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第三十三話  ベイオウルフ

 フィリスと会った四日後。

 僕は、チーム・ドルフィンのミーティングへとむかった。


 今日は、ギュンター率いる首位のベイオウルフと二位のレオとの直接対決がある。

 この試合で、レオが勝利すれば、一位は逆転。得失点差を考えると、僕たちドルフィンに大変有利になる。

 僕たちは、対レオ戦の偵察もかねて、みんなでこの試合を観戦することにしていた。


 定刻の五分前、ロッカールームには、全員の姿があった。ここ最近、集まりが悪くなっていたが、これは、いい傾向だ。


 僕は、みんなに、久しぶりにフィリスに会った話をした。

 みんなとしては、この間までの僕とおなじように、現状の閉塞感を打開するアイディアをフィリスが持っているのではないかと期待していた。


「フィリスは、僕たちにかならず勝ってほしいと願ってる」


 ……これは、ウソではない。


 ただし、僕は、そのためにフィリスが提案したプランについては、報告をしなかった。

 みんなは、彼女を天使か妖精のように思い、いつのまにかドルフィンのマスコットガールや勝利の女神、妹、神、等々に各人が勝手に祭りあげている。その夢をこわすこともないと思ったのだ。


 どうせ、あんなプランは、参考にならないのだから――。


 みんなには、とにかく優勝するには、いままでに倍する練習をやり、モチベーションを高めるしかないと伝えた。

 それを、フィリスからの声援ととらえたみんなは、がぜんやる気になった。彼女がやれるというのなら、きっと自分たちは優勝できる。そう信じ、ラストスパートにむけて、闘志を燃やしているのだ。


 僕としては、その誤解をあえてとくこともないと考えた。

 フィリスは、僕にかならず優勝してほしいといった。

 だから、ウソではないのだ……。


 僕は、みんなをつれて、競技場へとむかう。今日の試合は、いままでの戦績からみると、チーム・レオの勝利におわる可能性が高い。


 レオとドルフィンの対決であれば、うちが最終的に勝利する確率はかなり高くなる。まあ、六割といったところか……。

 だが、その先にあるのは、ドルフィンの優勝だ。ならば、六割の勝率を、七割、八割にあげていかなければならない。


 この観戦も真剣勝負のひとつと僕は大いに気合いを入れて、ベイオウルフとレオの試合にのぞんだ――。

 


「マ、マジかよ……」


 アレッサンドロは、あまりのことに唖然として、手にしたカップを手放した。

 ほかのチームメンバーもおなじだ。みな、信じられないものをみる目で、競技場を見つめている。


 そして、僕はといえば、ほかのだれよりも大きなショックをうけていた。

 心臓を貫かれるような衝撃とともに、僕は、競技場でくりひろげられる光景を凝視する。


 ――そう、ベイオウルフ対レオ戦は、開始直後から、事前の予想とまったくちがう展開になったのだ。


 試合開始時、観覧席のモニターに、両チームのフォーメーションが映しだされていた。 モニター映像からは、フォッグによる視界制限が削除されているので、僕たちは、そのすべてを見ることができる。


 僕が意外に思ったのは、ベイオウルフのフォーメーションだった。彼らは、いままでかたくなに旧来の陣形で通してきていた。

 だが、今回は、ドルフィンがはじめた、サブリーダーをつかった三ユニット制を導入していた。いまだに盲腸のように剣を着装しているものの、彼らもようやくあたらしい戦術に目覚めたのかと、僕は、苦笑いした。


 だが、ゲーム開始わずか一分で、僕の笑いはひきつることになった。


 まずベイオウルフは、ボールを手にしたレオの選手を集団で襲い、これを撃破。リタイヤに追いやった。

 ここまでは、かつてよく見た光景だ。


 だが、その後もベイオウルフは、ボールによる得点になんの興味も示さず、ただ、相手を攻撃するきっかけとしてボールを使い、次々にレオの選手をプレイ不能に追い込んでいく。

 それは、群れで狩りをする狼が、次々と草食獣を屠っていく姿に酷似していた。


 レオの選手は、ひとり、またひとりと、翻弄され、攻撃され、引き裂かれて消えていく。

 いっさいの手加減もなく――。


 客席では、当初、はげしいブーイングがまきおこった。だが、目の前で、レオの選手が、負傷し、退場していく光景に、だれもが言葉をなくし、凍りついたような沈黙が観覧席を支配していく。


 どこからか、女の子のすすり泣きがきこえてくる。


 ――もはやこれは、スポーツではなかった。


 たしかに、死者はでていないだろう。けれど、これは、あきらかに戦闘行為でしかない。ベイオウルフは、きわめて効率的に、敵を撃破し、進撃していった。


「ベイオウルフは、どうしちまったんだ!? こんなことってよ!」


 アレッサンドロが、わめきたてる。


「け、けど、たしかにルールを破ってはいないわ。でも、それにしても、ひどすぎる……」


 つねにクールな態度をくずさないサラフィナですらも、はげしく動揺し、かたわらのシィインにしがみついている。


 僕はといえば、座席にしがみつき、あえぐようにしながら、すべてを目に焼き付けていた。

 どこか、ひょっとしたら、相違点が見つかるかもしれないと思ったからだ。


 そう、フィリスが、僕に告げたあの悪魔のプランとの――。


 僕は、信じたくなかったのだ。いま、繰り広げられている惨劇は、すべて、ギュンターが考え、指揮していることだと思いこみたかった。


 だが――。


 ベイオウルフの戦術、フォーメーションは、すべて、四日前に、フィリスが見せてくれたシミュレーションそのものであった。


 こんな偶然はありえない!


 だとしたら、考えられることは、ただひとつ。

 だが、僕は、それを認めたくはなかった。


 そんなこと、あるはずがない!


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