだ。爺さん、話を聞く気になったかい?」


 自宅のドアを吹き飛ばされて顔面蒼白になった爺さんが、逃げられないことを悟ったのか、ゆっくりとうなづいた。


 ◇


「アンジュ、牙を中に運べ」


「分かりました!」


 家はこじんまりとした小屋だった。

 ここは受付兼自宅で、仕事場は別にあるらしい。


 広くはない部屋に牙を運び込むと、それだけで足の踏み場がなくなった。


 中央にあるテーブルに腰掛け、爺さんと話す。


「この牙から杖を作ってもらいたい。いま持ってる杖はもう大分ガタが来ててな」


 手に持った杖を爺さんに渡す。

 爺さんはモノクルを身に着け杖をじっくりと見た。


「これは…竜の牙に【魔法攻撃特化(マジック・バースト)】のエンチャント…違法だぞ」

 

 俺の時代は違法じゃなかったんだよ。


「取り締まるほどのものじゃないと思うが?」


「40年前に魔物を素材とする武器の製造は禁止された。闇売買が横行したが、武器の売人も十年ほど前に先の王が撲滅した。」


 先の王、勇者のことだろう。

 魔王を倒した後もご苦労なこったな。


「前王は今どこにいる?」


「王都で今の王のサポートをしてるはずだ。数年前に現王の戴冠式があったろう?」


 俺はそのとき魔王城の奥深くに封印されていた。

 そんなことは初めて聞いた、

 

 現職の王様よりは隠居してる方が復讐はしやすい。


 勇者の子孫を殺してもいい。

 ああいういい子ちゃんタイプには、自分が殺されるよりも家族が殺される方がこたえるだろう。


 机の上のお茶を飲みながら、どう勇者に復讐してやろうかと想像を膨らませる。

 子供や孫を拘束した勇者のまえで一人ずつ殺すのもいい。

  勇者が建てた城を、瓦礫にしてやってもいい。


 問題は、魔王がいなくなった今も勇者の固有スキルが発動するのかどうかだ。

 勇者は、魔王を倒すために神に選ばれ、様々な加護を与えられる。

 魔王が倒された今、勇者は勇者たりえるのだろうか。


「爺さん、牙から今の杖と同じやつを作ってくれ。エンチャントは【魔法攻撃特化(マジック・バースト)】で頼む」


「それは違法なんだ。バレたら首が飛ぶ」


「バレなきゃいいだろ」


「厄介事はごめんだ。ほかに頼んでくれ」


 渋る爺さんに、金貨でいっぱいになった布袋を渡す。


「報酬はこれだけ払う」


「…金の問題じゃない」


 爺さんは袋の中身を見た後、少し迷い、袋を押し返してきた。


 金でもダメか。

 仕方がない、脅そう。


「なあ爺さん、お前に選択権があると思ってるのか?」


 口をへの字に曲げ、腕組みをした爺さんに向かって杖を突き付けた。


「年寄りがすこーしばかり早く寿命を迎えたって、誰も不思議に思わないぜ」


「あんた、本当に人間か?」


「この時代の人間は、疑うことを知らない。竜を倒した英雄が、街の外れにある鍛冶屋の爺さんを殺したなんて、だれも思わない。この金貨を受け取って、俺の言うとおりにする方が利口だと思うがね」


「魔物がいた時代を知ってるのか?」


 俺は答えなかった。

 見た目はどう見ても50歳に達していない俺が、魔王が猛威を振るっていた時代を知っているのはおかしいだろう。

 魔王を倒した本人だということも、50年間封印されていたことも、教えてやる必要はない。


「どうする?俺はあんまり気が長い方じゃない。あのドアみたいに爆破されたくはないだろ?」


 ダメ押しで杖でほんの少し火を灯し、爺さんの耳にあてた。


「熱い!わかった、分かったよ」


 爺さんに約束を取り付け、俺は爺さんがこのことを口外できないようにアンジュに施したのと同じ魔法をかけた。


 爺さんが聞いた音を聞けるようになる魔法。

 俺がいつでも爺さんを自爆させられる魔法。

 俺に攻撃しようとしたら、カウンターが発動する魔法。


「いいか、逃げたり誰かにこのことをしゃべったら自爆させるからな」


「分かった。半月くれ。それまでには仕上げよう」


「一週間」


「それは無茶だ」


「死にたいのか?」


 杖を首に突きつける。


「…分かった」


 一週間後にまた来る、と言い残し、俺とアンジュは鍛冶屋を出た。

 そしてなぜドラゴンが街に出たのかを知るために、魔王城に向かった。

 

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