第41話「新たな生活へ!①」
「まぁ、いろいろあってだな、引っ越しすることになった!」
団長アライブの高らかな宣言と団員七人の大歓声は、早朝の森を震え上がらせた。
そう、それはつい先週のこと。顔も知らぬ貴族が団員であるエルを誘拐した事件。それによって怒り狂ったマルカスが反撃、壊滅させた。その結果、団長アライブとマルカスに二週間の謹慎が宣告され、暇を持て余していたところに、のしかかった屋敷の使用期限。
「と、いうわけさ」
「だんちょーだんちょー! どこにお引越しするのー?」
赤毛の獣人、アカが手を挙げて質問する。それにアライブは顎を掻いて少し唸る。
「んー、マルカスと見回った感じで良かったのはヴォダの外れにある屋敷かな」
「アライブ、ヴォダってのは……水の都ヴォダか?」
アライブの答えに即座に反応したのは、青と黒の混じった毛並みの獣人、ライセングだ。
「そうだね、水の都ヴォダ、王国第二の都市とも言われる大都会……ま、その田舎の方なんだけど」
愉快に笑うアライブ。そこへすかさず質問を繰り出したのは先週の事件の被害者エル。
「いつぐらいに引っ越すの?」
「だいたい来週ぐらいかな、丁度俺とマルカスの謹慎も解けるし……」
言いつつマルカスをチラリと見るが、彼は睡眠に従事している。ここ一週間は王国内を回ったせいか疲れが溜まっているのだろう。
「まぁ、そういうことだから、早めに荷物まとめててね」
そう言ってアライブは、颯爽と会議室と化した大広間を飛び出していった。その後ろ姿を見つつ、
「謹慎くらったってのに元気だな、若けぇって良いことだ」
などとライセングが大笑いする。女性陣からは溜息しか漏れない。しかも今まで眠りについていたマルカスもそそくさと出ていこうとする。
「お、おい、どこ行くんだ」
ライセングが振り返って呼び止めるが、マルカスは少し止まって手を振るだけだった。
*
「さて、それじゃあ作戦会議といこうか」
切り出したのはアライブだった。
二つの火影が揺れる。屋敷の一番奥にある書物庫でそれは静かに始まった。
「水の都、ヴォダ……」
マルカスが先に口を開いた。
「かつてトール海兵隊が占領していた海軍本拠地」
それは二十年ほど前に遡るが、トール・ロイという男を中心に、落ちぶれた男たちや海賊が集まってできた軍隊によって統治されていた。現在は王国の支配下になり、トール・ロイはじめトール海兵隊の幹部は全て暗殺された。その後トール海兵隊は海軍に名前を変更し、ヴォダの沖合にあるスティル諸島のスティル監獄に投獄されている。有事の際に駆り出される草兵だという。
「それで? アライブは何がしたいんだい?」
向かい合って席に座るマルカスが訊く。アライブは一呼吸置いて、
「……〈黒蛇〉」
一瞬、何を言っているのか分からず、固まってしまった。
「……黒蛇?」
「あぁ、〈黒蛇〉っていうのは、そのトール海兵隊の残党が結集した、いわゆる盗賊をやってる非道なグループのことだ。最近ヴォダ周辺で盗賊に襲われる報告が多くてな、由々しき事態だね」
聞くに、特に辺境騎士団の任務とは関係が無さそうな話ではあるが、国に仕える者としての責任も果たさなくてはならない。
「みんなにはどうやって話すんだ」
マルカスの問いに、愚問だと言わんばかりにニヤリと笑う。揺れる灯りの火が、さらに奇妙さを際立たせる。
「黙っておくんだよ」
目が点になるとはまさにこの事で、
「だめに決まってるだろ!」
と、一蹴。しかしアライブとしては、どうにか黙っていたいらしく、
「いやぁ、でも、ほら、巻き込むと危ないじゃん、だから……」
何がそこまで黙らせようとさせるのか気になってしまう。気になってしまったら仕方の無い、素直に聴いてみる他ない。
「なんでそこまで黙ろうとするんだ? 何か特別な理由でもあるのか?」
と訊くと、アライブは少し下を向いて、先程よりも少し声を低くした。
「まだ確証はない。あくまで噂だ。噂だが、どうやら〈黒蛇〉の後ろに王族がいるらしい」
「王族!? どういう事だ? 〈黒蛇〉は悪者じゃないのか?」
「〈黒蛇〉は元トール海兵隊だ。それだけの軍事力を備えていることは確かなんだ。だからそれを利用したい、そう考えた。けど今まで対立していた存在である王族に、そう易々と力は貸してくれん。きっと……」
「きっと?」
アライブは乾いた唇を濡らして、繋いだ。
「きっとなんらかの形で彼らをトイランに取り込んだんだ。〈黒蛇〉は、内戦じゃない」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! なんらかってどういう……」
アライブは少し食い気味で答えを返す。
「そのままの意味だ。分からない。けど、今までのことを思い出してくれ。国王暗殺は何のためか。聖輝の八賢の暗殺は何のためか」
国王が暗殺された後、国王の息子がその席を継いだ。聖輝の八賢は、五人意識不明だったが、結局生き残ったのは二人だけだった。
「鉱山遠征の時、生き残っていたブランデッド・ラーナーが後衛についたのは何のためか」
アライブとエルがはぐれたところを確実に押さえていた。結局、アライブが彼を撃沈させたが……
「〈黒蛇〉がどれだけヴォダ周辺の地理に詳しいか、きっと彼らは知っている」
「でも、それなら〈黒蛇〉じゃなくても……」
アライブは首を横に振った。
「ダメだ。ヴォダは至る所に近衛騎士団が配置されている。もし偵察中に見つかって守りを固められたらトイランとしては攻めにくくなる。だから内側の〈黒蛇〉を使いたがる」
「……ヴォダを落とす利点……」
「もちろん、物資の供給を止めることだろうな。王国一の貿易都市として名高いヴォダを押さえるのは、内陸の都市を押さえるより効果がある」
「つまり、アライブの目的は」
「ヴォダがトイランの手に堕ちないよう阻止する。そのためには〈黒蛇〉の全貌を把握しなくてはならない。マルカス、頼むから内密にしてくれ」
「……分かった」
薄暗い部屋で、二人の手は固く交わされた。
そして知ることになる。
この、恐ろしい計画の全貌を……。




