第28話「迷子の二人」
アライブとアカは、グループとはぐれてしまっていた。
「ねね、だんちょー?」
背中にぶら下がったアカが首の横から顔を出した。
「なに?」
「方向音痴なのはよく分かってるんだけどね」
「……ん?」
「なんでさっきから同じところずっと回ってるの?」
アライブは、前に進むのが必死で気が付かなかったが、確かにさっきもここの十字路を左に曲がった。さっきも見たパン屋の看板。道路標識。街灯……
「あれ、おかしいな……」
アライブは確かめるためにもう一度左へ曲がった。すると、さっきとは違うところに着いた。
「アカ! ここは来てないだろ?」
「もー、さっきも来たってば」
しっかりしてよねーとアカが顔を突いた。
アライブは今度は右に曲がった。
「え……」
そこにあったのはさっきのパン屋の看板。道路標識。街灯……
アライブは後ろを振り返ってみた。が、後ろも同じ景色になっている!
「だ、だんちょー。不気味じゃないここ……」
アライブは混乱した。なぜ前も後ろも同じ景色なのだ。と、アライブは前に向き直す。しかし今度は行き止まりになっていた。
「これは……なんの能力だ……」
アライブは上を見上げた。しかし、残念ながら屋根になっていた。すると、
「……また一人、餌が来たネ……!」
街中を不気味な声が響き渡る。
「だ、誰だ! どこにいやがる!」
アライブが叫んだが、反応はない。
「だ、だんちょー。後ろ……」
アカに言われ、後ろを向いた。なんと後ろまで行き止まりになってしまっているではないか。
「お、おい。逃げ道が無くなっちまった」
すると、どこから聞こえるのか分からないが、
「やっと捕まえた……久し振りの飯だネ……!」
と、この狭い空間に不気味な声が響く。
アライブは、今までに起こった特殊能力を全て思い出したが、思い当たる能力は無い。
「誰なんだ!」
「教えてあげる訳ないんだよネ」
アライブは壁に向かって目一杯の攻撃をぶつけたが、ビクともしないどころか傷の一つも付かない。
「ちっ、どうなってんだよ!」
アライブは必死に頭で考えたが、さっぱり分からない。このまま応援を待つしか……
いや待てよ。これはもしかして……
「分かったぞ、これはここに来る時と同じ感じ……おそらく迷いの森と同じ現象だ」
アライブが喋り終わったその瞬間、壁が割れたと思うと、そこから大量の人喰花が湧き出してきた。
「やっぱりビンゴか」
アライブは、自分の周りに火をまとい、花を一気に燃やし尽くす。しかし花も次から次へと顔を出す。
「ちっ、キリがねぇ。アカ! そろそろ回復したか?」
と聞くと、アカはドキッとした顔を見せ、
「も、もうとっくの前に回復しきったよ……」
と、もじもじ答えた。
「なら丁度いい。手伝ってくれ!」
「お、怒らないの……?」
「今はそんな事してる場合じゃない、それは後だ」
アカは身体の中心に力を集めた。月が見えないので、完璧な覚醒ではないが、それでもかなりの力を持っている。
アライブとアカは背中を合わせ、一斉に火を放っていく。みるみるうちに人喰花は姿を消し、いつの間にか壁も無くなっていた。
「ふぅ、アカ、大丈夫か?」
「うん……なんとかね」
アカはアライブの足にしがみついて、うーんと丸まっていた。
アライブ達が安心したのも束の間、前の路地からコツコツと踵を鳴らす音が聞こえてくる。
「誰だ!」
アライブは、アカを抱え上げ身構えた。
すると、靴の音は止まった。
「確実にリーダー格を殺すように頼んだのになぁ」
まだ若い、幼い声が響いた。声の聞こえるところに、月の光が差し込む。
そこに立っていた青年は、片手に月の光に輝く剣を、もう片手には血塗れの男の髪を鷲掴みにしていた。
「……! 誰だ……?」
「名前は無い。あえて言うつもりもない」
「そいつは何者だ」
青年は視線を下に向けて、鼻で笑った。
「出来損ないのクローンだ。初めての仕事を与えてやったのに……全く使い物にならないなぁ」
「クローン……?」
「あぁ、つまり本体のコピーだ。悪く思うな。こっちだって戦力は限られている。知ってるぜ、死人を生き返らせる医者がいるって噂。あれ本当らしいな」
「し、知らねぇな。それに所詮噂だ。そんな事真に受けるなんて馬鹿らしい」
青年は手を叩いて笑った。
「何がおかしい」
「あーごめんごめん。君みたいな強気な子は久し振りでさ」
「……」
「それじゃ、こちらも仕事が立て込んでるんで」
青年は、地獄で会いましょうと言い残し、路地の暗闇に消えていった。彼の足元にあった血溜まりもなぜか消えていた。
アカは心配そうにアライブを見上げた。
「だんちょー、さっきの人、絶対やばい人だよ!」
「あぁ、早く戻らないと……」
アライブ達は近くの高い建物の屋根に飛んだ。
「おい、嘘だろ……」
そこでアライブ達が見た光景は、半分が燃えて無くなった街の姿だった。
「急ごう、早くしねぇとまた間に合わなくなってしまう……!」
「……また?」
アライブはアカの質問を無視して背負った。
「しっかり掴まっとけよ!」
アライブ達は、月の光で照らされた街の上空を大きく飛んだ。




