第13話「厄災ウノ」
「はぁ……」
つい、溜息が出てしまう。
この司書官とか言う仕事はとにかく退屈なのだ。本が好きならまだしも、特に興味が無いため、目が回りそうだ。
しかも……
「ねぇキッチル! あそこに本置いてくれない?」
「分かりました」
そう言うとキッチルはエルから本を受け取り、テレポートで上の棚に飛ばす。
エルの仕事の出来なさにはもはや尊敬するレベルだ。
「そろそろ……時間になりそうだね」
と言うと、エルは嬉しそうに図書館を飛び出してしまった。相当仕事が嫌だったらしい。
「じゃあ俺たちも……」
本を置いて、図書館を出る、その時だった。
何か大きな物がぶつかるような音がして、その瞬間、図書館に取り付けてあった窓が全て割れた。
本来、静かな場所で心が落ち着くはずなのに、来ていた人達の悲鳴と、高鳴る胸が全てを覆いつくす。
マルカスは嫌な予感がした。持っていたクウォーテが割れているのだ。
「キッチル! 図書館にバリアを張れるか?」
キッチルは、目を合わせ頷くと、手に力を込める。一瞬で青い膜が図書館を覆った。
窓際に行くと、遠くの方で煙が上がっているのを見つけた。
「キッチル、ここは任せた! 俺はエルと合流してあの煙の場所に行ってくる!」
慌てて駆け出したマルカスの足を止めた。
――俺には、何ができる? まともに自分を守れない奴が、人を守る? そういってこれまで沢山の人達を苦しめたじゃないか……そうだ、俺はもともと後方支援。先頭に立って戦うんじゃないんだ。後ろから見守る、いや、見殺しにしてるだけだ……居てもいなくても変わらない存在なら……
身体が震えだす。怖い、のか。
まただ。弱い自分が囁く。
「だけど……!」
だけど行かないといけない。
マルカスは自分の頬を思い切り叩くと、再び走り出した。
売れなかった剣を握って。
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ゆっくりゆっくりと間合いを詰める。倉庫は、コンテナがあり動きにくく、加えて薄暗い。接近戦はかなり厳しい状況だ。
「あははっ! まぁ、フェアな戦場だよねぇ」
「……」
アライブは指先に力を込める。体力が無いため覚醒状態はピンチの時だけしか使えないだろう。と、ウノが指を少し動かす。
その瞬間、アライブの顔に空気砲を撃ち込んでくる。
「う……えっ……」
アライブは身体を上手いことひねらせ、攻撃を避けるも一撃食らってしまった。
――全く間合いを縮めることができない……
どうすりゃいい……
得意の炎魔法は既に電池切れだ。
アライブはコンテナの陰から攻撃の隙を伺う。が、ウノは動いてこない。
アライブはここでコンテナから飛び出し、一気に間合いを詰める。
「フラッシュ!」
あまり使わない光の魔法。しかしこれはただの目眩しにしかならない。が、彼の動きの速さからしてみれば、十分すぎるほどの時間稼ぎだ。
「うらぁっ!」
拳に精一杯の力を込めて何も見えない光を殴る。
しかしそこにウノの姿は無い。
「あははっ! びっくりしちゃったよ。でもね、一つ良いことを教えてあげるよぉ」
彼はアライブの背後に立っていた。
――今の魔法で見えなくなったはずじゃ……?
