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孤独の辺境騎士団  作者: おんすい
第2章 鉱山遠征
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第33話「夜明け」

 アライブが噴水に到着する頃にはもうアスドの姿は無かった。しかし、まだ何処かに潜伏しているだろう。そう考え、アライブは人気の無い方向に目を向けた。

 そして、その方向に足を向けた時、目の端に人影が映った。


 (マルカスだ!)


 アライブは周りに敵が居ないかを確認し、近くに駆け寄った。


 「マルカス! マルカス! 聞こえるか?」


 アライブは、マルカスの耳元で大きな声で呼びかけたが、反応は無い。しかし、少し脈があったので安心した。


 (よかった、まだ死んでない。早くレフライオのところに……)


 アライブがマルカスを背負って歩き出した時、前からキッチルが走ってきた。


 「マルカスさんは?」

 「大丈夫だ……まだ死んじゃいない」


 キッチルは息を大きく吸い、安堵の表情を浮かべた。


 「マルカスさんはこちらで治癒します。団長はそちらの任務を遂行して下さい」


 と、キッチルは早口で言うと、マルカスをアライブから奪い取って、救護班の所に走っていってしまった。

 アライブは、返事をする機会も与えられず、ただぼぅっと見守るしかなかった。


 (しかし、俺にもやらなきゃならんこともある)


 アライブは気持ちを切り替え、噴水に目を向けた。遠目でしか見えなかったが、最後のマルカスの斬撃は、かなり大きな傷になっているはずだ。血の跡で居場所を特定できるかも知れない。そう思い、地面を探してみた。


 (あった)


 アライブは、地面に落ちる血の雫を見つけた。跡はやはり人気の少ない、先ほどまでアライブ率いる屋敷メンバーで捜索していた地域に向かっていた。

 アライブは直ぐに建物の屋根に上り、エルとライセングを探した。

 しかし、姿は見えなかった。

 アライブは、まだこちら側には来ていないと思い、一人で向かうことにした。


 月はもう見えなくなっていた。代わりに、反対側の山から、橙色の光が、街を照らし始めていた。




            *




 走る足は悲鳴を上げていた。

 こんなに走るのは久し振りだった。

 戦場にいるのにもかかわらず、風が気持ち良かった。


 アオは思わず足を止めた。

 正面、かなり遠くの方で、団長が屋根を飛び降りて、さっきいた場所に向かったからだ。


 「エルねぇちゃん、あれ団長だよね?」


 やっと追いついたエルは、目を細めて見たが、さっぱり分からない。


 「うーん……どうかなぁ……いってみようか」


 と、アオに提案すると、アオは目を輝かせて首を縦に振った。

 そして、アオは大きく跳ね上がると、道の向こう側の建物の屋根に飛んだ。

 流石のエルも、その人間離れした技は出来ないので、道に降りて進むことにした。


 少し進んだ先で、アライブが戦闘を繰り広げていたが、圧倒的な力量で、助けも必要無さそうだった。

 それよりもアオとエルは、どこからか飛んでくる弓矢が気になっていた。相当遠い場所から狙撃しているのか、誤差が大きく当たるほどでもないが、ここで戦闘になるとなかなかやりにくい。アオは目を凝らして見たが、朝日が昇ってきており、いまいち見えなかった。


 「エルねぇちゃんは見える?」


 と、下の道を走るエルに聞いてみたが、結果は同じだった。

 更に、日が出始め、アオの身体は限界だった。足に力が入らなくなった。目の前に飛んできた矢を避けられなかった。


 ガシャン、という音と共にアオの足音が消えた。


 「アオ? どうしたのー?」


 エルが下から呼びかけてみたが返事は無い。上に登りたいが、壁を蹴るには少し道が広すぎる。

 エルが悩んでいると、上から数枚の瓦が落ちてきた。見上げると、そこに小さな手が見えていた。


 「アオ! しっかりしなさい!」


 エルはアオの落下地点に素早く入り、小さな身体をしっかり受け止めた。


 「エルねぇちゃん……ぼく約束守れない……」


 アオは虚ろになった目を必死に開けてそう言った。

 アオの左肩に矢が刺さっていた。


 「どうしたの!? 早く治療……」

 「ぼくは大丈夫……だから……早く倒しに……行って……ね?」


 アオの目は赤く染まっていた。


 (双眼……)


