第10話「双子と双子」
「待てー! 止まらないといじわるしちゃうぞ」
「きゃはは、おねーちゃんこわーい!」
――朝から屋敷には賑やかな声が響いていた。二人で鬼ごっこをする仲良しの双子、アカとアオの声だ。ドタドタと廊下を駆け回る音は、なぜか懐かしさを感じる。
そう、ライセングは思った。
「でも、汚さないように気をつけるんだぞ」
「はーい!」
二人は手を挙げて返事をする。ライセングは、まるで双子の親にでもなったような気分だった。
悪くない、そう心の中で少し笑った。まさか俺が、二人の保護者なんてな……
ライセングは大きく伸びをして、廊下に出た、のだが、外は朝とはいえもう日差しが出ている。明るいのが苦手な亜人種にとっては、苦痛でしかない。
彼は、慌てて窓に取り付けてあるカーテンを閉めた。エルが、「おしゃれなんだよ!」と言って、模様の入ったカーテンを付けたが、模様のところから少し日が差す。彼は、カーテンとしばし対峙したが、対処方法が分からないので諦めた。
すると、双子の二人が足にしがみついてきた。
「ライー! お腹減ったー」
「僕も……お腹減った」
そういえば、まだ夕食を済ませていなかった。今日は任務がないから、と忘れていた。
「悪い悪い、今から作るから大人しく待っておいてくれ」
またしても二人は「はーい」と手を挙げて返事をして、走ってどこかへ行ってしまった。
ライセングは、やれやれと二人の影を見届け、厨房に向かった。
――卵とパンとハムとレタスがあるので、適当に作っておいてください。
厨房に入ると、そう書かれた置き手紙があった。字を見る限り、キッチルだろう。料理下手な男二人を心配して、わざわざ気を遣ってくれたのだ。
ライセングは、ありがとうと呟くと、置いてあった材料を全部挟んでサンドイッチにした。
つもりだった。しかしその料理と呼べるのか不安な食べ物は、サンドイッチよりも余り物を積み上げただけの料理だった。
ライセングは、アカとアオを呼んだのだが、二人はその料理を見るなり、
「ライってば男料理ー!」
「食べれるの?」
と、失礼なことを言ってきたが、彼自身、正直反省していた。何も言い返せず、無言で食べ始めた。
「アカ! アオ! これはこれで美味いぞ。大丈夫だから食べてよ。ね?」
アカは、「うー……」と言いつつも、一口、美味しいと食べてくれた。
それを見たアオも、大丈夫だと思ったのか、ゆっくり口に運んだ。おいしい、と笑ってくれた。
「でもでも! ライはもう少しお料理練習しなきゃダメだよ!」
「う、分かってるよ……」
まさかこんな小さな女の子に叱られるとは思ってなかったが、事実、そろそろ料理の練習をしておかないと、キッチルに迷惑をかけ続けることになってしまう。ライセングは反省したように頭を垂れた。
「おねーちゃん、これ食べたらまた鬼ごっこしよう」
「いいよ! じゃあどっちが早く食べるか競争だね!」
二人は反省する大きな男を無視して話を進める。しかもアオは早く食べる気がなく、急いで食べているのはアカだけだった。彼女は急ぎ過ぎてむせていた。
「そんなに急ぐから……ほら、水だよ」
「……ゴクッ、ゴクッ、ぱぁ! ライありがとう! ライの料理で死んじゃうところだったよ」
「おねーちゃん、それはライに少し失礼だよ……」
失礼なアカもアカだが、アオよ、それはフォローになってないぞ。
と、そんなライセングを他所に、二人は早々にだ食べ終わって食堂を駆けていった。
――一人寂しく大きな体を曲げて食器を洗っていた時だった。ドタドタと足音が聞こえるので、廊下に出て、注意しようとしたのだが、様子がおかしい。今まで二人でいたはずのアカが居ないのだ!
「お、おいアオ! 何があった」
「おねーちゃんが、アカが……助けて……」
アオは泣きながら指を指す。中庭の方だ!
