第20話「それぞれの決意」
次の日から、辺境防衛騎士団としての活動が再び始まろうとしていた。
「ところで、ラスキルは何をしてる人なの?」
エルが聞くと、ラスキルは恥ずかしそうに、
「小さな騎士団みたいなものをしてます」
と、答えていた。話によると、三つ子の弟と妹がいるらしく、その4人で村の自治を行なっているのだそうだ。
「弟と妹はかなり小さいんじゃない?」
「そうだね……だいたいアカとアオより少し大きいぐらいかな……」
親はいないんだよね、とは聞けなかった。自分も苦労しているから分かる。
エルが少し険しい顔をしていると、何を察したのか、
「大丈夫だよ。今は村の人達が世話してくれてるからね。困ってはないかな」
と彼は言った。クウォーテに感情を取られているとは思えないほどの人の良さだ。だからこんなにも屋敷に早く慣れているのだろう。
気がつくと、ラスキルの部屋の前まで来ていた。彼は、エルに手を上げて、おやすみと言うと部屋に入って行った。
エルもこのまま寝てしまおうかと思ったが、気になることが一つあった。ラスキルの順応力の高さだ。よく、スパイは順応力が高いと聞く。念のためアライブに報告しておきたかった。
エルは、そのままアライブの部屋に向かうと、彼に報告した。
「でも、昔のメンバーを疑うのは……ね」
「でももしかしたら寝返ってるかも……」
「可能性はゼロじゃないけど……ここは一つ信じてみようよ」
アライブはなぜかあまり気にしていなかった。でもアライブの言う通りだ。昔とはいえ、一応は仲間であった彼を疑うなど酷すぎるのではないだろうか。エルはそう結論付け、アライブの部屋を後にした。
この日は何も起こらなかった。
*
いよいよ明日を出発の日に迎えた決戦前日。ライセングは自分の荷物と、アカとアオの荷物を詰めていた。相変わらず、アオはお気に入りのぬいぐるみを入れるよう命令してくる。何度説得したのか分からないぐらい抵抗したが、毎度持って行っているのだ。
そして、今回はレフライオも勿論行くので、彼の荷物が1番多い。ゆえに彼だけは一人馬車だ。アライブ曰く、そんなもの要らない。唾つけておけば傷なんか治る、だそうだ。
しかし、マルカスは部屋で一人悩んでいた。この「売れない短剣」を持って行くべきなのだろうか。前はこれが暴れたせいで死にかけた。しかも仲間まで危険に晒したのだ。全くもって扱える代物ではない。
しかし……持って行かなかったら、自分はただのお荷物だ。出来てせいぜい肉壁になる程度だろう。
……いや、持っていこう。
マルカスは覚悟を決め、「売れない短剣」を布で包み、鞄に詰めた。ただでさえ重たい鞄が、それが入ることによって余計に重く感じた。気のせいだろうが。
マルカスは、部屋を見渡した。俺が来たのは五年前。部屋はもっと綺麗だった。壁は落ち着かないぐらい白くて、床は滑りだしそうなほど磨かれていて。
アライブは勝てると踏んでいるが、今回の遠征は今までの遠征とは比にならないほど難しい戦いになりそうだった。もしかしたら、ここの匂いを嗅ぐのは最後かもしれない、そう思いながら部屋の扉を閉めた。
エルもまた、部屋を見渡していた。荷物をまとめると、こんなにも大きかったんだと改めて思った。でも、なんとしてでも帰ってきてやるんだ、エルはそう誓い、心配する自分を消すように部屋の扉を閉めた。
アライブも、部屋を見渡していた。初めて入った騎士団。昔からの憧れだった。もう何年この匂いを嗅ぎ続けただろうか。今は楽しい仲間に恵まれて、なんとしてでも、たとえ俺の身体が無くなろうとも、仲間は無事でいてほしい。そう願いながら、アライブは部屋の扉を閉めた。
レフライオも、部屋を見渡していた。団長には感謝している。まだまだ青かった自分を引き抜いて仲間にした。彼の覚悟を決めた顔は今も覚えている。
「ライー! 早くー!」
アカの声が聞こえる。荷物を持って走り回っていた。父さん、俺は立派な騎士になって、こいつらの兄貴になるんだ。寂しかった俺たちとは同じ思いをさせたくないからな。
ライセングはゆっくりと部屋の扉を閉めた。
この日は全員で大広間で寝ることになっている。その方が確実に起きれるから、という事だった。そこに全員が集まった時、彼らはそれぞれに思いを巡らせ、しかし彼らは覚悟の決まった目をしていた。
かくして、ついに鉱山遠征の日がやってくるのである。王国連合軍は辺境防衛騎士団と近衛騎士団を含めた千人以上で今回の戦いに挑む。これは過去最大級だ。それだけ、今回の遠征が重要である事が分かる。アライブ達は気を引き締めて、明日からの遠征に備えるのであった。




