第27話「医師を継ぐ者」
「先生! 第五救護班の包帯が不足しています!」
「包帯ならそこの緑の箱の中だ。早く持って行け!」
レフライオ率いる救護班は大忙しだ。特に絶賛交戦中の第五救護班は大打撃を受けたらしく人員も不足している。
レフライオは、目の前の十二個の通信用クウォーテをじっと見続ける。応急手当てでは間に合わない程の負傷者を本部に受け入れるための連絡を待っているのだ。
「せっ、先生! 第三救護班が、壊滅です!」
「……回復要員の安否確認を急げ」
レフライオはそう伝えた。まだ戦いが始まっていない所は無事だが、そろそろこちら本部も狙われるだろう。先程から流れ弾が飛んでくる。街の西側では本格的に始まりそうだ。炎のせいで赤く光っている。
「防衛班は警戒態勢、第三救護班は撤退しろ」
レフライオはクウォーテを通じて、指示を出す。手遅れになる前に。
「先生! 負傷者です! 完全に意識を失っています」
そこへ、一人の男が連れてこられた。レフライオは運ばれた負傷者の服を破いて、背中を見た。
「……こりゃ厄介だ。強力な術式か……」
外傷が無かったところを見ると、おそらく呪術だと思ったが、当たってしまった。
「な、治せそうですかね……?」
運んできた仲間だろうか、心配そうにこちらに聞いてくる。
「……それは保証できん。ただ、俺は名医だ」
レフライオはニヤリと笑うと、マントを羽織った。
「それじゃ楽しいパーティーといくか」
――リデレクのおじさんは凄腕と呼ばれた。街中の人から伝説の名医と称えられ、王国には無償で病院まで建ててもらえた。それから、彼の地獄が始まった。
建てられた建物はただの病院ではなかった。それは彼をそこに縛りつけるための特殊な牢屋だったのだ。つまり彼は、あの建物に入った六十年前から一度も外に出てきたことがない。いや、出られないのだ。
彼が伝説の名医と称えられた原因は、死人を生き返らせるという能力の持ち主だったからだ。彼が死人の胸を触るだけで、その死人は生き返ったという。もちろんそれは禁忌だ。この世の理に反する。その理由から彼は王国に目をつけられていた。しかし、王国は手を出せなかった。なぜなら、彼がいなければ、戦場で優位に戦えなかったからだ。彼が居たおかげで、今の王国があると言っても過言ではない。それくらい重要人物だった。
では何故彼は縛られてしまったのか。その真髄はまだ分からない。どう考えても有用な人材だったろうに、王国は彼を不自由にしたのだ――
――レフライオは自分の手を見つめながらぼんやり昔の師匠の気持ちを考えていた。
たとえそれが禁忌だったとしても、人を助ける覚悟、それだけは忘れちゃいかん。
師匠はそう言った。後悔していないのだろうか。悔しくないのだろうか。憎くないのだろうか。誰よりも愛国心を持ち、国に尽くそうとした男は、今は病院という名の牢獄に投獄されている。
「……俺だったら……そんな人生ごめんだ」
レフライオは吐き出した。
バレなければ問題など無い。運ばれてきた時にはまだ息はしていたため、仲間もまだ生きていると信じて連れてきたのだろう。
大丈夫、大丈夫……。
レフライオは自分に言い聞かせるように何度も呟いた。
まだ手の震えが止まらない。暑くもないのに汗がジワリと滲む。と、そこへ……
「先生! 緊急搬送です!」
声が響く。また一人やってきた。レフライオは立ち上がり、負傷者の確認をする。
今度はすぐに治せそうだ。
「三番ポケットから止血剤取って、あと青い箱から針と糸出して」
彼の意識はまた忙しい救急本部に戻っていた……。




