第十四話 大人しく捌かれろ
竜のブレスで空は赤くなっている。
丸焼けにされた人間の死体を飛び越えながら正体を現した竜のもとへ走る。
「オズ!オズ!!!」
子供を失くした母親が、半分黒くなった子供の亡骸を抱えて必死に名前を呼んでいる。
その光景を見て物悲しい気分になった。
「ガキ一人がそんなに大事かねえ」
魔法学校に入るまで孤児院で暮らしていた俺は、家族というものがよく分からない。
父親が作った借金での言い争いから、刃物での切り合いに発展して、両親はあっけなく死んでしまった。
秩序無く叫ぶ人々を横目に走り続け、竜の目と鼻の先まで来た。
竜の巨体で、真下は暗い影になっている。
竜自体が高温なのだろう。
竜の周りの空気が、熱で揺らいでいる。
竜の真下には半分溶けた人間の死体が山になっていた。
ここにいるだけで普通の人間は熱で溶けてしまう。
山はひと塊となり、流れ出た血液で赤黒い色をしている。
錆びたくず鉄の集まりに見える。
近くで見ないとそれが元は人間だったとは分からないだろう。
「深淵を這う蛇よ。俺の使い魔になってもらうぜ」
竜に剣を突き付ける。
「ギャアアアァアアアア!!!」
竜は返答をする様に叫んだ。
身に着けている白いマントのフードをかぶる。
赤色の炎を噴く一番目の頭には、角が4本生えていた。
オレンジ色の炎を噴く二番目の頭は、角が生えていなかった。
黄色の炎を噴く三番目の頭には、角が3本生えていた。
緑色の炎を噴く四番目の頭は、角が生えていなかった。
水色の炎を噴く五番目の頭には、角が2本生えていた。
青色の炎を噴く六番目の頭は、角が生えていなかった。
紫色の炎を噴く七番目の頭には、角が1本生えていた。
それぞれの角には、金でできた王冠が通されていた。
「王冠を10個も身に着けるなんて、生意気な野郎だな」
使い魔にした暁には、すべての王冠を奪い、売り払ってやろう。
似合ってねえしな。
竜の首は七つがバラバラに動いている。
それぞれに意識があるようだ
竜が息を吸い込んだ。
ブレスだ。
ゴゴゴゴゴゴゴ!
すさまじい音を立てて赤と緑の炎が迫ってくる。
飛び上がって避けると、今度は水色と青色の炎が襲ってきた。
シールドを張り防ぐ。
近距離のせいか、シールドが一瞬で霧になってしまった。
シールドを追加する。
身に着けた白いマントを目の前に広げ、盾にした。
マントが炎を弾く。
若葉にはじかれた雨粒の様に、炎が玉になって周りに飛んでいく。
石造りの見張り台の上に着地し、マントをしっかりと体に巻き付ける。
剣先を竜に向け、そのまま一直線に跳躍する。
七色のブレスが襲ってくる。
視界が七色の炎でいっぱいになる。
子供がひっくり返したおもちゃ箱の中にいるようだ。
グサリ!
竜の体に剣先が食い込んだ。
剣を更に深く突き刺す。
「シャアアアアア!!」
竜が痛みで吠える。
食い込んだ剣を振り落とそうと竜が首をブンブンと振り回す。
「うおっ、危ねえな」
刺さった剣を使って竜の首によじ登り、3本の角が生えた竜の頭の上に立つ。
「使い魔の契約は、首が一つあれば十分だよな」
七つの頭全てに契約の口上を言うのは手間がかかる。
一つと契約をしている間に、ほかの六つの頭がおとなしく待っているとも思えない。
胴体は一つのようだし、所有印を一つ刻めば良いはずだ。
俺は頭を一つ残して残り六つの頭を切り落とすことにした。
「大人しく捌かれろ」
大剣を更に大きくして首元から飛び上がる。
勢いをつけて三本の角をもつ頭に向かって剣を振り下ろした。
「キョアアァアア!!」
七つの頭が一斉に咆哮する。
三本の角をもつ頭は、咆哮したときの表情で固まったまま、支えを失い地面に落ちた。
「よし、あと5つ」
再び飛び上がり、隣の角の無い頭を切りおとす。
「シャアアアアア!」
一つ叫ぶ頭が減ったからか、一度目よりも叫び声が小さくなっている。
一旦首元に着地し、今度は四本の角を持つ頭に狙いを定める。
「オラ!」
三つ目の頭も切り落とせた。
切り口からはドバドバと黒い血が流れている。
竜の下にあった人間の塊は、黒い血でコーティングされて、いまはチョコレートのようなつやが出ていた。
これで右半分の頭は無くなった。
あと三つの頭を落としたら、契約しよう。
左側に視線をやると、三本角の頭が、何ごとも無かったかのようにそこにあった。
五つの頭が生えている。
「は?」
思わず下を見る。
最初に切り落とした三本角の頭が竜自身の黒い血にまみれて転がっていた。
「生えてきたのか」
三本角の隣の角がない首も、血が止まった切り口がだんだんと盛り上がっている。
この竜にはずば抜けた再生能力があるらしい。
今までの攻撃が無駄になった徒労感が俺を襲う。
「チートじゃねえか」
思わずつぶやいた。




