第22話「開戦」
――亜人種が覚醒する。
そう、満月の夜のことだ。基本的には多くの亜人種が能力を最大限まで引き上げることができる。アライブは、それを利用するためにこの時間にした。
「ねぇねぇ、だんちょー。このクウォーテ外してもいい?」
アカが何度もクウォーテを外そうとするが、毎度のようにライセングが止めに入る。
「アカ、まだダメだぞ」
「えー……でもだんちょーなら良いって言うよ」
アカが、期待を込めた眼差しを向けてくる。が、ここで外すとかなり厄介なので、外さないでとお願いすると、頬を膨らませどこかへ行ってしまった。
すると、ライセングが、丁度良かった、と話しかけてきた。
「気になっていたんだがな……今回の戦いに勝機はあるのか?」
「確かに戦力差は多少なりあるよな……でも心配はいらないさ。仲間を信じようぜ」
アライブは、ライセングの肩を叩くと、その場を離れた。人が居ない事を確認すると、その場に吐いてしまった。
正直言って、怖い。俺の記憶の奥底に眠っていた悪夢が、蘇るように、俺の心を締め付けるんだ。思い出すんだ。熱さ、痛さに苦しむ顔、泣き叫ぶ顔、放心状態の顔、まさに地獄だ。必死で俺を逃がしてくれた家族。逃げる事を諦めた友人。何としてでも逃げ切ってやろうと思った。生き抜いてやろうと思った。いつの日か、復讐してやろうと思った。
どうだ、アライブ。夢は叶いそうか。そう、どこからか聞こえてくる気がする。本当にお前は、復讐する事が夢だったのか、と。
どうかな、俺はただ俺の正義を振っているだけだから。誰かが俺を否定したって俺の中の俺は正義なんだよ。もう少しで、手が届きそうなんだ。
……あれ……俺は皆の屍を踏み台にして、自分勝手なんじゃないだろうか。
考え始めると、止まらない思考がアライブをますます不安にさせていった。と、その時、不意に背後から声をかけられた。
「だんちょー……みんなが待ってるよ」
振り返ると、そこにはアカが居た。わざわざ呼びにきてくれたのだろうか?
「あ、あぁ、すまん。今行くから、待っててくれ」
「……だんちょーはすぐ愛想笑いするってエルが心配してたよ」
愛想笑い……? 俺が? そんなことあるわけがない。だって俺は毎日が楽しくて……
「だんちょー?」
アカが心配して近寄ってくる。が、アカは何かを察したらしく、すぐに足を止めた。
「あぁ、大丈夫だ。先に行っててくれ」
「……早くきてね」
俺は、怖がってた。いつかこの時間だって、壊れるんじゃないかって。そしたら俺は、全て失う。なにもかもだ。生まれ故郷は、消えた。家族は、死んだ。希望も、夢も、憧れや時間だって、全部無くなった。やっと掴んだ俺の居場所だって、きっと……
でも、今気が付いた。俺の居場所はいつだって俺と仲間が作ってた。壊すのは……多分俺だ。維持するのも俺だ。
しかし、仲間がいたから俺がいる。その事実だけは揺るがない。仲間が居なきゃ俺は今頃孤独になって、どこか人の居ないところでひっそり死んでしまうんだろうな、そうアライブは思った。
目に残っていた涙は、いつの間にか乾いていた。
戻ったら全部話そう。土下座してでも、いや、あいつらなら、あいつらになら、普通に接してもいいだろうか。
アライブは両太ももを叩くと、全員が集合しているところに向かった。
*
「頼みがある」
アライブは、屋敷の全員を集めて、全て打ち明けた。
「だから、今日だけは、俺のわがままに付き合ってくれないか……」
全員が、顔を見合わせる。と、エルが急に笑い出した。
「うふふふ……! あははは! アライブってば嘘つくの下手過ぎでしょ」
アライブは、戸惑った。絶対冷たい目で見られると思ってたから。
「あぁ、嘘つくの下手だよなぁほんと」
ライセングが言う。彼も笑っている。キッチルも、マルカスも、アカも、アオも、レフライオも。全員普段通り接してくれた。それが嬉しくて……
「だんちょーまた泣いてるよ」
「ねーちゃん、言わなくてもいいのに……」
こんな小さな双子に指摘されるまで、気が付かなかった。
「なっ、泣いてねぇよ……」
目を手で隠し、サッと拭った。
「まあ? 私たちが居ないとアライブったら何にもできないからね」
エルが、俺の肩を叩く。
「料理も、洗濯も、掃除も、草刈りだってできないもんね」
キッチルも、俺の肩を叩いた。
「アライブに憧れてここに入ったんだ」
マルカスが、胸に拳を当てる。
「俺が居ないと、死んじまうしなぁ……」
レフライオが、俺の肩に腕を回す。
「だんちょー、アカとの約束覚えてる?」
アカとアオは、両手を握った。
「そういうことだぜ。何も心配は要らない。だって俺たち仲間じゃねぇか。いつでも、仲間の痛みを分かち合って、喜びを共有して、俺たちはいつも一つだった。それでいいじゃねぇか」
ライセングが、俺の前に立つ。
アライブは顔を上げた。
「そうだな。俺たち、仲間だもんな!」
そう言うと、全員が当たり前だよ、と叩いてきた。いつも通りのみんなだ。これなら、いける。今なら、戦える。アライブはそう思った。
「それじゃあ、そろそろ始めるとするか。俺たちの物語を!」
爆発するような轟音が開戦を知らせた。




