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第十三話 これくらいひどい世界

「《ソード、剣よ》」


 杖を大剣に変えた。

 レッドドラゴンの後ろに瞬間移動して、後ろから切りかかる。


「オラァ!」


 ブン!


 両手に握った大剣を一気に振り落とす。


「ギャアァアア!」


 斬撃をモロに食らったレッドドラゴンが叫ぶ。


 赤いウロコが固い。

 一つ一つがルビーの様だ。

 一振りでは首を落とせなかった。


 レッドドラゴンは羽を広げて俺から離れていく。

 切り付けた首から、黒い血がぼたぼたと滴り落ちている。

 

「逃がすか」


 レッドドラゴンを追い、また剣を振るった。


 ザシュ!


 キレイに入った!

 レッドドラゴンの背中がパックリと割れる。


 黒い血を流す竜は空中で静止し、首をまっすぐに天に向けた。 

 紫と赤の炎を真上に向かって噴く。


 噴いた炎は渦となり、ドラゴンを覆った。

 炎の卵の中に閉じこもっているようだ。


 数瞬の後に、ひなが卵から孵るようにドラゴンが頭を出した。

 炎の渦から現れたドラゴンは、それまでのレッドドラゴンの姿と違っている。

 

深淵を這う蛇(ダーティビースト)


 角が十本あり、頭が七つあり、角には十の冠がついていた。

 量が増えたウロコは、表皮に直角に生え、毛が生えているようにも見えた。


「あれって、竜ですか?」


 さっきまでの竜と全く違う姿に戸惑ったようにアンジュが言った。

 

「竜は二回生まれる。一回目は普通のドラゴンに。二回目は、ドラゴンがそれまでに獲得した能力で、どんな姿になるのか決まるのさ。」


 俺は竜の生態を説明する。

 あんなに禍禍しい姿をした竜には、長い旅でもあったことは無かった。


 炎から孵ったばかりの竜は、七つの頭をバラバラな方向に向けている。

 七つの頭は同時に息を吸い込み、それぞれに違う色の炎を地表に向けて吐き出した。


「なんて美しい景色なんでしょう!竜の炎で虹ができたようです!」


 アンジュは喜び駆け回っている。

 おいおい、腑抜けていたら死ぬぞ。

 シールドを頭上と体の四方に張り炎を防ぐ。


 ◆


 バチーン!

 

 赤い炎に当たった人間が内側から弾けた。

 爆発の効果があるらしい。


「アハハハハ!アハ、グス、グスン、アハハ、アッハッハッハ!」


 オレンジ色の炎に包まれた人間が、絶体絶命の状況にもかかわらず泣きながら笑い出した。

 麻薬の効果があるらしい。


 ゴロゴロゴロ…ドカーン!


 黄色の炎に当たった人間が、稲妻に撃たれたかの様に震え、動きを止め倒れた。

 雷の効果があるらしい。


「いや、とれない、取れないいいいいい!」


 緑色の炎が当たった人間は、一瞬で全身が緑色のカビに包まれた。

 腐食の効果があるらしい。


 …ぱちんっ


 水色の炎が当たった人間は、炎に当たったあと灰になることもなく消えた。

 霧化の効果があるらしい。


「うわああああああん!うわああああああっ!」


 青色の炎に当たった人間は、オレンジ色のときとは逆にその場に膝をつき大声を上げて泣き始めた。

 精神汚染の効果があるらしい。


「かゆい、かゆいいい、いたい、かゆいい!」


 紫色の炎に包まれた人間は、全身が紫色になり、醜いできものが体中に出来た。

 疫病の効果があるらしい。


 ◆


「あの七色の炎を浴びたら、この世のあらゆる痛みが体験できそうだ」


 痛みが全て味わえる頃には、もう地獄にいるだろうが。


「皆、すっごく苦しそう!嘆き苦しみ悲しんで、神を呪わずにはいられない!」


 アンジュが天を仰いで言った。


「悲鳴と断末魔の中で、時々聞こえる笑い声がシュールだな」


「賢者さん、魔王になったら、これくらいひどい世界にしてくださいね!」


 アンジュが火の手が上がり、明るい街をバックににっこりと笑っていった。

 七色の炎の光に照らされたアンジュは、言葉はともかく、美しい。


「…俺は…」


 勇者には復讐する。

 これは絶対だ。

 この世界の王として君臨し、皆に英雄と称えられているアイツを引きずり落とす。


 魔王になるのは、復讐とは別だ。

 俺はこんな世界が見たいんだろうか?

 空も地面も赤く染まった、悲鳴が常に聞こえる世界を。

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ!


 考え事をしているうちに、竜のターゲットが俺たちになったみたいだ。

 シールドに向かって七色の炎が吐き出される。


「うわあ!七色一気に来ましたよ!フルコースですね!」

 

 考えるのは止めだ。

 今はあの竜を使い魔にすることに専念しよう。

 こんなに強力な魔法を持った竜を狩り損ねたら後悔する。


「《審理に問う。我、雪程に冷たき鎧を望む。凍てつく氷の衣をもって、我が身を保つことを望む》」


 呪文を唱え終わると、真っ白なマントが現れた。

 杖を大剣にし、マントを身に纏う。

 これで竜のブレスが直撃しても、問題ないだろう。


 マントの端を切ってアンジュに渡した。

 

「これで大抵の炎は防げるはずだ」


 受け取ったアンジュは信じられないという風に俺を見てきた。


「賢者さん、賢者さん?炎の熱でおかしくなっちゃったんですか?」


 失礼な奴だ。

 全身火だるまだと治療が面倒なんだよ。


「いらないなら燃やすぞ」


 そういって苛立ち紛れにマントの切れ端に火をつけた。


「うわあ、いります!いりますってば!」


 アチチ、と言いながら火のついた切れ端をアンジュが奪い取る。


「火は熱いのに布は冷たい…不思議な感触ですね」


 アンジュは火を消して不思議そうに布を眺めた。


 マントの切れ端は、火がついていたにも関わらず、真っ白で冷たいままだった。 

 流石俺の魔法、優秀だ。


 俺はシールドを消して七つの頭を持つ竜の元へ飛びあがった。


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