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第十五話 どうせ生えてくるなら

「ギャアアアァアアアアッス!!!」


 首をすべて生え揃えた竜が吠える。

 切っても次々に頭が生えてくる。


 まだ落とされていない頭が、首を不自然に曲げながら俺に向かってブレスを噴く。

 

「どうせ生えてくるなら!」 


 俺は剣を振るい、全ての頭を切り落とした。


 これでしばらくは攻撃ができない。


「心臓を刺せば殺せるだろうが、殺すと使い魔に出来ないしな」


 生えてくるそばから竜の頭を切り落とす。

 頭のない首の先から黒い血を流す竜は、ひっくり返って墨を吐くタコのように間抜けな姿をしている。


「切り口を塞いで頭が生えないようにするか」


「《フリーズ、凍てよ》」


 空気が揺らぐほどの熱を持った竜の体温がどんどんと下がる。

 どくどくと大量の血液がながれる切り口を氷でふさいだ。


 左端の首を残して、六本の首全てを凍らせる。

 凍って白くなった首たちは、雪が積もった枯れ木の様になった。


 頭は生えてこなくなったようだ。


 契約の魔法には相手の同意が必要だ。

 俺は、体温が下がったせいか、先ほどまでよりもゆっくりと形をなす頭が、竜になるのを待った。



「賢者さん終わりましたか?」


 竜を使い魔にし、一息ついていると、アンジュが話しかけてきた。

 竜には治療をして、魔王城に行くように命令した。 


「いつからいたんだ」


「暑かった街の気温が一気に下がったので、終わったのかなあと思って来ちゃいました」


 それまでは熱くて近づけなかったんです、とアンジュが言う。

 首を凍らせたころだな。


「ああ、終わった」


「魔王の娘の悪魔に、街を火の海にした龍!配下がどんどん増えて、着実に魔王に近づいてますね!」


「配下じゃなくて使い魔だ」


「おつかれさまです!未来の魔王様!」


 魔王になるかどうかは、まだ決めてないんだが。


「あのう、お疲れのところ申し訳ないんですけど…、」


「何だ?」


「治療してください」


 そう言ってアンジュはスルスルと上着を脱いで背中を見せた。

 無傷に見えたが、服の下はカビが生え毒による腫物ができていた。

 カビが盛り上がり背中はデコボコだ。

 緑と紫のまだら模様になっている。


「《ヒール、回復せよ》」


 腕をくっつけたりするよりは早く治るな。

 回復魔法をかけられたアンジュが身をよじっている。


「動くなよ、治りが遅くなる」


「すみ、くふふ、すみません」


 笑いをこらえたアンジュが答えた。 

 口元を抑えているが肩が震えている。

 動くなって言ってんだろうが。

 苛立った俺は杖でアンジュを殴った。


 アンジュは頭にできたたんこぶをさすり、まだ細かく揺れている。

 

 回復魔法をかけていると、一人の自警団らしき女が近づいてきた。


「あの竜を一人で…あんた、何者だい」


「賢者さんはいずれこの世をもっと楽しい世界にする人ですよ!」


 アンジュが上半身をむき出しにしたまま答える。

 もっと楽しい世界、お前が望むのはもっと皆が苦しむお前が楽しい世界だろ。


「あー、絶滅したはずの竜が出るなんて、災難だったな」


「ありがとう。街が落ち着いたら必ずお礼をするよ」


 見たことがない竜に、見たことがない魔力を持った俺が同時に現れたのに、疑わないんだな。

 50年前に同じことをやったら、確実に俺の自作自演だと言われたが。


 勇者がこの街で起きたことを知ったら、真っ先に俺を疑うだろうしな。


「あんたの名前を聞かせてくれないか?」


「…オズだ」


 名前を聞かれたが一応偽名で返す。

 とっさに出てきたのは死んだ子を抱えて泣く女が呼んだ名前だった。

 復讐が終わるまでに勇者の耳に入るのは避けたい。


「なあ、この街の鍛冶屋は生きてるか?」


「鍛冶屋の家は街の外れにあるよ。ここより被害が小さい。生きてるはずさ」


「そいつはどうも」


 俺は女に鍛冶屋の場所を聞いた。


 ここには切り落とした竜の頭が山ほど転がっている。

 竜の牙もだ。

 強力な杖が作れるはずだ。


 俺は黒い血と溶けた人間の液にまみれて沈黙している竜の頭から、牙を抜いた。


「賢者さん、何をしてるんですか?」


「牙が武器の素材になるだろうと思ってな。アンジュも手伝ってくれ」


「アイアイサー!」


 牙を抜き、杖になりそうな大きなものを2、3本選んで抱えた。


 俺たちはそのままの足で街の外れにあるという鍛冶屋に向かった。


 鍛冶屋の扉をたたくと、中から偏屈そうな爺さんが出てきた。


「なんだ?見ない顔だな」


「武器を作ってほしいんだ。金ならある。素材も持ってきた」


 そう言って肩に担いだ竜の牙を爺さんに見せた。


「は!?」


 爺さんは驚きの声を上げた後、バタンと扉を閉めた。

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