 エルは、この事がアカに伝わった事を確認すると、アオに応急処置を施し、物陰に隠した。


 「アオ、アカが来るまで大人しくしててね。あくまで応急処置だから無理して動いちゃダメよ」


 そう忠告して、エルはその場から去った。

 戦場で足を引っ張る者は自己にも他人にも傷を残す。

 エルがこの数年で培った知識の一つだ。




            *




 「うぅ……あぁ……」


 マルカスは、焦点の合わない目を少し動かし周りを見渡した。

 目の前に一人と、周りに数人が忙しなく活動しているのが見える。


 「目を覚ましましたね、マルカス」


 目の前の一人はキッチルだった。ずっと額を触っている。


 「……あぁ、治してくれるのか……ありがたい」


 マルカスは身体が少し軽くなるのを感じた。折れた骨も元に戻っていた。


 「そうだ、キッチル。アライブとか、エルは、どうした」


 マルカスは動こうとしたが、キッチルに止められた。


 「今動いたら傷口が広がってしまいます。もう暫くお待ちください。あと、団長とエルはあなたが戦っていた相手を追いかけています」


 マルカスは、追いかけたと聞いて、背筋が冷たく感じた。


 (勝てるわけがない。最後の一撃を寸前で相殺したんだぞ……)


 「あいつらを、止めろ、勝ち目は、無い」


 マルカスは動きにくい口と頭を使ってキッチルに伝えた。が、


 「心配しなくても大丈夫ですよ」


 と、キッチルは表情一つ変えず答えた。


 「だめだ、あいつらが、死んでしまう。あいつには、勝てない……」


 と言うと、キッチルは顔を近づけて、


 「あなたは団長とエルを信用していないのですか?」


 と睨まれた。しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。


 「そうじゃない、ちゃんと、信用、してる。けど、アレは、勝てないよ」

 「王国一と噂される団長と、元特殊部隊のエルですよ」

 「強さなんて、関係無いよ! あいつは読心術が使えるんだ! 作戦なんてあいつの前じゃ何の役にも立たねぇ!」


 だんだんと動くようになった口が、止まらない。


 「俺がやらなきゃ、俺が……俺が行かないと、俺がみんなを助けるんだ」


 身体を動かそうとするが、思うように立ち上がれない。


 「はぁ……そんな身体で行くつもりですか? というか武器も何も無いじゃないですか。丸腰で行っても自体を増やすだけですよ」


 マルカスは言われて気が付いた。

 片手に持っていた短剣は光を失い、錆びついてボロボロになった元の「売れない短剣」に戻っていた。もう一本は、身軽になるからとレフライオの所に置いてきてしまった。


 「こことばかりに役に立たなくなる……」


 マルカスは俯いて呟いた。誰に言うわけでもなく、ただ虚空に吐き出した。

 顔をあげると、長い白っぽい髪を風になびかせて、キッチルは何かを投げてきた。


 「これ……」

 「医療箱の中に入っていました。何でしょうね。どうせそこに座っていても役に立たないんだから、ここでそれを試して実験体にでもなって下さる?」


 キッチルは表情一つ変えず作業に戻っていった。

 マルカスは投げつけられた果実を乾燥させたようなシワシワな物を恐る恐る舐めてみた。


 「……甘い」


 マルカスはポイっと口の中に放り込むと、何度も咀嚼し、味を噛みしめ、乾いた喉に溢れ出る唾と共に飲み込んだ。

 すると、不思議なことに身体が温まってくる。そして、力が入らなかった腕や足に少しずつ力が戻ってきた。

 マルカスは壁を使って、生まれたての子鹿よろしく震える足でゆっくり歩き出した。力が戻るまで少し時間がかかるのだろうが、待っていては遅れてしまう。

 マルカスは路地を通って、大通りに出た。先程は興奮していたのもあり、何も気がつかなかったが改めて大量の人の死体を見ると、汗と血の匂いで吐きそうになった。


 「これ……ほんとに俺がやったの……?」


 ただ独り言だが、誰かにすがりたくなるほどの惨状だった。

 マルカスは吐きそうになる身体を我慢して、死体から長剣と短剣、それと弓矢に小さな刃がついた飛び道具を取った。


 (アライブが居たら怒られるなぁ……)


 アライブは殺した相手からは何も取らないと言う流儀があった。

 しかし、今回は気にしない事にする。仕方のない事だと。そう自己に言い聞かせないと自分がおかしくなってしまいそうでならなかった。


 マルカスは腰に短剣、背中に長剣と弓矢、懐に飛び道具を携え、元の場所に戻った。

 キッチルにお礼を言いたかったのだが、キッチルの姿はもう見えなかった。

 マルカスは心の中でお礼を告げると、走り出した。

 おそらく二人ともさっき皆で調査した場所に向かっているはずだ。もう町の東側は壊滅しているし、すでにこちらの国旗が掲げてある。隠れるなど不可能だ。


 顔を出した太陽に照らされた青年の表情には、もうあの冷酷な生気の無い目は無かった。

 代わりに、というのはおかしいかもしれないが、やる気に満ち満ちた表情が浮かんでいた。

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