第26話「闇の悪魔」
「この川えらく長いな」
先頭を歩くライセングはアライブにそう聞く。
「まぁ、村唯一の川だからね」
「人工なのか?」
「……流石に気付くか」
実はこの川、運河なのだ。鉱山から直接中心部へ物資を運ぶためだけに整備された人工の運河。
「とはいえ使われたのは初めの頃だけだったらしいよ。見てとおり、鉱山の近くに精錬所ができたからね」
アライブは懐かしそうに話した。今まで見たこともない顔をしていた。
「……なぁ、俺の目がおかしくなってなかったらだな」
ライセングが足を止める。
「ハメられたぞ、これ」
全員が、えっ、と声を漏らした。
「なぁ? 誰だよお前は!」
急にライセングがアライブを睨みつける。
「……誰って、何言って」
「だから誰だ!」
ライセングはアライブの言葉を遮って聞く。
「うん。そうか、残念だなぁ」
そう言ってアライブは下を向く。
「気付かれたなら仕方がない。ここでお前らを殺す」
ニヤリと顔を上げたアライブは、別人に変わっていた。いや、別人がアライブになりすましていたのだ!
「こいつはまずい……! 散れ!」
ライセングが叫ぶと、全員がバラバラに路地に走った。
「逃さないよ!」
偽アライブはマルカスに狙いを定め、追いかける。
それを見た全員は一同に偽アライブの後を追いかけた。
「作戦は良いな? それじゃあ配置に……」
路地を曲がると、短剣を片手に持ったマルカスが震えながら立っていた。目の前には、血塗れの偽アライブが転がっている。
「……マルカス? 一体何が……?」
「お、俺じゃない……あいつだ」
ライセングが聞くと、マルカスは真上を指差した。
そこには、真っ黒のフードを被った亜人種の女……。
「まさか、アンムートが?」
「アンムートって言うのか……?」
「知らないのか? 奴の二つ名は悪魔。その名の通り、悪魔のように人の命を喰らう。ちなみに第六支部の副隊長だ」
アンムートはちらりとこちらを見ると、溶けるように姿が見えなくなってしまった。
「と、とにかく助かったって事でいいよな?」
マルカスは心配そうに聞いてくる。
「あぁ、一応隊員だから、助けてくれた……のかな」
と、答えたが、彼女に仲間意識などあるのだろうか、と怪しんでしまう。
「それより! アライブとアカを探しに行かないと!」
と、エルが焦ったように走り出してしまった。
「では後処理は私がやっておくので」
と、キッチルは偽アライブの後処理を始めた。
「じゃあ、ここはキッチルに任せて俺たちはアライブとアカを探そう」
ライセングはそう言い、近くの建物に登った。他のメンバーもそれぞれ散らばっていった。
*
「ランバ! 左だ!」
「分かっとるわ! お前が命令するな!」
ラスキルはニヤリと笑うと、満月の光に照らさせた。その瞬間、彼の身体はみるみる大きくなり、手足の爪は鋭く、全身が毛に覆われる。真っ赤な体毛に不釣り合いな青い眼が特徴的だ。
手足に付いた大きな鋭い爪を剥き出し、ラスキルは街中を駆け回る。彼の早業に、敵の誰もが驚き、そして成す術なく地面に崩れ落ちる。その彼の姿を例えるなら、「虎」だろう。
「ちっ、敵が多過ぎる……」
ラスキルは、倒しても倒しても湧いて出る敵に苛立ちを感じ始めていた。
「アスニード! 上を探してくれ!」
と、近くのアスニードに頼んだ。彼は無反応だったが、一応指示には従ってくれる。
「どこ行きやがった、あのクソ女!」
ラスキルは、さらにスピードを加速させる。時間が経てば経つほどスピードは増す。しかし、覚醒状態は長くて三分。早く決着をつけたい。
「レブル、いなかったか?」
「ダメだ、見つからない」
ラスキルは、ちっ、と舌打ちするとまた街中を駆け回る。その時、目の端で何かを捉えた。
……奴だ。
ラスキルは一瞬で方向転換をすると、黄色い光を放つ目標物に飛びかかる。
「この下級召喚魔法使いが! ぶっ殺す!」
ラスキルは腕を目一杯伸ばし、首を狙った。しかし、彼は目を疑った。
先程まで立っていたはずの敵が、メッタ刺しにされて、地面を這いつくばっていた。
「お、おい……誰だよ……横取りした奴は……」
ラスキルは周りを見渡した。そして一人、空に浮いているのが見えた。
「まじかよ……まさかアンムート……?」
亜人種の最強戦士の末裔だとどこかで聞いた事がある。彼らは能力を持たないが、代わりに闇から無限の武器を取り出せる。しかし光に弱く、完全な暗闇でないと活動できないはず……。
「なんでお前がここに……?」
ラスキルが震えながら質問するも、アンムートはそのまま溶けるように消えてしまった。
「ラスキル? 顔色が良くないぞ……何があったんだ……?
そう言いながらランバが後ろから近づいて来る。ラスキルは何も言わずに、目の前の瀕死の敵を指差した。
「……! こんなところにいたのか、お前がやったのか?」
「いや、俺じゃない」
そう言うと、ランバは首を傾げた。
「じゃあ誰が」
「そんなことどうでもいいだろ。それより早く任務を終わらせるぞ」
と、ラスキルは振り返りもせず歩き出した。
ーー最悪な「味方」に出くわしてしまった。奴は絶対に敵に回してはいけない。間違いなく殺られる。
ラスキルは、震える太腿を大きく叩いた。しかし、その手には力が入っていなかった。いや、覚醒の反動で入らないのだ。
ラスキルは、血まみれになった両手を見つめた。
――俺はいつまで人を殺せばいい。
地面がふわふわする。このまま倒れたらどれだけ楽だろうか。痛む両手が、取れたらどれだけ幸せだろうか。
ラスキルは首を振り、足元に力を込めた。
そして、
「お前ら何のんびりしたんだよ、置いていくぞ!」
と、後ろを付いてくる仲間達に笑顔で振り返った。




