第21話「決戦前夜」
翌日、日の昇らない朝早く、アライブ一行は集合場所に向けて出発した。
まだ朝は寒い。全員防寒対策のために厚手の服を着てきたが、邪魔になるかもしれないな、とアライブは思った。しかし、手綱を握る手は真っ赤だった。アライブは時々息を吹きかけ、温めながら進んだ。
――数時間後。
アライブ一行は集合場所の半分まで来ていた。丁度ここで早めの朝ごはんになる。キッチルが作った特製サンドイッチ。具には滋養強壮のための変な食材が入っていて、味はイマイチだったが前日から何も食べてなかったこともあり、よく腹に入っていった。この時も、誰も喋らなかった。あのお喋りのアカでさえ。
朝ごはんを食べ終えると、早速出発した。集合場所はもうあと半分だ、そう思い手綱を引くのだが、なぜか一向に着く気配がない。
心配したライセングが声をかけてきた。
「さっきからなかなか見えないが、大丈夫か……?」
「あぁ、道はこっちで間違ってないはずだ。キッチル、ちょっと地図を見てくれ」
そう言われ、キッチルは地図を確認する。しかし道を間違えているわけではなかった。
「アライブ、なんか気味悪いぜ……」
「確かに……魔獣の臭いがかなり臭くなってる」
アライブは手綱を離し、馬を止めた。辺りを見渡すが、何も分からない。
「どうなってるんだ」
後ろからマルカスの声が聞こえた。
「どうしたんだマルカス!」
「どうしたって……同じ場所を何回も回ってるぞ」
「なんで……分かるんだ?」
「さっき外を見てたら珍しい木の実を見つけたんだ。なかなかお目にかかれないほどのね。それがさっきから何回も見つけられるんだよ。そんなの有り得ない。だから目印に俺のペンダントを落としてみたんだ。そしたら……」
マルカスは握っていた手を開く。そこにはマルカスのお気に入りのペンダントがあった。
「まさか……」
アライブは最悪の状況を思い浮かべてしまった。
「このタイミングで迷いの森が発生した……?」
「だとしたら……最悪だ!」
全員の顔が固まる。
迷いの森とは、森の木々に死者の魂が宿る不思議な現象のことだ。魂を貰った木々はそれぞれに意思があり、森に入るものを拒んだり、迷子にしてしまう。毎年数人の子供達が帰ってきていない。
もしかすると、その最悪な状況に陥ってしまった可能性がある。このままでは間に合わない。作戦実行は明後日だが、この迷いの森は一週間ほど続く。団長不在などあってはならない。
アライブは、強行突破を決めた。
「この先の道を開けるために木を切ってくれ。それなら通れる」
「でも勝手に森の木を切るのはダメなんじゃ……」
「気にするな、今はそれよりももっと重大な事があるんだ」
アライブは、エルの電気攻撃と自身の炎攻撃でどんどん進んでいく。
しかし、また同じ場所に帰ってきてしまった。
「くそっ! どうなってやがるんだ」
アライブの声で目が覚めたのか、ラスキルが馬車から出てきた。
「んー? 何かあったの?」
「実は、迷いの森にはまってしまったんだ」
ラスキルは眠そうな目を擦って、進行方向に手を伸ばした。
その瞬間、今まで塞いでいた木々がベキベキと音を鳴らしながら捻じ曲げられていった。
「どう? 念動力」
アライブ達は驚いた。まさか無理矢理道をこじ開けるなんて……
「なにか言う事があるんじゃない?」
ラスキルはにやにやしながらアライブを見た。
「あぁ、ありがとう。助かったよ」
「ふふ、また困ったら呼んでよね」
そう言ってまた馬車に戻ってしまった。
「先を急ぐぞ! 効果が切れる前にな!」
無理矢理開けた道は馬車が一つ通れるギリギリだったが、文句は言えなかった。
こうして、ラスキルのお陰で危うく足止めを食らうところを、早急に抜け出す事が出来た。
――数時間後。
ようやく集合場所である寂れた村に到着したアライブは、先に来ていた偵察班から状況を確認していた。
「団長、街に人は居ませんでした」
「おそらく、鉱山で働かされているのではないかと思われます」
「敵の防御はそれほど厚くはなさそうですが、トイラン王国幹部が二人ほど発見できました」
彼らは、短く言うとまた偵察に戻っていった。
アライブは、少し興奮していた。ここは、生まれ故郷だ。家族が死んだ場所だ。やっと取り戻せる。あの頃の自分には何もできなかった。生きていればいい事だってきっとあると思ってた。でもそれは単なる夢で、周りの大人は何もしてくれなかった。実際、アライブが騎士の男に助けられた二日後、王国軍は撤退した。でも今回は違う。俺が戦う。もう誰一人死なせたくない。
ちゃんと取り戻せたら、念願の墓参りでも行ってやりたいな……そう思いながら、アライブは宿舎に戻った。
アライブ達が到着してから、数時間のうちに全ての部隊が揃った。アライブは各リーダーを招集し、最後のミーティングを行っていた。
「まず、初めは戦いを優位に進めたいため、鉱山の周りを獲る。そして、鉱山労働者の確保へ。それから街を叩こう。おそらく、幹部クラスは三人、森の五賢が一人だ。今回は聖輝の八賢のお一人も来られている。全力でカバーに入れ」
「団長、俺らに任しとき、誰一人死なせんで」
そう言うのは、辺境防衛騎士団の中でもトップクラスのパワーを持つ男。名前は……なんだったか。
とにかく、今回は仲間を信じる他ならない。
「いいか、一つでも仲間が欠けたら負けだと思え。それくらい、覚悟を決めろ」
招集されたメンバー全員が唾を飲み込んだのが分かる。皆不安なのだ。しかし、心が負けることはあってはならない。絶対に勝てなくなる。
「俺たちは負けない。全員で、帰ろう。そうじゃないと、今までの苦労が、無駄になる」
アライブの言葉は、少し足りないが、なんとか全員に伝わったらしい。
「明日の夜遅く、決行する。それまではしっかりと準備をしておけ! いいな!」
全員の了解が聞こえる前にアライブは外に出ていた。
空を見上げる。まるで自分達の心を読んだように、黒い雲に周りを覆われた、もうすぐ満月の月が浮かんでいた……




