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孤独の辺境騎士団  作者: おんすい
第3章 水の都ヴォダ
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第42話「新たな生活へ!②」

 かれこれ一週間はあっという間に経ってしまった。特に忙しくもなく、それほど特別な時間というわけでもなく、ただいつもの日々に「引っ越し」というイベントがはまっただけのようだった。


 「ねーだんちょー! ライがね、ぬいぐるみ持って行っちゃダメって言うの!」


 足にしがみついて、横目でライセングを睨むアカは、何度もアライブにおねだりしてみる。


 「でもよぉアカ、それは荷物が増えるだろ? 向こうでも買えるって」

 「もう! ライは分かってないなぁ! これじゃなきゃダメなの!」


 と、なだめるように話しかけるライセングに、口を尖らせて反論するアカ。間に挟まれたアライブはどうしていいのか分からずおろおろしてしまう始末。


 「もういい、ライなんて知らないもん!」


 プイッと顔を背けて、アカはさっさとぬいぐるみを抱いて馬車に乗ってしまった。


 「あぁ、もう、年頃の女の子は手が焼ける……」


 などとライセングはブツブツ呟きながら自分の作業に戻っていく。

 それぞれが自分の荷物をまとめる中、キッチルだけは遠くからそれを眺めるだけだった。


 「キッチル? どうかしたの?」


 初めに気が付いたのはエルだった。


 「ううん、なんでもない。ただちょっと……」


 少し俯くキッチルにエルは小首を傾げ、その先を促す。


 「私の勘違いかもしれないけど、アライブさんとマルカスさんの荷物が少し多い気がするの……き、気のせいよね……?」


 彼女は、嫌な想像を否定して欲しかったのだろう、エルに質問を問いかける。エルもそれを察したようで、


 「大丈夫、どうせあの二人のことだからつまらないものでも詰めたのよ、迷惑よねぇほんと」


 と言いながらため息をついてみせる。キッチルも、


 「そうよね」


 と小さく笑い、少しだけ笑いあった。

 そんな二人の姿をマルカスは気にしていた。キッチルは特に、空気を読むことが上手くて、適当な嘘ならすぐにバレてしまうほど。そんな彼女にバレるのではないかとチラチラ見ていたが、全然気にしないエルがうまいこと丸めてくれたらしく、事が公に出ることは阻止できた。


 「おーい、そろそろ乗っけてくれー、出発時間に間に合わない」


 アライブの掛け声で、一斉に皆んなが荷物を積みだした。今はまだ朝日も上っていない早朝。最近暖かくなったとはいえ、まだまだ朝は寒い。白い息を吐きながら、忙しく体を動かす。


 「レフライオの荷物は多いからいつも通りあっちの馬車に!」

 「ねー、おねーちゃん手伝ってよ〜」

 「ちょ、キッチルその物騒な……」

 「調理器具です。それに物騒ならマルカスさんの方が上ですよ」

 「あ! それ忘れてた、ありがとー」

 「なんだこりゃぁ……」

 「んふー、おしゃれ道具」


 などとそれなりに楽しく荷物を積めて。


 「だんちょー、鍵締めは?」

 「もう締めたよ。皆んな乗ったか?」


 アライブは馬車の御者台に座り、手綱を握った。


 「それじゃあ新居へ、行くぞー!」

 「「「「「「「おー!!!」」」」」」」


 その大歓声と共に、馬車はゆっくりと動きだした。とくに思い出に浸るわけではなかったのに、結局皆後ろを向いて、小さくなる屋敷をいつまでも眺めていた。




            *




 団員の荷物と命を乗せた馬車はキッチルの風除けの魔法も使いつつ、日が昇り切る前には途中の村まで来ていた。ここでの休憩は無いから素通りのはずが、女性陣の要望で暫しの足止めもとい休憩。


 「なんでこう、女の子は服を買いたがるんだろうなぁ?」

 「俺に聞くなよ」

 「俺もよく分からないや」


 と、呆れるライセングとマルカスとアライブ。アオはすっかり眠ってしまっている。レフライオも別の馬車の御者台で仮眠を取っていた。


 「アカは眠くないのかな? この時間はいつも寝てるよね?」

 「あぁ、まぁよく分からんなぁ」


 ライセングが髭をいじる姿はすっかり歳を重ねている大人のように見えた。空いている手でアオを撫でているあたりも、もう父親なんじゃないかと勘違いするほどだった。


 「おまたせ〜、買い足すのにちょっと時間かかっちゃった」


 そんなこんなで彼女らの買い物も済んだらしく、いよいよ出発しようかとアライブが手綱を掴んだ時だった。


 「騎士様! お待ちください! どうか、お力をお貸しください!」


 そう言って息を荒げてやってきたのは、この村の村長の老人の男だった。シワシワになった顔には、必死の形相が浮かんでいる。今にも倒れこみそうな足を懸命に奮わせていた。


 「どうしました!? 一体何が!」


 アライブが飛び降り、老人に駆け寄った。老人は座り込みながら、村の奥の方に指を向けた。瞬間、轟音と共に、家が一つ空へ吹き飛ばされた。


 「アライブ!」


 マルカスが叫んだ。アライブは、ライセングにアカとアオを守るよう指示を出して、走りだした。マルカスやエル、キッチルもそれに続いて走り出す。物陰では、レフライオが救急処置の準備を始めていた。


 「マルカス、まさか……?」

 「捨てがたい可能性だ」


 すぐさま吹き飛んだ家のところまで向かう。土埃が舞い上がり視界が悪かったが、足を止めない。


 「誰だ! 誰の仕業だ!」


 アライブが叫び続ける。すると、砂埃の中から複数の人影が見えた。


 「……! 誰だ!」

 「やっと見つけたぁ、団長アライブゥ……ヒヒヒ……」


 砂埃から出てきたのは、背が高く、細目の男。猫背で薄く笑う顔は非常に不愉快で、一目で彼の性格が分かる。


 「でもぉ、今殺すのはぁ、勿体無いねぇ……ヒヒ……」


 右手に持つ細身の長剣を気色の悪い舌が舐める。舌は薄く切れて血が滴る。男は、その血を剣に落とした。


 「今日はぁ、ご挨拶だけぇ……ヒヒヒ……じゃぁまたねぇ……」


 男は、血の付いた剣を地面に叩きつけると、舞い上がった砂埃で視界を塞いだ間に、その場から消え去った。

 ほんの一瞬の出来事だった。

 あの時、一瞬の隙を突いて攻撃できたかもしれない。多少村人の恐怖を払拭できたかもしれない。


 アライブは、傾き始めた日の光を正面に浴びながら、そんなことを思っていた。

 村人からは感謝された。何もしていないのに。

 死人は出なかった。あの爆発に巻き込まれた人たちも、レフライオの強力な回復魔法によって完治している。俺は、何もしていないのに。

 何もできない。最強と噂され、次期聖輝の八賢の第一候補などと謳われた男は、何もできなかった。







 彼が、失踪した辺境防衛騎士団副団長、フレイアだったから。

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