ライセングはアオを抱えて走り出した。中庭の方から獣の咆哮が聞こえる。おそらくアカの覚醒状態。ただ事ではないことが分かる。
中庭に着くなり、ライセングは驚いた。アカが黒い服の四人に囲まれているのだ! しかしそこは百戦錬磨の騎士、ライセング。アオをその場におき、脊髄反射で近くの一人を殴り飛ばす。残りの三人がライセングに気付いた。
その時、中庭の真上に一人の男が飛んでいた。
――その男の名は、レフライオ。
彼は着地するなり、ライセングに向かって、
「久しぶりの外に出てみりゃこれか……全く運の無い男だなぁ俺はぁ……」
「レフライオ……!」
「やぁ、兄さん。何年振りかねぇ、二人で協力して任務をこなすってのは……」
レフライオはそう言うと、敵に向き直り、
「安心しろぉ……地獄には送ってやらねぇからよぉ」
と言い、敵に飛びかかった。
*
「おぎゃあ!」
生まれた時は誰もがそう叫ぶ。それは、「決まり」ではなく、「当たり前」だったのだ。
しかし、生まれた双子の兄弟は、なぜか泣かなかった。これを見た住民は、それほどの力の持ち主と、讃えた反面、恐れていた。もしかすると、魔王の使い魔なのでは、と。
しかし実際、魔王など居ないのだが、彼らはその迷信を信じており、恐れた。
が、双子の兄弟は住民の期待を裏切るように、正義感に溢れ、いつしか村の人気者となった。
そして、彼らは大きくなり、村の騎士団に入った。騎士団とは言っても小さなもので、ほとんどの時間を村の発達に従事していた。
そんなある日、大きな音と共に、村の外壁が壊された。住民は、騒ぎ暴れまわり、村は大混乱に陥った。しかし、二人の双子は、全く慌てなかった。むしろ、久しぶりの戦闘に、興奮していた。
壊された壁から武装したトイランの兵士が流れ込む。一斉に火を放たれたが、二人の双子は全く怯えず、また、興奮するのである。これが、戦争か、と。
彼らはその拳に大きく力を込めると、狙いも付けず、大きく振り回した。身体が大きいので、あまり気にしなくていいようだった。
その後、二人で敵勢力を潰した彼らは、本当の意味で、村のヒーローになった。しかも、ほかの騎士団員のお陰で、火があまり派手にならずに済んだ。これもこの小さな騎士団のお陰だ、と、住民は彼らを讃えた。その月は、ずっとお祭り騒ぎだった。
その二人の強さを聞いた王国は、近衛騎士団に勧誘した。双子は、悩みに悩んだが、王国の誘いに乗った。しかし、なぜか双子の一人は騎士にならないと言い出したのだ。彼は、騎士団の医者になりたいと言い、名医と言われる凄腕の医者の元に弟子入りしたのだ。そして残された双子の片方は、必死に努力し、三年で小隊のリーダーを任されることになったのだが、その矢先、王国は孤児のための政策に打って出た。その時作られたのが辺境防衛騎士団である。そしてその監視役を頼まれたのが、ライセング、その騎士団の医者に就いたのが、レフライオだった。
*
レフライオは素早く敵に飛びつくと、引き抜かれる剣を叩き壊し、逆手で顔面を握り潰す。
圧倒される中、ライセングは敵の首を噛み千切る。敵は恐れるような表情はしていなかった。むしろ、しっかり任務を遂行した達成感で満ち溢れた顔をしていた。
「……兄さん……後は一人なんだけどよぉ……生け捕りにして、色々聞き出そうぜ」
そう言うと、レフライオは敵に小さな針を撃ち込んだ。その瞬間、敵は膝からバタリと倒れこみ、眠ってしまったようだ。
「この麻酔は、効果が出過ぎるなぁ……」
そう言うと、レフライオは部屋に引き揚げていった。
「おねーちゃん!」
そう言い、泣きながら走ってくるアオが見えた。アカは先程暴れ回ったせいか、疲れ果てて、覚醒状態が解けていた。ライセングは泣きじゃくるアオと、眠るアカを抱いて部屋に戻った。殺した敵は消えていた。どんなトラックかは分からないが、そんな事興味は無い。
「おねーちゃん……起きてよ……」
ぐすっぐすっと鼻をすすりながらアオはまだ泣いていた。ライセングは何とか安心させたかったが、どうしていいか分からず、とりあえずアオとアカの側にいてやった。
――目を覚ました生け捕りにした敵に気が付いた。どうやら状況を理解したようで、彼は自殺しようとしていた。
「申し訳ないがぁ、自害用のナイフは貰っておいた」
そう言うとレフライオは、透明な袋に入ったナイフをひらひらと見せた。
「ところで、お前はぁ、なぜここを襲った?」
「……」
「……言わないなら今すぐここであの世送りにしても良いんだけどぉ?」
「……分かった、言うよ」
そう言い、彼は観念したように喋り始めた。
内容を要約すると、彼らは正式な騎士ではなく、雇われただけだと言う。そして上からの指示は、辺境防衛騎士団本部のアカを連れてこい、と言う命令だったそうだ。なぜアカにこだわるのかは分からないが、彼は、何も知らないのだと言うことが分かった。
そして、レフライオは、敵には興味が無く、初めから殺すつもりだったのだろう。大量の薬剤を投与した。恐怖に引きつった表情は今までに幾度となく見てきたが、なかなかに面白い……。
とにかく、この一連の騒動は収まり、ようやく静かな一日が……
「ライ! ライも隠れんぼしよーよ!」
「みんなでやる方が面白い……!」
そう言われ、無理やり手を引っ張られて連れて行かれるライセング。全く元気な双子だ、と苦笑した。
しかし彼は、アカが元気になってよかったと、一安心していたのもあり、二人の隠れんぼに付き合ってあげることにしたのだった。