「ボクね、空気の動きが読めちゃうから、キミが動くと空気が振動して居場所が分かるんだよ。特に密室はほぼ座標を特定できる」
そう言うとウノはにやにや笑う。
「その身体じゃ無理なんじゃない? あははっ! 弱いってどんな気分なのか教えてほしいな」
怒りに耐えられず、アライブが振り返った瞬間、彼の身体に細い空気砲。
「うぐっ……う……え……」
アライブは堪らずコンテナの上に倒れる。せっかく治療してもらった身体から、真っ赤な液体が流れ出す。
「やばい……血が……」
ほんの少しだけ覚醒状態に入る。が、もう戦えない。彼の身体は見た目以上のダメージを受けているからだ。
その時だった。アライブはコンテナの中身が白い粉であることに気がつく。
「これは……」
「おっと、これは困ったね」
どうやらウノも気が付いたようだ。ウノは上に飛び、空気を操ってコンテナをひっくり返す。中からは白い粉が大量に出てくる。
「あははっ! ボクもキミと死ぬのはやだよ」
ウノはそう言うと空気中の粉を一つにまとめる。
「や、やめろ……ぐぇ……」
アライブは必死に手を伸ばし、制止しようとするが、ウノは胸ポケットからライターを取り出す。
「まぁ、ここでお別れだね。あはは! 次生まれる時はもっと才能を持つべきだ」
そう言って彼は白い粉の塊にライターを投げ入れる。その瞬間、目の前で大爆発が起きる。凄まじい音と威力にアライブは吹き飛ばされる。身体が宙に浮いて、身体が焼けそうだ。前を見るとそこには、ウノの不気味に笑う顔だけが残っていた。
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「マルカス! なんだと思う?」
「分からない……それよりも急ぐぞ!」
無事合流したエルとマルカスだったが、混乱した人々が逃げ惑う街中では動きにくい。
「作戦とかあるの?」
マルカスは、少し悩んだあと、こう答えた。
「そんなこと考えられるほど余裕は無いよ」
と、煙の場所までもう少しだ。しかし、エルは少し違和感を感じた。
「風の流れが乱れてる……まさか……」
「ウノか……? そんな……」
二人はさらにスピードを上げて目的の場所まで走る。どうやら裏道を通らなくてはならないらしいが、爆発のせいで辺りの家は殆どが吹き飛んでしまっていた。その時、
「あははははは!」
予想通り。最悪だ。顔を見なくても分かるその無機質な笑い声。
しかし姿が見えない。すると、一つのコンテナが空中に飛び上がった。
「……!」
声が出なかった。そこに居たのはウノと、アライブ。ウノは、ボロボロになり足先から血を滴り落としているアライブを掴んだまま笑い続ける。
「ちっぽけな正義のために自分の命を犠牲にするなんて。あははっ! これだから人殺しはたまんないんだよねぇ」
そして、ウノはこちらの姿に気がつくと、
「あら、遺体回収お疲れ様」
と言うと、アライブを投げ捨てた。
咄嗟の所でエルが飛び付き、守ったが、身体からは真っ赤な血が流れていた。
エルが声をかけたが、反応がない。本当に死んでしまったのかと思った矢先、
「エ……ル……女の子と……男の……子が、どこかに居るから……探してくれ……」
マルカスは口から血を吐き、喘ぎ喘ぎ喋る。
「だめ! 喋らないで!」
「だめ……だ……女の子と……男の子……が……待ってるんだ……助けを……助けなきゃ……助けなきゃ……」
「……」
アライブは手で必死に地面を掻き、進もうとする。しかし……エル達は気が付いていた。
「アライブ……実はね……」
「見つけ……たか……?」
「実は、ここに来る前に、一人の女の子の死体を見つけたんだ……」
アライブは、その言葉を聞くまいと、必死に耳を押さえる。
「嘘だ……そんな……こと……嘘だ!」
アライブは諦めようとはしなかった。それが、誇らしくも、惨めだった。
「……くそ……うぅ……ぐぞっ!」
アライブは何度も何度も拳を地に叩きつけたが、その拳さえ弱々しかった。
「あははっ! まぁ、ボクはあの少女にマントを羽織った人を連れてこいって言っただけなんだけどね」
そう言ってウノは地面に降りてきた。
「うーん……そっちはもう戦えなさそうだね」
そう言ってアライブを指差す。
「でも、後ろの男の子がなんだか……厄介な物を持ってるねぇ」
そう言うと視線を二人の後ろに、すなわちマルカスに向けた。
マルカスは、片手に「売れない短剣」を握り、怒りに震えていた。彼の目は、死を覚悟した人そのものだった。
「ウノ……てめぇは俺が殺す……!」




