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孤独の辺境騎士団  作者: おんすい
第1章 決戦の始まり
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第19話「団結」

 玄関前に立っていた青年は、手に持っていた荷物を地面に置くと、深々とお辞儀をしてきた。いかにも若者、という見た目からは想像できないような礼儀の良さだ。


 「久しぶりだね」


 顔を上げると、太陽のような笑顔で挨拶をしてきた。彼は誰だろう……

 マルカスがそう思っていると、アライブが説明し始めた。


 「この人はね、俺がこの辺境防衛騎士団に入団する前にグループを組んでいた一人なんだ」

 「ラスキルと申します。以後よろしくお願いします」


 彼の礼儀の良さは褒めてあげるべきなのだろうが、少し話しかけづらい……マルカスは思った。


 「早速、中で話し合おう。お茶を用意するから待っていてくれ」


 そう言うと、アライブは急いで食堂に消えてしまった。

 エルとキッチルは面識があるらしく、楽しそうに話していたが、人見知りのアオはレフライオの大きな身体の陰に隠れながら様子を見ていた。


 「アオ、多分大丈夫だから隠れてないで、ほら」


 レフライオは手を差し伸べたが、アオは首を振るだけで全く出てこようとしない。いつものことだ。マルカスが来た時も、四六時中部屋の扉から隠れながらこちらを見続けていたのは良い思い出だ。


 マルカスは、先に部屋に戻り椅子を用意した。

 その時、足を突かれているのに気がつくと、そこには涙目のアカが立っていた。


 「何かあったの?」

 「これ……」


 アカはそう言って割れたビンを差し出した。もう片方の手にはコンペイトウが……


 「割っちゃったの? 怪我はない?」

 「綺麗だからね、お外に持って行ったの。その時に落としちゃって……」


 怪我は無いようだが、心の怪我が深いらしく、ずっと、ぐすんぐすんと泣いている。


 と、そこへお茶を持ったアライブがやってきた。それにアカが気がつくと、アライブの元へ駆け寄り、また謝っていた。


 「そんなに謝らないで〜……俺も反応に困るから……」

 「でも、でも、せっかくのお土産……」


 アライブは、うーんと腕を組むと少し悩んでから言った。


 「じゃあ今度王都に連れて行ってあげるよ。この前は行けなかったからね」


 アカはそれを聞くなり目を輝かせて、


 「ほんとに! ほんとに!」


 と、飛び跳ねて喜んでいた。機嫌が良くなったのか、アカは割れたビンのことなどすっかり忘れ、人の声がする玄関へトテトテと走り去ってしまった。

 話すこともない男二人は、虚しく部屋に取り残されてしまったのであった。



           *



 「それでは失礼します」


 ラスキルは椅子に座ると、こちらを向き直し、再び名前を名乗り始めたが、先ほども聞いたので、アライブがそれを制した。


 「ラスキルは本当に礼儀が良過ぎるよ、良い意味でも悪い意味でもね」

 「いや、癖なんだ。ごめんよ」


 そう言うと、彼は咳払いをした。すると一気に声が変わり、馴れ馴れしいキャラになってしまった。


 「いやぁ俺さ、実はこの三人とパーティ組んでて」


 というと、彼はアライブとエルとキッチルを見た。


 「彼らには本当にお世話になったんだよ。だから今回はその恩を返そうと思って、ね」


 てっきり遊びにきたのだと思っていたマルカスは、中身もしっかりしている人なのだと驚いた。


 「まぁ、そういうことだから、今回はラスキルを含めたこのメンバーで挑むよ」


 と、アライブが言うとアオが心配そうな顔をしていた。多分知らない人とずっと一緒に居るのが辛いのだろう。実際、マルカスに慣れるまで一ヶ月かかったぐらいだ。

 しかし、マルカスはそれより気になることがあった。彼の持ち物だ。黒い布で覆われている細い棒があるが、おそらく刀ではないだろうかと思う。だとするとかなりの腕前の可能性がある。マルカスもまた剣技には自信があった。能力が低い彼にはこれしか攻撃方法が無いのだ。

 マルカスは聞いてみることにした。


 「ラスキル、その黒い布は……?」

 「あぁ、これはね……」


 彼はスルスルと布を巻き取っていく。そこから顔を出したのは、また真っ黒な鞘だった。


 「やっぱり刀か」

 「やっぱり気付いてたか〜、さっきから君の目線がこれに向いててね、気になってるのかなと思ってたんだ」


 マルカスは、ラスキルがアライブ達と話をしているのにもかかわらず、他の人の視線まで見ていたことに驚いた。この男は何者なのだ。


 「実はこれ、親父の形見なんだ」


 と言って、彼は鞘から刀を引き抜いた。そこからは、使われていたとは思えないほどの美しい刀が現れた。


 「驚いた? 実は手入れしてないんだよ」


 この男、どうやら人の顔を読み取ることが得意らしい。それよりも、手入れしていないということに驚きを隠せないでいた。


 「まさかそれは……」

 「君は何を知ってるの? これはクウォーテだよ。かなり古代のね」


 まさかこんな所で新しいクウォーテに出会えるとは思ってもいなかった。マルカスは恐る恐る、その刀に手を伸ばしたが、ラスキルがそれを制した。


 「危ないよ! 契約を交わした人じゃないと感情を食べられるよ」


 マルカスはギリギリの所で手を引っ込めた。流石に感情を食われるのは勘弁だ。


 「てことだから皆さんも気をつけて下さいね」


 というと、彼は刀を鞘に納め、黒い布を巻きつけていった。誰も触れなかったが、あの黒い布もただの布切れではないはずだ。しかし、そこまで踏み込んで失礼じゃないのかと思い、質問を飲み込んだ。


 すると、アライブは棚から大きな地図を出してきて、テーブルに広げた。

 スウノ鉱山の全体図だった。所々に赤い点が打ってある。


 「この赤い点はなんだ?」


 ライセングが聞くと、アライブはその中の1つを青で塗り変えた。


 「ここの青い点が俺たちの持ち場、それ以外が他のパーティの持ち場。基本的には地形的に丘の上を基準として動いてもらう」

 「敵の勢力とかは分かるの?」


 エルが聞くと、アライブは頭を横に振った。


 「はっきりした戦力は分からない……だけど、もしかすると森の五賢が居る可能性が高い。でも今回は聖輝の八賢の一人が派遣されるから、あまり心配はしなくても大丈夫そうだ。とにかく、今回は絶対的に勝たなければならない」


 アライブは、全員を見渡すと、手を伸ばした。


 「みんなで勝とう。誰一人死なせない」


 そういうと、全員が手を重ね、アライブの叫び声とともに拳を突き上げた。アライブの決戦前のルーティーンだ。




 「あ、そうだ。ラスキルはどこに泊まるんだ?」


 と、ライセングが聞くと、彼は笑顔で、


 「ここに」


 と、答えた。しかも手には大きな鞄を持って。

 マルカスは、アオが居ないことに気がつく。いや、居ないのではない。ライセングの身体にしがみついて震えていた。それにエルが気がつくと、今度はエルに飛びついて、ついに泣いてしまった。

 しかし、アオ以外の全員は笑っていた。まるで今から戦いに行く人達ではないみたいに。


 マルカスは、そんな景色を見ながら思った。



 みんなで帰ってこれますように、と。

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