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第三十四話  ギュンター

 ……結局、この試合は、前半35分、チーム・レオの試合放棄ということで、チーム・ベイオウルフの勝利となった。


 僕は、その結果をみる前に、観覧席から抜けだし、急いである場所へとむかう。

 その時の僕は、ひとつのことで頭がいっぱいだったために気がついていなかったが、勝利したベイオウルフへの拍手は、まったくなかったそうだ――。


 僕は、競技場からロッカールームへとつづく通路で、彼をまった。

 ほどなくして、プロテクトスーツをつけた一団が、こちらへむかってくる。みな、ヘルメットをはねあげ、上気した顔は、汗でぐっしょりとぬれている。


 その先頭に、僕が会いたかった男がいる。


「ギュンター……」

「ああ、クロフォードか。どうしたのかな、そんなに恐い顔をして?」


 ギュンターのまわりの選手たちが、すばやく動いて、彼をかばう。さすがに、よく訓練されている。


「ああ、いいんだ。ちょっと話をするだけだから。そうだろ、クロフォード?」


 ギュンターは、さわやかな笑顔をうかべる。


「ああ……」

「そういうことだ。すまないが、先にいってくれ。すぐ終わる」


 ベイオウルフの一行は、こちらをにらみつけながら去っていく。通路には、僕とギュンターのふたりだけが残された。

 僕と二人になっても、ギュンターの笑顔はそのまま顔に張りついている。

 いや、口許に皮肉っぽい微笑が追加でうかんでいた。


「……この間とは逆の立場になったな、クロフォード。僕たちの勝利を祝いにきてくれたのかな?」

「勝利!? あれが、勝利だっていうのか!?」

「もちろん、完璧な勝利だとも。そして、これからも勝ちつづける。優勝は、我々ベイオウルフのものだよ」

「ギュンター!」


 僕は、おもわずギュンターにつかみかかる。だが、素手ならともかく、プロテクトスーツを身につけた彼とまともに組み合えるわけはない。低重力下、ギュンターにはじき飛ばされた僕は、壁にたたきつけられる。


「うッ!?」

「ふん、なにを血迷っているんだ? くやしいのか、我々が勝利する力を手にいれたことが?」

「……ギュンター。あの戦い方は、君が考えたものじゃないだろう!? いったいだれから教わったんだ!? どうやって手に入れた!?」

「なんのことかな?」


 ぞっとするような冷たい瞳で、ギュンターは、僕を睨めつける。


「ごまかすな! 僕は、知っているんだ。あのプランのことを……」

「なんのことかわからないといっているだろう」


 ギュンターは、僕を見下ろす。


「……それに、知っているなら、ドルフィンもやればよかったじゃないか。もっとはやくにな。そうすれば、ずっと楽に勝てただろうに――」

「勝つためとはいえ、あんな卑劣な手段を使うわけないだろう!」

「なぜだ? どこが卑劣だ!?」


 ギュンターは、僕に近づくと、胸倉をつかんで宙に持ちあげる。

 プロテクトスーツの力に、僕はあらがえない。


「あれは……スポーツじゃない。君にだって、それはわかるだろう……」

「わかっていないのは、クロフォード、君のほうだ。ファウンデーションボールのルールは、我々の戦い方を肯定している!」

「バカなことをいうな……」

「なにがバカだ。剣を完全に放棄して戦う君たちの戦いだって、僕にしてみればバカなものだった。だが、あれもルール違反ではない。おなじように、剣を最大限に生かす我々の戦いも違反ではない。ようは、戦いにどう勝つか、そのちがいでしかないんだ」


 彼は、自分の目の高さまで僕を引きずり上げる。


「――予言してやるよ。明日から、すべてのチームが、ベイオウルフの戦術を模倣するだろう。ドルフィンがひろめたスポーツごっこの時代は終わったのさ」

「そんなことはない! みんなそこまでして……」

「そこまでして、なんだというんだ? 目の前に勝つ手段があれば飛びつくのが人間さ。もっとも、最終的に勝利するのは、ベイオウルフだがね」

「だ、だが、委員会が、あんなことを許すはずがない。たとえルール違反ではなくとも、みんながボールやゴールもかえりみずにつぶしあうばかりじゃ、ファウンデーションボールは、終わってしまう!」


 その自分の言葉に、僕はハッと息をのむ。

 このおそるべきプランを説明するとき、フィリスは、いっていた。もう後戻りはできない。優勝するしかない、と。


 彼女は、これがパンドラの箱をあける行為だと知っていたのか? 知っていて、僕のどうあっても優勝したいという願いにこたえて、箱をあけたのか?

 だとしても、なぜ、僕が拒否したプランを、ギュンターに実行させる?


 なぜだ!?


「ベイオウルフとドルフィンの直接対決は、あと一回残っている。その試合を楽しみにしているよ、クロフォード。僕は、君がきらいだった。地球生まれということで、いつも僕たちを宇宙生活者を馬鹿にしたように遠くからながめ、けっして交わろうとしない。その傲慢な態度に吐き気がしていたんだ――」

「っ!? ち、ちがう、それは……!」


 馬鹿になんかしていない! そう言おうとした僕を、ギュンターは廊下に放り投げる。


「だから、徹底的に叩きつぶしてやる! 上の奴らのプロパガンダなどではなく、宇宙生活者こそが、これからの時代をになうものだということを証明するために――」


 ギュンターは、踵をかえす。


 僕は、その後ろ姿を声もなく見送るのだった――。

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