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第十一話 魔物がいませんから

 リリスは壊れてはないようだ。

 魔族は丈夫だ。


「地下室に隠し扉がついていた。中は何もない小部屋だったが、あれは何だ?」


「あれは…地獄とこの世界の通路じゃ。われらはあそこからこの世界に来た」


 意外にもあっさりとリリスが答える。


「そこを開けば、世界に再び悪がよみがえるのか?」


「知らん。父上が門を開き、わらわもそれについてきた。それだけじゃ」


 リリスが淡々という。

 俺の質問に答えないことは、主である俺に逆らうことになる。 

 沈黙を守るだけでも所有印は痛むはずだ。


 所有印から伸びる鎖に、相当痛めつけられたらしい。

 とても素直だ。

 気分が良くなった俺はリリスに鎖を無くす方法を教える。


「リリス、その鎖はな、俺への敵意で増える。俺に敵意を向けなければ無くなるぞ」


「…父上を殺し、翼や腕を切り落とした相手への敵意を失くすほど、わらわは落ちぶれておらぬぞ」


「ずっと鎖に巻き付かれたままでいるつもりか?物好きだな」


 使い魔として使えないのは俺も困るが、こればかりはしょうがない。

 あまりにも時間がかかるようなら、リリスの感情を消そう。

 感情を消すと死への恐怖も無くなるから死にやすくなるんだよな。

 できればそれは避けたい。


「今日は街へでるつもりだ。何か欲しいものはあるか?」


 物で釣ろうとしてみる。

 あれだけの財宝に囲まれていたリリスが欲しがるものはなさそうだが。


「要らぬ。はよう立ち去れ」


 予想通りの答えが返ってくる。

 死ぬなよな、と声をかけて俺はリリスを置いて地下室を出た。

 

 ◇ 


 崖の上に建った魔王城から出て、森をぬける。

 数時間後、俺とアンジュは魔王城に一番近い街に来ていた。

 50年前は悪魔たちが住む城下町だったところだ。

 悪魔に人間だとバレたら殺されるから、魔物のふりをして宿屋にとまった。


 魔物が消えてから、この街の住人は人間になったようだ。

 今回はわざと顔に血を塗ったり、木で作った牙をつけなくても良さそうだ。

 街の景色も、ずいぶんと様変わりしている。

 そこら中にあった、人間の骨でできた街灯もなくなっている。


 人間の皮と骨でできた家具の専門店があった場所は、女性向けの華やかな服屋になっていた。

 骨で組まれた椅子が欲しかったんだが、もう手に入れるのは難しそうだ。

 がっかりだ。


「すっかり人間の街だな」


「王都には劣りますが、ここも結構な都会ですよね」


「服装も50年で大分変わっている気がする」


 俺が封印される前は、庶民の服に模様はなかった。

 王族の晴れ着は金や銀で彩られた刺繍がついていたが、庶民はせいぜい染めた布を身にまとうくらいだった。


 俺自身の服装もほとんど黒のローブだ。


「エルフの里だとあんまり流行とかはないんですけど、人間の街では毎年新しい服が生み出されているらしいですよ」


 簡素な白い布を身にまとったアンジュが言った。

 リリスの魔法弾で燃えた服は、再現できなかったらしい。


「魔物がいませんから、武器屋よりも、日常生活で役に立つ魔法がかかった服のお店が多いです」


「日常生活に役に立つ魔法?」


「汗をかかなくなったり、水に一回つけるだけで汚れがとれたり、息を吹きかけるだけで乾いたり、あとは失くした場所がわかる服もありますよ」


 魔物との戦いではゴミのような機能だが、なるほど、便利そうだ。

 魔王城からかっぱらってきた財宝を質屋に入れ、金貨を手に入れた。

 店員がニコニコと愛想よく、丁寧な対応をするのが印象的だった。


 街に一つずつしかない薬屋に行き、薬や薬草を補充する。

 その後武器屋に向かった。

 杖を買うためだ。

 武器屋には申し訳程度に剣と盾が数個置いてあった。

 武器にできる杖は無いようだった。

 

「新しい杖が欲しかったんだが…ゴミみたいな魔法がかかっているのしかないな」


 杖は学者用と老人用に分かれておいてあった。

 学者用は魔法式が記録され、すぐに呼び出せるものが人気らしい。


 老人用の杖は歩数を記録する機能や、持っているだけで体全体の血行が良くなるものが売れ筋なようだ。

 『当店人気ナンバー1!』と書かれたけばけばしい色の張り紙がしてあった。


「武器はけっこう厳しく取り締まりがしてあります。剣に触ったことがないって子供が増えているらしいです。」


「俺が封印されている間に50年が経ったなんて実感が、今更わいてきたぜ」


 俺が魔法学校に通っていたころは、剣技と魔法は必修科目だった。

 学校に通わない子供も、魔物との戦いで剣技を身に着けていた。

 魔物がいなければ戦う必要はないもんな。


 店員を見つけ、話しかけた。


「なあ、この店に【魔法攻撃特化(マジック・バースト)】の杖はあるかい?できればドラゴンの牙でできたやつがいいんだが」


 この店の制服らしい青い服をきた店員がその問いに不思議そうに答えた。


「ドラゴンの牙でできたものは、今は取引が禁止になってますよ」


「禁止?」


「魔法の威力が上がりすぎますし、ドラゴンが絶滅して牙の採取ができなくなったので、流通を禁止する法律ができたんです。博物館に行けばみられると思います」


 そうか、魔物がいない世界だと魔物から作る武器はすべて無くなるのか。

 今ある杖を修復して使い続けるしかないようだ。

 手に持ったボロボロの杖をクルクルとまわした。




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