14話「悪魔復活」
――思い出したんだ。
アライブが言うには、この短剣はただの短剣では無いらしい。鍛冶屋の爺さんが言ってた通り、当時の近衛騎士団長が持っていたのだが、その後行方不明になっていた。はずなのだが、何らかの理由で見つかってしまったらしい。しかし、発見当時はボロボロに錆びついて、全く価値の無い短剣だと思われ、次々に転売されていたと言う。
しかしこの短剣は、使われていないと言われていたのだが、「国の西にある外壁の戦いにて、一撃で敵を葬る者あり」と記された本が見つかっている。おそらくこの本に書かれている一撃とはこの短剣の威力のことだろう。ただ、この威力を出すには発動条件がある。それは…
「それは……使用者の血だ」
マルカスはもう一本の短剣で自らの左手を切った。指先から血が滴り落ちる。マルカスはその血を「売れない短剣」に一滴落とした、瞬間……
「売れない短剣」はパキパキと音を鳴らしながら錆が取れていく。そこから顔を出したのは……
「真っ黒い……刃……」
エルはその短剣に見覚えがあった。昔、絵本で出てきた短剣とそっくりだった。
「もしかして……悪魔の短剣……」
「エル、知ってるのか?」
「う、うん……」
「じゃあこの短剣の言い伝えも?」
「……三万人の騎士の血を吸った魔剣」
「その通り」
エルは言葉が出なくなった。まさか実在した剣だったなんて……
「あははっ! 困ったねぇ。まさかそんなものを隠し持ってたなんてねぇ」
ウノは少し汗を垂らしている。そんなにすごい短剣なのだろうか。
「……我が血をそなたに捧げる。そして、今ここで、契約は結ばれた……」
マルカスがそう言うと、「売れない短剣」は青黒く光りはじめた。
マルカスは、闇に包まれていく感覚がする。これは、前に一度起きている。そして、聞き覚えのある声が、背後から聞こえた。
「やっと、気づいたのね。そんなに力が欲しいの? まぁ、どうするにも貴方の自由よ。私を楽しませて頂戴!」
「当たり前だ……」
返事は無かった。が、いつもより身体に力が満ちている。なんとなくではなく、満ちている。
「そろそろ、血祭りの時間だ」
マルカスは、短剣を右手に持ち替え、構えた。
――考えろ。今までアライブがしてきた動き、相手の無駄な動作。見逃すな。決着はほんの一瞬だ。一撃でいい。全方向に気を張れ。得意だったはずだ。敵察知能力、音の聞き分け、剣の技術。
マルカスは自分に言い聞かせ、歩き出した。ゆっくりと、ウノとの間を詰めていく。ウノは相変わらず不気味な笑顔を浮かべている。
「……その短剣には驚きだけどね、ボク達亜人種の圧倒的な強さは人間じゃ超えられない」
「じゃあ今ここで、俺がお前ら亜人種を凌駕する……!」
マルカスは走り出した。今までにない程の全速力で。
「あははっ! 君は足が遅いねぇ。そんなんじゃ辿り着かないよ?」
と言うとウノは四つの竜巻を起こした。その竜巻はマルカスを囲むように迫ってくる。
「甘いっ!」
マルカスが空中で一回転斬りを見せる。しかし竜巻には当たっていない。だが、マルカスの周りを囲む竜巻は全てが拡散した……
「当たらなくてもいいなんていよいよ反則だよねぇ」
「……」
マルカスは何も言わないまま、進み続ける。
――変えたい。今までの弱い自分から、何もかもから目を背けていた自分から。その一心で書物を読み漁った。人に聞きまわった。やっと、やっと知ることができた。この剣の正体……
「俺は! 俺が! 嫌いだ!」
マルカスから謎のオーラが見える。まるでこの世のものではないような、そんなオーラだ。
「あははっ! この王国にも化け物が居たとはねぇ……聞いてないな」
ウノの顔から笑顔が消えた。代わりに出てきたのは怒りの顔。
「俺の……俺たちの師匠は! 貴様ら化け物に殺されたんだ!」
ウノがハットを投げ捨てる。その瞬間、一気に天候が変わり、強い風が吹きつける。
「ウィンドミキサー!」
唱えると、風が地面を捲り上げ、建物を破壊し、何もかもを吸い込んでいく。エルは、アライブを移動させ、安全なところにいたのだが、そこももう持ちそうにない。
しかしマルカスは臆することなく進んでいく。ウノがどんな攻撃を加えようとも、短剣の一振りで蹴散らす。その姿はまるで「化け物」のように、ゆっくりと、ゆっくりと歩みを進める。
「……これじゃ勝てないねぇ。ここはひとまず退散するしか……」
その瞬間、ウノの目の前までマルカスが来ていた。
「……!」
ウノの喉元に短剣を突きつける。少し動かせば頭が飛んでいくだろうか。
マルカスは今までにない程の高揚感を得ていた。これで、憎むべき相手が殺せると。
「さよならの前に何か言いたい事は?」
マルカスが詰め寄る。
「……俺は……俺たちは……まだ死んだりしない! 今から、俺たちの時代がやってくる! お前らの泣き顔が楽しみだ、あはは……はははは!」
「そりゃ楽しみだ」
マルカスは短剣を思い切り振った。
――まただ。この闇に包まれている感覚。一体何が起こっている?
マルカスは全く分からなくなっていた。確か、さっきまでウノと戦っていたはずだ。なのに何故……
すると、マルカスの頭に情景が浮かび上がる。これは、さっきまでいた場所……
マルカスは、血塗れで倒れているウノ、その側で笑う一人の男がいるのに気が付いた。しかし、なぜか不思議に思った。なぜこのようなものを見ているのか?
答えは簡単だった。ウノの側で笑っていたのは自分自身だった。
全身が震えだした。おそらく、身体を乗っ取られてしまっているのだ。だから、ウノは俺の事を「化け物」などと形容したのだ。
ますますパニックになる。まずい。このままだと何をするか分からない。
しかし、マルカスの見ているマルカスは、予想外の行動を取った。
なんと、自分の喉に短剣を突き刺したのだ。
と同時にマルカスの喉が痛くなり、徐々に意識が薄れていく。まるで深い海に沈んでいくように。
そして、マルカスは意識を失ってしまった。




